22. Planetary Festivals 後編

"ワーカーギルド"


 日が暮れはじめ、ワーカーが続々とギルドに集まってきた。

星降祭ほしふりまつり』のクエストを受けるためだ。


「クエストを受注する方は、こちらにお並びください。クエストアイテムの『短冊たんざく』をお配りしています」


 迫りくるワーカーの波に、受付は大忙し。

 早めに来ておいて良かった。

 さて、短冊にどんな願いを書こうか。


「よぉタスク、お前も来てたかよ」


「ピスコ、今日も飲んでるのか?」


 友人のピスコと挨拶を交わし、拳を二度突き合わせて握り、人差し指と親指を立たせる。

 俺とピスコで考えた、オリジナルのハンドシェイクだ。


「ピスコは短冊に何を書いたんだ?」


「グフフ、俺はな『女の子とお喋りしながら一晩中飲み明かしたい』って書いたね。これ以上は無いだろ?」


 ピスコらしいというか、どこまで行っても酒好き女好きって感じだな。


「その願い、すぐにでも叶えてあげましょうか?」


 割って入ってきたのは、ギャルソンエプロンとベストを身に付けた女性。


「急に出て行ったと思ったら、こんなところで油を売っているとは。バカみたいな願い事を考えてないで、店に戻ってください!」


「わ、わかったよ!すまんタスク、嫁のカベルネだ。ジョブは『ソムリエ』で、一緒に店をやってんだ」


「貴方がタスクさん?うちのバカがいつも迷惑をかけてごめんなさい。ほら行きますよ!お客さんが増えてくる時間帯なんですから!」


「イテテ!わかったって。じゃあ頑張ったら今日一緒に...イデデデデ!」


 ピスコは首根っこを掴まれて連れて行かれてしまった。

 最後ちょっと、カベルネの顔も赤くなっていたような。


【バーテンダーのピスコ、リタイア】


 しかし、あいつ結婚してたんかい。

 あの飲兵衛のんべえに、あんなに綺麗でしっかりした奧さんがいるなんて、カラーズ七不思議の一つぞ。

 おっと、そろそろクエストの説明が始まりそうだ。


「いいですか、良く聞いて下さい。このクエストの目的は至って単純、クエスト会場『星見の丘』で願いを書いた短冊を飾るだけ。そして、最も高い位置に短冊を飾りつけた方には、追加報酬が与えられます」


 競技性を持たせることで、祭りを盛り上げる。

 まったく、面白い趣向しゅこうじゃないか。


【ワーカー達の熱い夜が始まった】


 "星見の丘"


 満天の星、あわく輝く上弦じょうげんの月。

 星見の丘とは良く言ったもので、七夕をやるには最高の場所だ。


「今にも降ってきそうな星空だね。いくつ星があるのか数え切れないや」


「あの星のどれかに、こことは違う文明があって、宇宙人が侵略を企んでいるかもな」


「じゃあタスクがいた世界も、この中のどれかかもしれないね」


 トールの何気ない言葉で思い出した。

 俺、異世界に来てるんだよな。

 別の星に来ている、そんな発想はなかった


「おい!願い事は決まったのか?アタシは背が伸びますようにって、お願いするんだ!タスクは何を書いたんだ?」


 子供のようにはしゃぐプラリネ。

 いや、子供だった。

 俺が短冊に書いた願いは。


「『お祭り王』になってみせる!これが俺の願いだ」


「子供かよ!?何だお祭り王って、願いじゃなくて決意みたいになってるし」


「いいんじゃないかな、私はそういう真っ直ぐな願い、好きだよ?」


 子供で結構、こういうのはノリが大事だ。


「しかし、願い事は書いたが、どこに飾る所があるんだ?」


「タスク......あれを見てみろ......」


「......っ!えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 ハーディアスが指差した先、空の彼方から、巨大な物体が飛来する。


 ドォォォォォンッ!



「ザッザァアァァーー!!」


「何だ、この巨大な笹に顔が付いた化け物は!?」


「イベント限定モンスターで...この時期に現れること以外は謎だ...」


 イベント用のモンスターなのか。

 こいつの枝に短冊を飾れと。


「教えてやろう、こいつは『ササーエント』という魔物だ。丈夫で長くしなやかなみきを持つ、ささ系のエント種。そのテッペンに、願い事を書いた短冊を飾ると、願いを聞き届けてくれるという神秘的なモンスターだ。余談だが、枝から生える葉は防腐ぼうふ作用があるので、食べ物を包むのに適している」


【ドラゴンのアスモダイが現れた】


「アスモダイ!?なぜここに!」


 過去に戦った強敵の、早すぎる再登場。

 アスモダイは俺と戦って以来、フォックスオードリーで学生に勉強を教えているはずじゃないのか。


「疑問を察知したので教えに来ただけだ。解説役として、私以上の適任者はおるまいよ」


 どこまでも教えたがりなドラゴンだ。

 人に知識をひけらかすためだけに、遥々はるばるフォックスオードリーから駆けつけるかね。

 だから、アンサードラゴンなんて呼ばれるんじゃないか。


「もう帰らねば。ヴァイルという出来の悪いのがいてな、目を離すとすぐに怠けてしまうのだ。まぁ、事前に鉛筆を削って揃えておくような、可愛いところもあるのだがな...フッ」


 そう言うとアスモダイは、巨竜の姿に変身し、飛び去っていった。

 あいつ、レアモンスターの割には目立ちたがり屋だよな。

 と言うか目立ちすぎだ、まわりから変な視線を感じる。


「ただの友人です。お気になさらず。ハハハ...」


【パーティーに『ドラゴンの隣人りんじん』の異名がついた】


 あんにゃろ、よその街だと思いやがって。

 とにかくクエストに集中だ。

 誰よりも高い位置に、短冊を飾ってやるぜ。


「さぁ!やるとするか!」


【願い事争奪戦の火蓋が切って落とされた】

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