野ウサギと木漏れ日亭 #ウサれび 【電子書籍化作業中】
霜月サジ太
プロローグ~"野ウサギ"と"木漏れ日"~
「やっと完成したぁ」
晴天。
新緑。
清々しい天気。
輝くような青と緑を背景に、出来上がったばかりのやや小ぶりな二階建て木造建築がよく映える。
映えるはず。
映えるったら映える。
映えてくださいお願いします。
「どうするんだ名前?」
「名前?」
問われてボクはきょとんとする。
「宿の名前。まさか考えてないんじゃ……」
「考えてないよ? ……いるの? 宿屋じゃダメなの? YA・DO・YA」
未知の生物を見るようなキミの目線が痛い。
「おいおい……」
「旅人の宿、とか?」
「宿屋というものは十中八九、旅人のためです」
「困ったなぁ」
ボクは眉間に
隣から、はぁ、と聞こえた大きな溜め息。絶対わざと。そういうやつだキミは。
「……ここをつくるに当たってどんな想いを込めたんだ? どうして宿をつくった?」
真面目か。
けど、どうせならかっこいいほうがいいよね。
「……帰る場所、かな」
「帰る場所?」
「ほら……、冒険者って根無し草でしょ? 同じところに留まらない。
「まぁ、そうだな」
「だから、そんな人たちの――キミやボクも含めて――"ただいま"が言える場所、"おかえり"を言ってあげられる場所があったらいいなって。帰る場所があったら安心して旅ができそうじゃない?」
「それで、宿?」
「うん、ボクがいつも同じ場所にいるとも限らない、ボクがいつまでいるかもかもわからない。でもさ、こうやって建物になってたらさ、しぶとく存在してそうじゃない?? そりゃ、嵐が起きたり戦争とか侵略があったらひとたまりもないんだろうけど……迎えるのがボクじゃなかったとしても、誰か想いを引き継げる人がいるなら――人一人よりはずっと存在している可能性があると思って」
「お前にしてはよく考えてるな」
「ひどっ!! いつも考えてないみたいじゃん」
「違うのか?」
「うう~!」
ボクは地団太を踏む。
「……とにかく、今のそういった気持ちを名前にしたらどうだ?」
言われ、はたと考える。
「……おかえり亭?」
「壊滅的なセンスだな」
「なんだよー!! じゃあ何か言ってみてよ!」
キミは右手で無精ひげの生えた顎を擦りながら逡巡。
「……木漏れ日」
「へ?」
「木漏れ日。森の中で木々の合間から差し込む陽の光。優しい暖かさで落ち着くじゃねーか」
「へぇ。意外とロマンチストなんだ」
フフッと思わず笑みがこぼれてしまう。
「お前が言えって言ったんだろーが」
「ごめんごめん、けなしてるわけじゃないよ。――すごく……いいなって思って」
「褒めんな気持ち悪い」
「ひど」
「ただな……木漏れ日亭ってどっかにありそうなんだよな」
悩むとき後頭部を掻くのはキミの癖。
「何か
「なんで?」
「いるじゃん。ほら、あそこ」
ボクが指差す先。
白いの黒いの茶色いの。
ぴょこぴょこ跳ねたり、はむはむしたり。
「確かにこの辺はあいつらの生息地だな」
「
「食い気かよ……」
「なんだよ!」
「ま、お前がオーナーなわけだし。いいんじゃないか?『野ウサギと木漏れ日亭』で」
「へへ-。ボクって天才だね!」
「はいはい」
◇
これだけ言っておいて……
「つまんない―!やっぱりボクは待ってるのは性に合わないー!」
って人に全部押し付けて飛び出していくなんて誰が思うよ……。
あの野郎…………。
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