人類人生模倣子残酷物語。
【この小説は、実在の人物の名称が書かれていたために、コンプライアンスを意識して修正を加えました】
台田天斎の人生は穏やかに終了しようとしていた。音だけで考えると「だいてんさい」に『だ』が加わった名前。それは、幼年の頃から一つのプレッシャーだったのだが、そのプレッシャーを跳ね除け。飛び級を繰り返し東京大学を8周するという偉業を成し遂げたし、ノーベル賞も全部とった。彼が人類に与えた影響は多大なのだが、研究に明け暮れる日々。生来の顔の醜さと、体臭のキビシサという原因もあるのだが、生涯独身を貫いてしまった。悔いがあるとすればそれくらいだろうか。
「嗚呼。私の人生が終ろうとしている。自分で言うのも、おこがましいが惜しまれる子どもを残さなかったことだろうか。この優秀な遺伝子を後世に残せなかったことが残念だ。まぁ、それも仕方がない。私の父は苛烈な男ではあったが、飛びぬけて優秀ではなかった。ただ、生きる力は強かったかも知れない。人が人として形作るモノが生来のモノじゃあなく、後天的に得たモノであると考えるなら、私は人類に大きな貢献をしただろう。私の物理から文学に関する知見は、後の人類に大きな、前向きな影響を与えるはずだ。私の遺伝子はここでついえるが、模倣子は、ミームは、後の世に伝播し続けるだろう。私はそれが満足だ。」
深夜の病室で台田は独り呟いた。もう明日の朝を迎えるか否か、最期の呟きになるはずだった。
「例えば、さぁ。ベートーベンとエジソンとどっちが天才か?って話があるじゃない?」
「?誰だ。」
気がつけば台田のベッドの傍に一人の男?が佇んでいた。
「神様だ。」
「おお…神様。私の最期を迎えにきてくれたのですね。私は人類に…」
「ちょっと最後まで言わせてね。怒るよ?…ベートーベンとエジソンとどっちが天才か?って話があるじゃない?あれってぇ。エジソンが見つけたことは、この世に既にあることだから、誰かが見つけたから、無から作りだしたベートベンの方が天才って話らしいけど。笑っちゃいますよね。だって、君らの身近なところでは、円周率の中に彼が作曲したヤツ全部あるから。スケールが小さい小さい。まぁ、1000年くらいのスパンで考えたらそうかも知れないけど、俺、無限だぜ?全部一緒、ベートーベンもエジソンも凡才凡庸平凡普通フツウ。なんかねぇ。勘違いされたら困るのだよねー。」
「あの…いったい、どういう?」
「あー…だから。君のノーベル賞という人間が作った賞を全部とって『人類に貢献を』とか思っていたみたいだけど、そういうの勘違いだからってのを教えに来たの。最期だしね。勘違いさせてたら悪いし。」
「え…。でも、例えば、私がiPS細胞を進化させたiDS細胞などは、多くの人類を救っているのですが…。」
「あほ。それは、さっきエジソンの中で言っただろ?後、お前がノーベルの平和賞と文学賞をダブル受賞した『麦と米兵』も円周率の中にあるからな。無限なめんなよ。」
「…そうですか。」
「んー。お前も生前は、まだ死んでねぇか。霊長類最強の天才とか調子こいてたけど。あんまたいしたことないからね。それだけ分かってくれたら、そんなに悪くしないから。」
「一つ聞いて良いですか?」
「一つだけだぞ。」
「エジソンでも、ベートーベンでもなく、人類の中で、人生の、後に遺すという意味で、尊さとは、何ですか?」
「そりゃあ。勿論、子孫を残すことさぁ。生物だろ?お前ら。何言ってんの?お前がすることは、誰かがすることで、もうあることなんだから、可能性を次の世代に遺してくんないと、かなわんですわ。」
「そうですか…。では、アナタが考える、私と同じ世代一番尊い人は誰ですか?」
「そうだなー、今ならやっぱり、ビッグだ………。」
そこで台田の意識は途絶えた。明け方、彼の死亡が確認された。88歳。大往生であった。この世を去る前に何を考えたのか、或いは考えなかったのかは分からないが、枕が涙で濡れていた。生涯独身で身寄りがなかった彼は、出生の地、小豆島に墓が作られた。生前の偉業を讃えて、墓地の近くには記念碑も作られた。石には『霊長類最強の天才』と刻まれた。
次の天才を待ちながら。時間は流れていく。
※はてなグループ(サービス終了)で「 02/28/2013」に公開されてました。ビッグだ………の続きは、たしか『【ビックだぜ!横綱相撲】』だと思います。果たして、『人間の価値は子孫を残すことだけ』というアイロニーは、8年以上経過した2021年において、アイロニーとして成立するだろうか?あと、当時「天才を描く」というお題があったように思えます。
【2021年12月13日にカクヨム運営により公開停止となりました】
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