第6話 人間らしい生き方

「中に入ってみますか。もしかしたらただの幻影という線もありえなくはないですし」


 俺は恐る恐る申し出る。


「まったく。アレスくんは自己評価が低いなぁ。ちゃんとこうして触れられるじゃないか」


 レイカさんは城壁を手で押してみせる。


「【ゴミスキル】とか言われたのがショックだったかい? それとも実の兄に殺されかけて悲しいのかい?」


「どっちもです」


 俺が即答すると、レイカさんは呆れたように笑った。


「ここで慰めの言葉をかけてもしょうがないから、敢えてこう言おう。そんなことはどうでもいいんだよ」


 レイカさんはきっぱりと言い切った。心ない言葉だが、こうもはっきり言われると逆に清々しい。


「もっと言えば、君のスキルがゴミスキルでなくチートスキルだった事実もどうでもいい。大事なのは、いかに自分らしく? いや違うな。いかに人間らしく自由に生きられるかということだ。君はもう家格とか地位とか名誉とか、余計なものから解放された。もう何も、君を縛ることはできない!」


 それこそ俺の憧れる生き方だった。


 俺も【王国の矛】ルーラオム家の次男として、魔王軍や他国との戦争で武勲を上げることこそ、生まれた目的だと思っていた。


 だが一方で、そんな何もかも決められた人生に、どうして責任を持つことが出来るだろう、とずっと思っていた。


 だが、そんな些末な問題は、この人たちについて行くことを決意した時点で解消してしまったわけだ。


「さ、入るぞ少年。さっさと休みたいしな」


 アレグレット城とやらの城門から中に入り、三重の濠を渡って入城する。


「寝室はどこだ? 早く眠りたいんだが」


 ゼストさんは疲れているようだが、これだけ広いと俺でもどこにあるか分からない。


 とりあえず適当に進んでいると、何か地図のようなものが掲示されていた。


「お、ちゃんと案内図あるじゃん。これならすぐ分かるね」


 見たことのない文字で書かれているが、レイカさんには読めるようだ。


「あの、これが未来の言葉なんですか?」


「そうだけど、未来の言葉といっても、この時代の言葉の原型は留めているはずだよ?」


 俺は目を凝らして案内図とやらを見るが、やはり読めない。別の世界の言語のように感じられる。


 しばらく進むと、天蓋付きのベッドのある部屋にたどり着いた。だが、入り口にはロープが張られていて、まるで部屋自体が展示されているかのようだ。


「俺はもう休ませてもらうよ」


 ドラゴンを使役するスキルは反動が強いのか、ゼストさんは疲れて眠ってしまった。

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