紅梅物語

@nekochansong03

第1話

サブタイトル青春冒険活劇小説本文


紅梅物語 (仮題)



大きな吉凶があるときは、必ず予兆というものがある。本震の前に余震があるようなものである。



都内の某カフェチェーン店で、背広姿のサラリーマンがふたりコーヒーを飲んでくつろいでいた。ごく有り触れた場面である。


唯一違うのは、その時間帯が午後三時くらいでちょうど学生、大学生などがお茶をする頃だということだ。身長も低からず爽やかな感じのふたりで営業マンという雰囲気だが、ちょっと堅苦しい空気をかもしだしている。


四十歳前後のふたりずれは、ひとりは佐久間龍二といいもうひとりは間島寅太郎という名前だった。龍二はちょっとボーとしたかとおもうと、きゅうにそわそわしだした。視線の先にはこれはありふれた、何処にでも居るような女子大生の二人ずれが一人がもうひとりにしゃべりかけている。



一目ぼれしたと、珍しく赤面している。そしてなにか催促している。


この場合いつも人当たりの良いトラがナンパの声掛けをするのだった。


いつもリュウが一目ぼれするのはモデル並みの美女か仕事のキャリアのある女性なので、大丈夫と念を押すと、夢の中にいる感じで指差した。それはありふれた女の子のほうでもぼんやりした印象の女の子のほうだった。トラはせめて俺だったらもう片方の女の子にするのにと思いながら近づくと、「紅梅実家の店を遣らないのなら何もしないわけにいかないから私のバイト先のカフェでも紹介しようか」というこえが聞こえた。トラがぼんやりした女の子に近づくと邪魔じゃないかと遠慮したのか、片方の女の子はさっと席を立ち、たちまち去っていってしまった。


所在無げにトラが「今時間あるかな」と話しかけると、うつつを見ているように「私何をしてたのかしら」といい、「紅梅ちゃんだよね」と尋ねると、「私の名前なんだっけ」「私、誰」とまでいい出した。



リュウとトラは、このあたりの高層ビル群の某警備会社の社員で、誠実第一の警備業界も、昨今のハイテクの進歩で、警備オンリーから、最新の技術を顧客に提案する営業も増えてきた。


このふたりは、頑張りとセンスで学歴不問のこの会社で頭角を現すことができ、異例の抜擢で各々の地区を任された。年功序列の年配者に交じって部長の待遇である。


ふたりとも合気道三段で、身体の鍛錬、最新の技術の習得、営業管理などを行っている。不規則で一休みでき、ひとつの案件が終わるのがわりとこの時間だったりするのである。



リュウは惚れた弱みもあり、またふたり共明日の午後まで体が開いていることもあり、このぼんやりした女の子とこのまま分かれるのがかわいそうな気がして、せめて自宅まで送り届けようということになった。


幸い自宅は池袋で駅まで行けば、その女の子も道順がわかるということで、送り届けることにしたのだった。


リュウは親身になっていたが、


トラはその女の子の話がほんとか半信半疑だったが、池袋駅まで付くと、半分夢遊病者の様だったが、自宅まで行き指さした。それは一軒の秋田料理屋だった。


近所の人の話から、親が幼いころ交通事故でなくなり祖父母が経営する料理屋に引き取られた大葉良子ちゃん十九歳ということが確認できた。


祖父が病気入院し、祖母もその看病疲れから後を追うようになくなってから先日49日で、その法事も済ませたとのことだった。



良子の話によると、祖父母がなくなって一か月余り家にぼーっとひとりでいるうちに、記憶喪失になったということだった。


料理店には、秋田料理に使う鍋、釜、食器類がすべてそろっていた。トラは「秋田料理店をやれば生活できるんじゃない」といった。「私、秋田料理ができないの」トラは「何年祖父母と暮らしてきたの」


