78. Friend ship 前編

『ヴァルキリー』とは、北欧神話ほくおうしんわにおいて戦場での生死をつかさどる存在のこと。

 ワルキューレや戦乙女とも呼ばれる。

 やがて来る最終戦争に備え、死者の魂を天上の宮殿ヴァルハラへと導く役割を担っている。

 自ら戦いにおもむくこともあり、時には勇敢な戦士に恋心を抱くなど、情緒的に描かれたりもする。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



"政都バーナルド 空中庭園"


 ジャガーニートォから放たれたメカモンスター、飛行型のヨトゥンバインが上空を旋回している。

 空を埋め尽くすほどの黒、この刺客が政都へと降り立てば、民衆はパニックになるだろう。

 王室が誇る空中庭園に狙いを定めたヨトゥンバインは、次々と急降下していく。


「王剣デュランダルよ、悪しき存在を薙ぎ払え!一閃!」


 紅い光がきらめいたと思うやいなや、ヨトゥンバインの群れは全滅する。

 王剣デュランダル、断てぬもの無き王者の剣を振るう勇姿。

 ご存知、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルその人である。


「フッ、余に尻拭いをさせるとはな。相変わらず無礼な男よ」


「このような手紙を寄越すなど、万死に値しますぞ!そもそも、全ての民は王の臣下。王が言うことを聞いては、示しがつきませぬ!」



『キャビー!急ぎで悪いが、見晴らしの良い所で、敵の襲撃に備えてくれ。撃ち漏らしがあったら、自慢の剣でたたっ斬っていいぞ!王様にちょっとした冒険をプレゼントだ』



「フフ、良い。あやつは民でも臣でも無い。それに、たまに剣を振るわねば腕もにぶる。モンスターを斬るなど、滅多に出来ることではないしな」


「し、しかし!」


「あやつは、人を率いる事で真の実力を発揮する男だ。まわりを巻き込んでべる才。自分では到底、気付いてはおらぬのだろうがな」


「買いかぶりすぎ……ではないのでしょうな」


「余にも花を持たせてくれたこと、礼を言うぞタスク!」



"政都周辺フィールド"


「ゼェ…ゼェ…くっそー!いくら倒してもキリが無いぞ!タスク達は何やってんだ!まだ防衛大臣を引っ剥がせないのか?」


「諦めないでチョコちゃん。シルベスタファミリーで張った結界が消えちゃったら、今度こそ止められなくなるよ」


「チョッラァ!ハァ…モリモリ湧き出てきやがって。腕の感覚が無くなってきた」


「アハハ……まるで虫だね。もうウンザリって感じ」


 体力も魔力も使い果たし、グッタリと項垂うなだれる二人に、ヨトゥンバインが迫りくる。

 一斉に襲いかかろうとした、その瞬間。


 ビーン……ガシャン!ガシャガシャ!ガシャン!


 全てのメカモンスターが動きを止め、地面へと這いつくばる。


「二人とも良くやった。手術は成功、タイラーを捕まえたぞ」


「おせぇよ!こちとらヘトヘトだっての」


「途中からコソコソ見てたでしょ?もう、イジワルなんだから」


 疲れ切ったプラリネとトールから、次々と愚痴が飛び出す。

 ジャガーニートォのエネルギー供給は、タイラーを取り除くことで断つことができた。

 無数のヨトゥンバインも、もう動くことはないだろう。


「いいだろ、上手くいったんだから。これで全部おわり、クエスト達成だ!」


 腕を振り上げた瞬間、二人は飛びついて寄りかかる。

 ルーンを解除し、自由になったシルベスタファミリーからも歓声が上がった。


「私は……そうか負けたか。途中から、何を言っているかも分からなくなっていた。まさか生きてマシンを降りるとは……完敗だ」


 周りの声を聞いてか、気絶していたタイラーが目を覚ます。

 ジャガーニートォの呪縛じゅばくが解かれたのか、き物が落ちたように爽やかな表情だ。


「勝ちも負けもあるもんか。こちとら法外な手術代で首が回らない。どころか、首ごと持っていかれそうなんだ。防衛費から1200万マニー、しっかり払ってもらうからな?」


 ピスコから拝借した200万マニーも上乗せしたが、ついでってことでね。

 高級官僚だし、そのくらいは楽勝だろう。

 いや待てよ、この事件の首謀者がタイラーだと知れたら、さすがに防衛大臣じゃいられないか。


「まったく、君という奴は何から何まで予想を超えてくる男だ。こんな方法でしてやられるとはな。復讐に駆られながらも、どこか戦うのが楽しいと感じていたのは、きっと君の発想力に惹かれていたのだろう」


 天を仰いだまま、遠い目で語るタイラー。

 政都転覆計画は終幕、これにてご破産だ。

 あとはジャガーニートォが、二度と動かないように撤去するだけか。


 ぐぐぐ……


「ん、動いた?んなわけないか。操縦者もいないのに、起動するはずが……」


 ギャゴォーーーーーーーーン!!


