46. Two precious lives 前編

医師いし』とは、病気やケガを診察しんさつし、治療ちりょう投薬とうやくを行う職業のこと。

 分野ごとに専門の医師がおり、その知識と技術によって患者かんじゃを救う。

 しかし......


 ◇◆◇◆◇◆


"ラーンワイズ邸"


 思い付きで作ったホットドッグが、予想外の大人気。

 バイトが終わらず、時刻は夜になってしまった。


「タスク、お疲れ様。お店は大繁盛だったみたいだね」


「悪いな、おそくなって。テンチョが終身雇用しゅうしんこよう契約けいやくをさせようとしつこくてな、断るのに時間がかかったんだ」


「すごい!バイト初日なのに大活躍だね。頑張った頑張った」


 ポンポンとトールに背中を叩かれ、家の中に迎えられる。

 誰かに認められてるってのは、悪い気分じゃないな。


「おーいタスク!やっと帰ってきたのか!」


「...やれやれ...どこにいても...忙しいリーダーだな...」


 通された部屋では、既にプラリネとハーディアスがくつろいでいた。


「あれ、リアは?」


「疲れたから先に休むってさ。何か思い出せるかもって、歩き回ってたみたい」


 フォックスオードリーは、リアにとっては辛い場所かもしれない。

 彼女の親を探す手掛かりが、ここで見つかればいいのだが。


「こんばんはタスクちゃん。娘がいつもお世話になっているみたいね」


 優しい声でお茶を出してくれる、なんとも綺麗なお姉さん。


「え、娘!もしかして......キョーカ...さん?」


「お義母さんでいいのよ?」


「いや、それは......ちょっと」


「冗談よ、本気で困らないで」


 さすがはベンの妻、そしてトールの母親。

 しかし若すぎる、ほとんどトールと変わらないぐらいの童顔だ。

 トールが今19歳、いったい何歳の時に生んだ子なのだろう。


「すいません!お茶ぐらい自分でれますので、キョーカさんは座っててください!」


「あら、気づかって下さるの?優しいのね。ベンはこういう気配りが出来ないのよね。あなた、良い旦那さんになるわよ」


 ふわりとした喋り方は、ちょっとトールに似ているかもしれない。

 ドラゴン騒動の後、妊娠していたことが発覚。

 もうだいぶ、お腹も大きくなっている。


「あぁこれ?フフ、今20週目を過ぎたから、6ヶ月くらいかしらね。元気に動きまわってるわよ」


 ソファーに腰掛けたキョーカさんが、お腹をさする。

 どうやら俺の目線に感づいていたようだ。


「ほら、おいでタスクちゃん。あなたにも、新しい命の声を聞かせてあげるわ」


 腕を引っ張られ、強引に隣へと座らされた。


「アタシも!アタシも!」


「...おい...飛び付くな...胎児たいじが驚く...」


 好奇心旺盛なプラリネを制止するハーディアス。


「フフ、もちろんよ。ハーちゃんも、おいでなさい」


「...いや...僕は......はい...」


「みんな良い子ね。さぁ、耳をすませて」


 パーティー全員、キョーカさんのお腹に耳を押し当てる。

 母に甘える子供に戻った気分だ。


 ...とくん......とくん......とくん......


 キョーカさんの鼓動に呼応するかのように、その新しい生命は胎動を繰り返す。

 まるで、ここにいるよと、必死で呼び掛けているようだ。

 隣にいたトールの目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。


「タスク、泣いてるの?」


「え、嘘だろ......ホントだ」


 ほほを伝う涙を止めることができない。

 これから生まれてくる命、その純粋なメッセージ。

 誰からともなく、俺達はそれを守るように手を繋ぎあった。


【命の尊さ、いとおしさを知った】


 こんなハートフルな感動を与えてくれる。

 母親とは、なんと偉大な存在だろうか。


「...ふむ...いや...ううむ...」


「どうしたハーディアス、何か考え事か?」


 見ると、頭に手を当てたまま、ハーディアスが唸っている。


「...僕の勘違いかもしれないが...一度、医者に見せたほうがいい...」


「あら?病院には通っているけど、何か気になるかしら?」


「...いえ...何となく違和感...と言うか...」


 バーーーン!!


 その時、部屋のドアが、けたたましい音とともに開かれた。

 そこに現れたのは、肌露出が多めの装備を身にまとった美人。

 今回は、綺麗なお姉さんの登場が多いな。


「私を呼んだか?呼んだのだな!ハーディアス!」


「...いえ...一切呼んでは...」


「そうかそうか!私に会いたかったのだな!可愛い奴め」


 一瞬でハーディアスの懐に飛び込み、ワシワシと頭を撫でる謎の美女。


「ななな!なんだオマエ!ハーディから離れろ!くっつくな!」


「お前を知っているぞ。ハーディアスの回りをウロチョロしている『爆弾洋菓子小娘』だな?」


 爆弾洋菓子...すごいニックネーム付けるじゃんか。


「そしてお前が『天然たわわ豊作』だな。『アルバイター坊や』とねんごろの関係とか」


「「誰がねんごろだ!!」」


 トールと俺のことのようだ。

 同時に反応してしまい、謎の美女はなるほどと目を細めている。


「...すまない...ジョブ『外科医げかい』のアネスタシア・ドクタリアス...僕の姉だ」


「「「ハーディアスの姉ー!?」」」


【外科医が現れた】

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