56. My Favorite Hero 後編

"深層の次元アビスディメンション"


 キィーーン!!ギィーーーーン!!


 生まれ変わった三叉みつまたの槍と、魂を刈り取る大鎌おおがま交錯こうさし、激しく火花を散らす。

 真の力に覚醒したスーパーヒーローと、深層しんそうの王の激突。


「待て待て、バカかお前。せっかくのクライマックスだってのによ、武器でもってキンキンやりあうなんて、もったいないんじゃないかい?俺がやりたいのは、血湧ちわ肉躍にくおどる異世界バトルぞ?」


「調子にノルな!オマエがどれほどパワーアップしたとしても、この空間の王者は、このワタシだ!」


 バグゼクスは今まで戦った敵の中でも、最強の部類に入る。

 最弱の小説家が、最強の次元獣と互角に戦う。

 こんな熱い展開はないぜ、たぁまんねぇ。


「どれホドの発想力も、てつく地獄を前にスレば無力だ!極限零度きょくげんれいど、ニブルヘルブリザード!!」


 心も凍りつくような、激しい吹雪を巻き起こすバグゼクス。

 それは死者の国へのいざないか。

 あいつも大概たいがい、やりたい放題だな。


北欧神話ほくおうしんわか?これこれぇ!こういう派手なのを待っとったんじゃい!こっちも行くぜぇ!灼熱しゃくねつの巨人よ来たれ、天焦てんこがす豪炎ごうえん!ムスペルフレイム!!」


 吹き荒れる吹雪と、燃え盛る火炎。

 異なる二つの属性がぶつかり、相殺していく。

 なんて楽しいんだ。

 変身ヒーローってのは、こんな気分で戦ってるのか。


「ヌウウ…氷属性だけでダメならば、八つの災厄さいやくを受ケルがいい!伝説降臨、ヒュドラノオロチ!!」


 今度は八龍召喚はちりゅうしょうかんときた。

 それぞれの頭が火や雷、その他諸々を吐きながら迫ってくる。

 こういうの得意なんだよな、日本人だし。


「俺が一杯ご馳走ちそうするぜぇ!強アルコール魔法!ヤシオリーボンボン!!」


 お酒の入ったチョコレートを八個召喚。

 プラリネのスキルを俺流にアレンジした魔法だ。

 八龍はそれぞれ、これをペロリとたいらげ、良い気分になっている。


「ガハハ!最高に気持ちええんじゃ!これがチート主人公というものか!更に行くぜ、スサノオスティンガー!!」


 三つに別れたペン先が高速で回転し始める。

 やがてそれは、触れた物を削り取る光の槍となった。

 こちらはハーディアスのパクリだ。


 ギュインギュイーンギュイーン!!


 酔っ払った龍など相手にならない。

 硬そうなドラゴンの首が、いともたやすく落ちていく。


「ボボボ…ナニをやっても完封されるダト。ナラバ、最強の出力を持つ技ナラバ」


「あー、わかってきたわー……すぅぅぅ」


 バグゼクスの動きに合わせて、大きく息を吸い込むと。


「「ドラゴンブレス!!」」


 だよな、最強の生物による、最強の必殺技。


 ちゅどぉぉぉぉぉぉん!!!!


 お互いに放ったブレスは、激突して大爆発を起こす。

 異次元が揺れる揺れる。

 改めてドラゴンの恐ろしさを認識したぜ。


「ボボボ…ナンだ!ナンならオマエを消せるノダ。ニンゲンが…ニンゲンごときガァァァ!」


 膨大ぼうだいな力を使い続けているせいか、だいぶ喋り方が怪しくなっている。

 今まで聞いてきたこと、見てきたもの。

 神話しんわ伝承でんしょう、漫画にアニメ、そして小説。


「全てが溶け合い混ざり合い、俺の力に変換される。なんて素晴らしい日だ!モンスターに殴られ泣いた日々も、何も書けなくて眠れない夜も、全てが報われる時が来たのだ!」


 もちろん、この空間限定の能力ではあるが。

 何よりも、消えゆく命の輝きなのだ。

 言うなれば、燃え尽きる前のロウソク。


「ウミミミ、大いなる海!荒ブル海神よ、全てを飲み込み尽くせ!」


 急に異次元空間に海水が流れ込む。

 深い深い海の底、あんっだーざっしー。


「ガボボグボボゲババババ!!」


「ニンゲンの概念がいねんを捨てきれていないな?そのまま、オボレ果てるがいい!」


 ごっきゅん!ごっきゅん!ごっきゅん!ごっきゅん!