隣の奥さんの話だと、「本当に、奥で皿洗いをしていておとなしいかったよね。高校卒業後も外に出なかったし」その話を聞いて、どれだけ不器用な子なんだろうとトラはおもった。




好奇心旺盛なリュウとトラは、良子の記憶があいまいなのが気になった。


幼稚園くらいから祖父母に引き取られたという情報から、地元の小、中学校の所在地、そして近所の人の話から、高校名もわかり、学校関係者から良子の情報を得ようとしたが、良子の担任の先生さえ良子に対してうろ覚えで、同じクラスの者でさえ記憶が定かではなく、印象が薄く、そういえばぼんやり、いつも窓際に座っている大葉良子いう子がいたと、


やっと思い出す程度で、不思議なほどだった。


そういえば、リュウが言った。「一緒に居た、紅梅と言ってた女の子はやはり同級生」と聞くと、「私誰かといたかしら」と、


そして、そのあとは良子は、いつものぼんやりした様子から、人が変わったように元気になって、「私小さい時から中華街で育だったの」といった。しかし確かに池袋に中華街はあったが、それは最近のことで、もちろん紅梅の小さいころには当たらなかった。


「私、中華料理と、カンフーと、中国語ができる」と真似てさえみせた。




リュウとトラは、周りに心配をかけないようにとおもい、健気に振る舞っているのだなと思った。だが良子への同情心は増した。もう出勤時間だし、近所といっても隣の面倒見のよさそうな風子さんという中年女性が顔見知りだし、面倒は見るからと言われ、自宅も判明したことから、会社に戻ることにした。


ふだんなら仕事が一昼夜かかることがほとんどなのに、この日に限って夕方には退社出来ることになった。ふつう、ふたりとも独身なので、それぞれの趣味に費やすのだが、なんとなく、リュウとトラは申し合わせたように、良子のほうに足が向かったようだった。


隣の風子さんのところ伺うと、うとうとしているけど元気よ、自分の部屋に居るから尋ねてみたらといわれ、女の子の部屋へ行くのは照れたが、訪ねた。


女の子らしい部屋に、大きな茶色のクマのぬいぐるみがあり、相変わらずぼんやりしていたが自分の領域とあって伸び伸びしていた。


クマのぬいぐるみを指さして、「これがクマのミーちゃん」と紹介した挙句、今までと打って変わって、突然、真剣な面持ちでそのぬいぐるみを見て、良子は気絶してしまった。慌てて隣の風子さんを呼びに行き、何とか正気にもどった。その良子から「ミーちゃんが私が何か悪いことをした、と言われた」といい、ふたりはどうしたらいいかわからなくなった。



何故か気分転換に、横浜の中華街でリュウとトラと食事をすることになった良子は、やや丸顔の、髪はミディアムの長さのストレートで、くりっとした目がやや可愛らしいがちんまりした鼻と口で、中肉中背、全く平凡な外見だった。中華街に着き食事をする前に、衣料品店で赤いチャイナドレスを買った。リュウは目を見開いて見つめた。チャイナドレスに着替え、頭をお団子にゆった良子は、立派な姑娘に変身し、全く印象が違ったので、リュウはまぶしく見つめた。三人は食事後、ネオンの街を歩いた。


監視しつくしたように、突然光を背負ったような威厳のある白髪の老人が現れた。


華僑の長であろうその老人は、


「紅梅おかえり」といった。


「紅梅の両親がなくなったので、ちょうど孫娘亡くした大葉夫婦に私が、紅梅を預けたのだ」


「華僑と地球に危機が訪れるとき救世主は生まれる」その長である老人は、たくましいという感じは受けないが、なぜか屈強な印象を与えた。「二十歳の誕生日にそのパワーは目覚める」「誕生日はいつかな」紅梅は答えて「9月14日です」「ではもうすぐだな」


