武蔵七党(むさししちとう) 武蔵野7(むさしのセブン)
横浜流人
第1話 第一話 武蔵国の七人
今では関東地方と称せられるこの地域を、奈良・平安の時代、奈良・京の都から東に遠く離れた場所として、坂東(ばんどう)・東国(あずまのくに)と呼ぶことがあった。
関東にあった武蔵国は、台地が広がり牧畜に好都合で、関東にいた人々が馬飼部として牧畜に携わったことから、多くの牧(牧場)が存在していた。その中から、数多くの中小武士団が生まれた。
江戸時代末期の、新選組まで繋がる坂東武者(ばんどうむしゃ)だ。
後に、牧の管理者の中から
これは鎌倉幕府成立前の、かなり前の昔のオハナシ。
平家の世などと言われた時代よりも、ず~っと前のお話。
武蔵野の草原を眺める丘の、その土手の木陰に、長い草の穂を
その丘から
その駆け抜ける音、地響きに、野が揺れる。
それを薄目を開けて眺める将門。隊列は、進みを緩め、ゆっくりと歩み始めた。隊列の、先頭には、武蔵野の牧の有力者、秩父氏を取りまとめている爺さんが位置し、この隊列を率いている。「秩父のジイ」と、皆に呼ばれている
隊列の後方にいた騎乗の少年、和田次郎が、将門に手を振りながら近づいて行く。
「将門さま~、こんにちは!」
土手に寝転がっていた将門は、半身を起して片手を上げる。
「ヨッ!秩父のジイの孫息子!また、都まで馬の
「はい!毎年のことです」
「あんな、都のバカ達に、この駿馬をクレてやらなければならん、とはな……、昔の、
将門は、脇に置いておいた弓をとり、空に向って一矢を放った。すると少年の手元に、矢の刺さった
「秩父の!食事用に持って行け!」
と、少年の抱いた矢の刺さった
「有難うございます。将門さま!それでは、行ってまいります。将門さまも、お気をつけてお帰りくださいませ!」
将門は、次郎少年の言葉に、
「ああ、ここは、良い所だの。広々とした牧に、駆け回る馬。雄大なところだ。ワシはここが大好きじゃ」
と応え、また、
「この剣をオマエにやろう」
と、言って、一振りの幅広の古代刀を、次郎の方に差し出した。
「今の刀が役に立たなくなった時に、この剣を使え。お前が持っておくのではないぞ!やたら使う物ではないから、香姫にでも預けておけ。その剣を創り出したオカタは、たぶん、香姫に宿られておる」
と、将門が言い終えたところで、次郎が馬を降りて、将門に近づいて来た。
そして、将門から剣を受け取り、マジマジと剣を見つめた。将門は、
「その剣は、都のアル神宮に秘蔵されていた物。ワシが都を去る時に、頂戴して来た。熱田神宮に祀られておる三種の神器のひとつ「草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)」と同じ時に同じく造られた物だそうだ。この剣は、身を守るものではなく、実戦に用いるための攻撃的に造られた剣で、天火雲剣(あめのひくものつるぎ)と言われるものだ。この剣は、炎を操ると言われている。ワシも何度か、一振りしたことが有るが、上手く使うことも、
そう言うと、将門は、また、寝転び、目を閉じて牧の風と香を感じているようだ。
少年は、将門に一礼して騎乗し、馬を駆る。そして、隊列の先頭の秩父のジイに鳥を渡して、将門の方を指さした。秩父のジイは、将門の方に一礼した。そして、次郎は香姫の元に行き、将門から授かった剣を香姫に渡す。
「将門さまが、俺にこの剣を
香姫が、マジマジと眺め、剣を受け取った瞬間、その剣は、香姫の体の中に消えていく、そんな感じで剣は消えたのだった。それを見ても、何事も深刻には考えない次郎である。
「あれ、カオリ、お前、剣を何処かに捨てた???」
と、聞くくらいだ。
香姫が、
「大切に持ってるヨ、預かっとく」
と、言うと、納得して持ち場に帰るのだった。
秩父のジイは、隊列をゆっくりと動かした。次郎は、隊列の最後段に戻る。同じく、しんがりに横山の香姫も将門の方に一礼をし、馬を進めた。
この武蔵野の少年たちと、
将門は、都で役人としての出世をあきらめ、この武蔵野の東隣の国に帰って来た。彼は領主の息子、嫡男である。都から帰って来たバカリの頃、将門は、ちょくちょく武蔵野の広野とも牧(牧場)とも言えるコノ地に来ては
将門が、武蔵野の草原を眺める丘、この土手の近くの川辺で、
その少年は、腰に差した二本の木刀のうち一本を抜き、将門を指すようにして注意する。その少年、次郎は、将門に対して大きな声をあげた。
「オイ!おまえ!こんなところで小便なんかすんじゃネエ!ここから、下は、馬達の水飲み場だぞ!」
少年に怒られていると分かった将門は、恥ずかしさも有り、全身を震わせて怒りを
「オイ、オイ、随分、生意気な口をきいてくれるじゃないか⁉ワシを誰だと思っておる⁉」
「知らんわ!ただの小便たれじゃ!」
「俺はな、となりの国の
と、言い放った時に、少年は、その将門の
「オイ!コラ!聞かんか、小僧!」
と、将門は少年の後を追った。
少年、和田次郎は
「小僧!」
と、飛んで来た矢を払い除け、刀を向いて少年に切りかかろうとした。少年は、その丘を駆け慣れているようで、追って来る、将門を右に左に
将門は、投げつけられる物を交わしながら、丘を駆け上がり、最初に自分に弓を引いた少年、和田次郎につかみかかる。その時である。少年の様な、少女のような、横山の香姫が両手を顔の前で組み、呪文のような物を唱える。
その時、香姫が、
「アッ、ヤッチマッタ!!」
という様に叫び声をあげた。そこら中の物を手あたり次第、投げつけていたら、芋虫のような虫を次郎の方に投げてしまったのだ。次郎は、虫が大の苦手。次郎の顔にくっついた香姫の投げた芋虫を手の中で見をつめた。
「ぎゃ~!カオリ!てめ~」
と、香姫を睨みつけたものの、芋虫への恐怖で力が抜ける。香姫がアッカンベ~と、次郎にして見せた。次郎は、ここで逃げ回る気力も力も抜けてしまった。将門は、やっとの思いで、和田次郎を捕まえた。
「このガキ!よくも人に矢を放ってくれたな⁉」
とは言ったものの、将門は、七人の子共たちに囲まれている。それに、彼らは、各々、武器になるものを手に持っていた。
将門は、
「このガキども!ワシが
と、タンカを切って少年たち一人づつを、相手にしようとしていた。少年たちは、二人一組で二組というか、四人がかりで、代わるがわる交代しながら将門を攻めて来た。
苦戦する、将門。
少年の様な少女の横山の香姫が、竹串を右手に挟んで、将門に投げつけようとしていた。
将門は、捕まえていた次郎を離し、
「分かった、分かった、ワシが悪かった。おまえらの勝ち!勝ちじゃ!降参する。じゃ~が、戦い方が、ガキのケンカじゃ!
この時からである。将門が、武蔵野の七人に、戦い方を教え始めたのは。
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