「ババババカな、海水を飲んでいるのか?」


「ぐぇっぷ!飲みすぎて腹がチャポチャポ言ってら」


 海であろうと何のその、一滴残らず飲み干してやった。

 これにゃトールもビックリするだろうぜ。


「お、いいこと考えた。このタプンタプンになった体で……いにしえのスキル『ぱふぱふ』だ!」


【タスクはバグゼクスをぱふぱふした】


 ぱふぱふぱふぱふぱふぱふぱふぱふ!!


【しかし何も起こらなかった】


「何がシタイんだオマエは!!」


 ばちぃーーーん!!


 痛い、思いっきり腹を叩かれた。

 何とは言わないが、好きだろ?こういうの。

 きっとトールは嫌がるんだろうけど。


「ハーッハッハ!ヒーローの高笑いだ!ちょっとプラリネっぽいよな。まだまだ子供だから心配だけど、ハーディアスがいりゃ安心だな」


「ボボ…ボボボ…ナンのハナシをしている……」


「別に…ただ、この先の物語を見れないのが、心残りなだけだ。お前は元のファンタジー世界に戻したかったんだろうけど、俺はこの世界の未来を見てみたかった」


「ボボ……それは創造主の意志に反する思想なのだ。どんな犠牲を払ってでも、正常な世界を取り戻す。それがこの世界の幸福…」


 俺のやっていることは、世界の寿命を削る行為なのかもしれない。

 それでも、俺のわがままでも、この世界を、トールには生きてほしい。


「やめよう。何を言っても、どうせお互いの主張は曲げないだろ?俺もそんなに時間が無いみたいだし、次の一発で終わりだ」


 トリシューラを構え、先端に力を集中させる。

 発想力、文章力、そして実現力が七色の光を集束させていく。


「オマエは、別の世界の異端者。何者にもナレずに、この世界を食いツブシに来た、変革の申し子と対となる存在。断言してもイイ!オマエの決断が、やがて世界を滅びへと導くのだ!」


 トールも俺も、ゲームの中に発生したバグみたいなもんか。

 こいつはそれを修正するプログラム。

 だとしても、この世界に生きる命を奪うことなんて、誰にもさせない。


「行こう、バグゼクス。俺もお前も、もうこの世界には必要ない。物語は創造主の手を離れ、新しい道を歩きだしたんだ。例えこの先、何十年何百年も先で、滅びの未来が待っていたとしても」


「ワタシは…創造主の…ソソゾゾ…ボボボ…ボボボボボ」


「何も書けなかった小説家に、最高の舞台を用意してくれて感謝する。これで俺の物語は完結だ……闇を掻き消す光ルドラ!!」


 光、トリシューラのペン先が融解ゆうかいするほどの、強烈な光線。

 深層の次元が真っ白に染まっていく。


「ボボボ…ボボボボボボボボ!!ボボボ…ボ」


 バグゼクスは、に照らされた影のように、跡形もなく消滅した。

 長かった全ての戦いが今、終わった。


【バグゼクスを打ち倒した】



「ふぅ…倒す敵もいなくなったし、ヒーロータイムは終わりだな……みんな、どうしてっかな」


 プラリネ、ちゃんと歯を磨けよ。

 あと、寝ぼけ癖も直したほうがいい。


「ジムの清掃せいそうは大丈夫かな…ほこりをかぶってなきゃいいが」


 ハーディアスは、もうちょっと声を出して喋るべきだな。

 愛想も覚えてもらいたいもんだ。


「ピスコの奴、今頃カベルネに怒られてんのかな?」


 後悔は無い、後悔はしないと決めただろ。

 最後ぐらい、カッコよく終わりにしたいじゃねぇか。


「ハハ…あんなに力が欲しかったってのに、何でオークやゴブリンとやりあってた時のほうが、楽しいって思ってんだ?」


 最初は、来た世界を間違えたと、自分の運を呪ったもんだ。

 エロボイスで悶絶したり、舞台の台本を書き換えて滅茶苦茶にしたり。

 海にも行ったし、花火も見たっけな。


「今になって未練がポロポロこぼれやがる。トールと一緒にいたシーンばっかし思い出してんじゃねぇよ」


 一人ぼっちが、こんなにも苦しい。


 ちくしょう、やっぱりカッコいいヒーローにはなれないか。



「何だよ...俺ってこの世界が...好きだったのか...」



 あぁ…異次元空間に…意識が散らばっていく……心が削れていく……



 世界が閉じる。





















 最後に……声が………聞きた………



「……ト………ル………」


【眼の前が真っ暗になった】

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