第3話 最強剣士レイカ

「分からな……」


「お前は黙っていろ。この恥さらしが!」


 剣を失ったメドロックは、俺を床に叩きつけた。


「あーあ、ひどいなぁ」


 女剣士は呑気な口調で俺を憐れみ、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


 まさか、戦うつもりか? 兄さんと?


 それだけはまずい。


 異国から来て事情を知らないのだろうが、兄さんと戦って勝てる人間などいない。


「やめてください! その人はルーラオム家の嫡男です! 【星穿ち】のスキル持ちです! あなたが太刀打ちできるような相手ではありません!」


「さてどうかな」


 女剣士は抜剣し、メドロックの眼前に迫る。次いで、まじまじとメドロックの顔を見つめる。


 睨み合いが続く。


 一体どう出るつもりなんだ? あの女剣士は?


「フッ、ブッサイクだねぇ」


 相手の隙を窺っているように見えたのだが、女剣士が言い放ったのはそんな言葉だった。


「スキル発動【星穿ち】」


 刹那、暴風が吹き荒れる。風が止み目を開けると、神殿は跡形もなく消し飛んでいた。


「あ……あ……」


 これがスキル【星穿ち】。これはまだその力の片鱗でしかないが、女剣士が無事であるはずがない。


 それに、兄さんは公爵家の嫡男。たとえ殺人を犯しても、侮辱されたからなどと言い訳すれば、国王が事件をもみ消してしまう。


 終わりだ。


 俺はここで殺される。


「そんな顔をするんじゃないよ、アレスくん」


 不意に、背後からさっきの女剣士の声が聞こえてきた。


「え、なんで無事……」


「口は閉じるんだ。二撃目が来る」


 女剣士はロングソードを構える。白のブラウスに黒のリボンのようなものが襟に付いた不思議な服装だが、一切破れていない。無傷だ。メドロックの攻撃を食らってなぜ無事なのか。


「【星穿ち・弐の段】」


 メドロックは弓を構えていた。


 メドロックのスキルには耐えきれないため、奴は弓を使い捨てており、大量に持ち歩いている。加えて、弓を使って繰り出す【弐の段】は、さっきの指パッチンとは比較にならない威力だ。


「死ね」


 深紅の光を纏った、凄絶な一撃が迫る。


「剣技【風雪岩砕】」


 なんと、女剣士は目にも留まらぬ早業で矢の側面を削り、軌道をずらした。矢はあさっての方向へ飛んでいく。斜め上に行ったので、幸い民家などへの被害はなかった。


「私の一撃を、防いだだと?」


 メドロックは驚きを隠せないようだ。だがそれは俺も同じだ。


「あなた一体、何者?」


「私の名はレイカ・タニガワ。冒険者をやっている。もう一度問おうか、アレスくん」


 レイカさんは手刀でメドロックを気絶させ、続ける。


「なぜ私の実家を召喚できた?」

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