「救世主が中華街で生まれ、ふたりの日本の青年が味方になるということは何か意味のあることかもしれない」「大場夫婦はなくなって49日になるということで、残念だが、若い女の子はそのうち家を出る。紅梅は大きな役目もあるから外に出ざろうえない。大葉夫婦は息子夫婦と孫娘に先立たれ、そのうえ孫娘のようにおもっている娘が手元から離れたら、悲しいだろう。その悲しみを味あわなかっただけ幸せかもしれない。女の子がパートナーを見つけ家を出るのは必然だから」


しかしリュウとトラは、成人まで見届けられなかった大葉夫婦は、やはり無念だったと思い、その夫婦から孫娘を託された気がした。華僑の長は現れた時と同様に忽然と姿を消した。


好奇心旺盛なふたりは、特にリュウのほうが、面倒を見たいとおもっていたが、秘密を探りたいという欲求が湧いてきた。突然トラが、「部屋が空いてるから家に来ればいい」と言い出した。「部屋が空いているからってそれはまずいだろう。絶対俺も住むからな」とリュウはついいってしまった。トラは、池袋の家は貸家だから料理店を再開しないなら、家賃も払えないから、ということだったらしい。


リュウは引っ越してきてびっくり。女子高生を筆頭に三人の兄弟がおり、中学生の弟がスポーツ推薦で学校の寮に入るから、その空いた部屋を利用するのだった。リュウは一番下の幼稚園の年長さんの男の子と同じ部屋になった。


相変わらず、たまにぼんやりすることはあったが良子は誕生日まで無難に過ごした。


誕生日の午前中、リュウと自分の誕生日の料理の材料を買いに、スーパーまで出かけた。のんびりした日だった。


帰りに良子は突然、気絶した。



人が変わったように良子は「これから大きな災難が起きる」といった。


いつもと変わりない風景のようだった。ありがちなコンビニの前でヤンキー座わりをした少年たち。女子高生たち。OLの群れ。みんな同じ字言葉をつぶやいていた。「紅梅目覚めた」そのころから、紅梅の幼いころの記憶が鮮明になるようだった。両親が殺された記憶がところどころ鮮明になるようだった。


知らないところへ移され孤独だったこと。知らないお兄さんに助け出されたこと。


紅梅と一緒に住んでいるので、紅梅の気になるところはすぐ調べ出せた。


大葉夫婦と紅梅が、引き取られてすぐ秋田の実家へ行ったことが分かった。息子夫婦がなくなったのは、秋田旅行を計画した直前だったらしい。三人はそのことを確かめるため、秋田への旅行を計画した。


1月の中旬秋田へのかまくらの観光を兼ねて出かけた。


良子としての記憶がだんだん薄れていく紅梅だが、かまくらを目にした途端、紅梅の目から涙があふれ出た。元々良子としての記憶は曖昧なもので、その存在自体もボンヤリしたものだったが、優しい気持ちが溢れてきて、孤独だったのが大葉夫婦からかまくらで暖かく持て成してもらい、楽しく過ごした時を思い出した。なぜこんな大切なことを忘れていたのだろうか。今まで愛情をもって育てられたのだ。


しかし大葉夫婦の菩提寺の住職は、三人とも息子家族はなくなったと証言したのだった。近所のひとも学校関係者も、息子夫婦はなくなったが孫娘は一人生き残ったと、部分的に記憶を書き換えられていたのだ。戸籍にも三人死亡となっていた。



その書き換えた者を求めて横浜の中華街へ行き、やっと長老に会えたのだった。


大葉夫婦は息子家族を亡くし初七日の法事を済ませたばかりだった。夫婦はふたりで息子たちのことは忘れて新しく出直そうと話し合っていた。


突然霧の中に小さな女の子が現れた。「良子」大葉さんは思わず叫んだ。


すると、その女の子にはひとりの老人が付き添っていた。その顔は忘れもしない、華僑の長老で、大恩人だった。池袋に店を出せたのもその長老のおかげといえた。紅梅を頼まれて断る理由は思いつかなかった。



