あなたの人生もらいます

サムライ・ビジョン

第1話 山本だった

「今日未明、東京都杉並区のアパートで…」

あー、やだやだ。ここ最近そんなのばっかりだねぇ。人が死ぬのが当たり前になろうとしてんじゃないのかね?

それはそうと今日は面接の日だ。よくある質問を調べつくして、自分なりに話す内容は決めてあるが、やっぱり緊張してしまうねぇ。

エアコンを消し、スマホをカバンに入れ、不穏なニュースの電源を消した。


現場に着いた。ルームミラーでネクタイを確認…よし、問題ないな。

履きたくもない革靴が、緊張した心とは裏腹にコツコツと心地よい音を立てる。

待合室の席に着いた私は部屋を見渡した。私を含めて数人しかいないので気まずい空気が流れる。窓の外を見ると、この街にしては珍しく雪が本降りとなっていた。


「山本さん」

案内人に名前を呼ばれてハッとした。さぁさぁ私の出番だよ。


………


…結論から言うと、私の面接は惨敗だった。

あれほど言葉に詰まって、話が早く終わって…

だがそんなことはどうでもいい。問題なのは、を滑らせてしまったことだ。

最近気になったニュースなど知るものか!

何を話せばいいのか見当もつかなかったから殺し方について話してしまった。思わず部屋を逃げ出してしまったよ。


まぁ、いいか。この山本という青年は遅かれ早かれ死んでいた。親からも友人からも大企業への就職を期待され…いわゆるエリートというやつだ。一次試験は私が前に実力で通ったらしく、スマホは祝福の通知でやかましかった。プレッシャーを断ち切ってやったのだ。

そして「あの女」にも問題がある。山本が大企業を約束されたからといって、将来のことをタラタラタラタラ…長ったらしいんだよ。

私にはそれが耐えられなかったし、殺した際にはきちんと口を切り裂いた。喋りたくても喋れないだろうよ。


とりあえず捕まる前にコンビニに行こう。ここからなら近いしな。お釣りをもらうときにさりげなく手に触れて、「それ」が終われば山本も用済みだな。


「いらっしゃいませ」

「160番のタバコをください」

「かしこまりました」

普段の私はタバコなど吸わないが、死ぬときにはいつも買うようにしている。

いかにも体に悪そうなものをあえて体に取り込む…ワルだよねぇ。


それにしてもなかなか可愛らしい店員さんじゃないか。…この人はやめておこうかな。

可哀想じゃないか。やめておこう。

このへんはえないサラリーマンがいっぱいいるからなぁ。心置きなくよ。

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