 再び咆哮のような爆音を響かせるジャガーニートォ。

 そんな馬鹿な、タイラー無しで再起動できるはずがない。

 あれは人の恨みを増幅し、マニーで動く兵器のはずだ。


『ブハハハハ!やっぱ真面目に仕事してる奴は使えねぇな!まぁいいや、資金はまだプールしてある。ボク様を炭鉱送りにした、王都の連中に地獄を見せてやる!』


 無人のジャガーニートォから人の声が響く。

 王都?政都の本来の呼び名か。

 それより何より、今ボク様って言ったぞ。


「こいつ!ジャガーニートォを作った張本人か。あり得ないだろ、とっくに死んだんじゃないのかよ!」


「作家さん、大変です!アダマンレイブルから、膨大な量の感情エネルギーが検知されました!」


 MAOが血相を変えて異常を知らせに来る。

 アダマンレイブルと言えば、人の精神に感応する金属とか奴の日記に書いてあったぞ。


「落ち着けMAO、感情エネルギーって何だ?どうして無人のジャガーニートォが動いてるんだ!」


「残留思念というやつです。多分、強い恨みが怨霊となって、アダマンレイブルの中に潜んでいたのでしょう。多額のマニーを吸収するために、防衛大臣を利用していたなんて。どうして、こんなことに……」


「お前が持って来たんだよな!アダマンレイブル!」


 ギャガガガガ!びびびびぃーーーーーむ!


『ゲボハハハハハ!動く、動くぞジャガーニートォ!ボク様の意のままに、愚かなクズどもを叩き潰すのだ!』


 再び動き出したジャガーニートォの全身から、無数のビームが放たれた。

 自身の装甲すら焼き切りながら、辺りを火の海に包み込み、政都への前進を始める。


「くそ、容赦無ぇな!まだタイラーの時の方が優しかった。なぁアネス、あんたならアレを倒せるんじゃないか?」


「やらん、興味が無い。それにオペの後は、糖分を接種して、半日ほど寝ることにしている。ふわぁ、あとは坊や達で頑張るがいい」


 取り出したシロップを一瓶ひとびん飲み干し、アネスはその場で寝てしまう。

 この状況で良く眠れるな、相当に肝がすわってらっしゃる。


「手持ちのカードは全部切ったし、こちとら怪我人を抱えてるってのに。倒したその場でボス復活は反則だろうがよ!」


 タイラーをおぶり、全力でジャガーニートォから距離を取る。

 シルベスタファミリーの連中も、炎に巻き込まれずに退避できたようだ。

 だがどうする、このままじゃ政都まで到達してしまう。


「フフフ、おかしな奴だな君は。いつもトラブルに巻き込まれているようで、本当は誰かを助けるために、自分から危険に飛び込んでいる。そこに惹かれ、多くの人を引き寄せてもいる」


 背中でタイラーがブツクサ言い出した。


「なんだよ!今は話を聞いてる場合じゃないんだ!いいか、俺は偶然力ってのが働いてて、いつだって貧乏くじ引いてんだよ!」


「わかっているだろう。君は偶然に支配されていない。運命の方が君を求めているのかも」


「もう黙っててくれ!落っことすぞ!」


「仲間、魔王、総理大臣、外科医、侠者集団。これだけ多様な人々が君の下に集まったのだ。もう偶然と呼ぶには大きすぎる力………そして今もまた」


 突如、水の龍がうねりを上げて、フィールドの炎を消火していく。

 これは、消防士の得意とするスキルか。


「よーうタスク!まだ片付いてねぇのか?ちっともカラーズに戻ってこねぇからよ、こっちから捕まえに来てやったぜ!」


「ピスコ!それに街の皆も!」


【カラーズ連合軍が駆けつけた】

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