紅梅は物心つく頃から念動力が強く、箸や早く歩いて物を取るよりも、物を引き寄せて念動力で済ませることが多かった。


両親は、中華街で中華料理を出している若夫婦で、父は優しく、母はしっかり者だが優しかった。両親は心配して長老に相談したが、まだ完全に目覚めていないから普通に育てるよう勧められた。


二十歳になるまで完全に目覚めていないため冷や冷やだったという。


目覚める前から利用しようといろいろな団体から目をつけられていた、という。現に中堅のやくざの組が両親を殺し、紅梅をさらっていった。


カンフーの達人を向けて難なく救出したが、その後大葉夫婦のもとに預け今まで身を隠していたらしい。陰で自称大物の女占い師が、糸を引いていたらしい。紅梅は、持ってきたクマのミーちゃんのぬいぐるみをぐっと抱きしめた。


紅梅はその当時のことを覚えていた。中堅のやくざは政治の分野や公共事業に手を広げようとしていたが、ライバルの組に出し抜かれ、どうしたら抜き出ることができるか、悩んでいた。そこに自称大物占い師の女が現れて、力になるという。下っ端者は、その女がライバルの組から出てきたのを見たという。しかしその組長はやくに立たなければ断ればいいだけだといい、話を聞くことにした。それによれば紅梅をさらってくれば、願いはかなうということだった。その時両親も殺さなければならないという。


早速そのあたりを仕切っているやくざにその下っ端を使って紅梅をさらい両親を殺すよう依頼したところが、


それらは大きな仕事をしたことがなく、


その家も逆らったことがない、ただ貧しい料理店であるだけなので、


「家の物は何でも差し上げます。貯金も少しですが差し上げます。ただ親子三人仲良く暮らさせてください。」とあたまを下げるので、


手下の二人はこんな色気のない餓鬼をさらってどうしようというのだい。是非というわけではないので、失敗したことにしたと言って帰ろうか。と言っていた。


そこへあの女占い師がやってきて、やはりそういうことね。「手下なんかよこすから」


そこへ紅梅が起きてきて、「パパママどうしたの」


すると女占い師は「紅梅ちゃん今パパとママは苦しくて眠れなくて困っているの。紅梅ちゃんが楽にして挙げて眠らせてあげて」「どうすればいいの」すると女はチンピラの持ってきた銃を手渡して、これで撃ってあげれば楽になるのよ。すると「私、手を使わなくてもできる」


そして銃は両親に命中し、たちまち二人はなくなってしまった。


「さあパパもママもこれで楽になったわ。」「紅梅ちゃんはおばさんと一緒に行きましょう」「静かにしないとね」


紅梅は両親に駆け寄りゆすったが、一向に起きる様子がない。


「紅梅ちゃんおりこうさんにしていないと、パパもママ迎えに来ませんよ」


しぶしぶ女に従った。そこは布団はあるが、暗い部屋で、一緒にいるのはクマのぬいぐるみだけ。両親は全く迎えに来ず、孤独に襲われるようになった。


そこへ手品のように黒装束のカンフーの使い手のお兄さんがやってきて、たちまち紅梅を救い出してくれたのだった。


実はこれはすべて夢で、終わりにクマのぬいぐるみがいつもと違った怖い顔で、「お前は人殺しだ」「悪い子だ」というのであった。


自分がさらわれたのは客観的な記憶と同じだが、


それが真実か全くの夢か、紅梅は判断がつかなかった。


トラやトラの家族に話すと、困惑したように黙ったままだった。


リュウに話すと、それは真実じゃないといって、紅梅をギュッと抱きしめた。


それは客観的に事故だ。真実は俺が紅梅を必要としていることだけだ。といった。


紅梅は戸惑ったが、


大葉の祖父母がなくなった後、やっと居場所を見つけたような気がした。


その後悪夢は見なくなった。



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