77. Operation God Break 前編

『手術』とは、専門的な医学知識や技術を用い、患部かんぶを切開して行う治療のこと。

 オペとも呼ばれる。

 医療の進歩と共に、外科的機器などの性能も向上しており、治せる病気は増えてきている。

 手術は主に外科医が担当し、麻酔が効いている状態で行われる。

 しかし……


◇◆◇◆◇◆



「オッサン!腕が!」


 ジャガーニートォの装甲を粉砕ふんさいした右腕は、技の威力に耐えきれず、エバーの体から切り離されてしまった。

 総理大臣の力を持ってしても、ダメージを与えるには相当な犠牲を払うことになるのか。


「どうと言うことはない。ワシの右腕は、ずっと昔からタイラーじゃよ。それに、これはワシにとっては罪滅ぼしでもある。あれを助けるためなら、腕の一本でも二本でも持っていけばいい。頼むぞタスク君、ワシの親友を!」


「任しとけオッサン!絶対に助けてみせるよ。政都も、タイラーもな。だから下がっててくれ。ここからは俺達の戦いだ」


「かたじけない……虫の良い話だが、この件は全て君に賭けさせてもらう。ワシにはタイラーを救う策は思いつかない」


 自力で腕の止血を行いながら、けわしい表情を浮かべるエバー。

 無茶しやがって、そういう熱いおとこは嫌いじゃないけど。


「ゆっくり休んでな。あ、そうそう、政都に戻るなら、この手紙をキャビーに渡しといてくれよ」


「キャビー?ワシの知らぬ名だ」


「知らぬはずないだろ?キャバリア・キングチャールズ・スパニエル。長いからキャビーだ」


「君という男は、王に名を略すなどと……まぁいい、初めて会った時から、君は権威には興味が無かったからの。君らしいと言えば君らしい」


 急いで書いた手紙を渡すと、エバーは笑いながら政都へと飛んでいった。

 相変わらず人間離れしていらっしゃる。


「エェェェェェヴァァァァァァァァ!!」


「おおっと、こいつは激おこってやつだな。来いよ、俺達が相手になってやるぜ!」


 装甲を破壊され、その姿が剥き出しになったタイラーが絶叫する。

 その目には、友人であり怨敵であるエバーしか見えていないのか。


「しっかりしろよタイラー!自分を見失えば、ジャガーニートォに取り込まれるぞ」


「ダマレぇぇぇ!ボク様は……ワタシは、滅ぼすノダ。政都も、労働も、不正も、サイノウを認めないクズも!グガァァァァ!!」


 そこら中の物を全て破壊しながら、大暴れするジャガーニートォ。

 タイラーの声に、別の人間の意識が混じっているように感じる。

 遥か昔、異世界から召喚された引きもりの残留思念か。


「吹き飛べ愚民どもぉぉぉぉ!!」


 巨体がジャンプした次の瞬間、着地した足元から凄まじい衝撃波が発生した。

 圧倒的な全方位攻撃に、パーティー全員が吹き飛ばされる。


「く……くそ!なんてスケールのでかい攻撃しやがる。なんとか奴の所まで行かないと勝ち目は無いぞ」


「どうするのタスク!切り札はまだなの?」


「ダメだ!ハーディアスがまだ渋ってる。嫌がるとは思っていたけど、このままじゃ間に合わなくなるぞ」


 勝利へのシナリオ、最後のピースはハーディアスが握っている。

 これがダメとなると、大幅に作戦を変えねばならない。

 頼む、何とか恥を忍んで決断してくれ。


「ヤッカイなのは医療系ジョブだ!歯科医師からツブシツブシ潰してくれルァ!」


 ジャガーニートォの巨大な手が、ハーディアスを捕らえた。

 そのまま握りつぶすつもりか。


「ぐぅ…これは…キツくなってきたな…」


 ハーディアスが装備する、八本の医療用アームが、ギチギチときしみはじめる。

 単純なパワー勝負では、こちらに勝ち目は無い。


「チョッラァ!ハーディを離せよ鉄屑てつくず!この!この!」


 プラリネが殴りかかるが、その腕はビクともしない。


「クチのワルい子供だ。お仕置きが必要だな!」


 バッチン!!


 もう片方の手が、プラリネを襲う。

 見事にお尻に対し、デコピンが決まってしまった。

 あのサイズのデコピンだ、威力は絶大でプラリネは弾き飛ばされてしまう。


「いっだぁ!あぅぅ……お尻がビリビリする」


「無事かプラリネ!凄い音がしたけど、そんなもんで済んで良かった」


 ジワリと涙を浮かべ、尻を押さえるプラリネ。

 痛みを必死で我慢しているのだろう。

 こればっかりは、俺が撫でてやるわけにもいかない。


「ククク!さぁ、政都を火の海にしてヤロウか!」


 ジャガーニートォの背ビレが、怪しく光を放ち始めた。

 ビームのチャージに入ったか、まずいぞコレは。


「ちぃ…背に腹は代えられないか…今回だけだからな…」


 ハーディアスから決意のお言葉を頂戴する。


「た…助けて…姉さん…」


 ボソリと一言だけ呟く。

 ありがとうハーディアス、あとはアネスタシアが来るまで……


 ずっぎゃーーーーーん!!


 突然、空から飛来した光によって、ジャガーニートォの腕は切断された。

 嘘だろ、まだ一秒も経過してないぞ。

 多分来るだろうとは思っていたけど。



「呼んだか?愛する弟よ。素敵で無敵な美しい姉さん、助けてくださいと。ここに来て抱きしめてほしいと、そう言ったのだな?」


「う…姉さん…そこまでは…」


 空中でハーディアスを華麗に抱きとめ、ふわりと着地するアネスタシア。

 その光景は、まるでヒーローが間一髪でヒロインを助け出したかのようだ。

 いや、ポジション逆だろ!実力からして違和感は無いが。


「や、やぁアネス。良いところに来てくれたなぁ」


 最強ジョブの一角、『外科医げかい』のアネスタシアだ。

 ハーディアスの姉であり、性格に難はあるものの、腕には圧倒的な自信を持っている。

 あと、ファッションがセクシーすぎるし、スタイルが抜群に良い。


「坊や、頭の中で失礼な事を言っているだろう。弟をダシにして私を呼びつけた事といい、二度と使い物にならぬよう切り取ってやろうか?」


 鋭い眼光にあてられ、反射的にへっぴり腰になってしまう。

 下半身がヒャーってなっちゃう。

 とても扱いきれないものを召喚してしまったと、今更ながらに後悔の念が湧いてきた。


【外科医が現れた】

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