4. It’s my life 後編

"パンドラの森"


「昨日と要領は同じなので、さっそクエストスタート!!」


 ペトルゥがゴングを打ち鳴らす。

 相手はパンチャーゴブリン、小柄ながら連続攻撃で攻めてくる森の狂拳だそうだ。

 今度こそ勝たなければならない。

 ここから俺達の伝説が始まるんだ。


 2日目、VSパンチャーゴブリン

 コンビネーションブローの前に敗北。


 3日目、VSパンチャーオーク

 大振りのパンチを避けつつチクチク攻撃していくも、スタミナ切れで捕まりノックアウト。


 4日目、VSパンチャーゴブリン

 トールを盾に使ってしまい、監査官から倫理的にダメを出され、反則負け。


「クエストの...報告を忘れないように......」


「おい、笑うの我慢してるだろ?」


「プっふ!パンドラの森で4タテ食らうなんて前代未聞。どうやら君タチは伝説を残したようだね」


 どうか誰の記憶にも残りませんように。


【不名誉な伝説を打ち立てた】


"フランキーのジム"


「ムッハァ!またダメだったのか。なぁに明日こそは上手くいくとも!」


「あんなの!どこがチュートリアルのモンスターだよ!?パンパンパンパン殴りやがって!」


「タスクは私を盾に使ったこと、反省してよね!」


「トールはただ息してただけじゃんか!」


「ひっどい!サポートスキル入れてたよね!私頑張ってたよ?」


 大声で応援してただけじゃないか。

 ダメだ、明日が最後だってのに何をやってんだ俺は...

 主人公補正であるだとか、ピンチの時の都合の良い展開だとか、そういうものが一切働いてない。


「そもそも他の奴はどうやってこのクエストをクリアしてんだ?新人が戦って勝てる相手に思えんぜ...」


「ヌゥン!言いにくいのだがな...そのクエストは失敗することが、まず無いのだよ!」


「「えっ!!?」」


 失敗が無い?俺達がこれだけ苦労してるのに、他の人はあっさり達成できてるのか。


「ムッハァ!ギルドにはベテランワーカーが大勢いただろう?あれは新人のクエストを手伝うために来ていたのだよ。モンスター1体倒して、そこそこの報酬も出るのでな!」


「嘘だろ?じゃあ本当は何もしなくてもクエスト達成できてたってことなのか」


「ウヌヌ!歓迎会みたいなモノだからなぁ。まさか新人同士でパーティーを組むとは、ギルドでも話題になっていたぐらいだ!」


 痛恨のミス!!

 つまり正解は可愛い声優ではなく、ムキムキのボディビルダーだったってことなのか。


 ガタッ!


「アハハ......外の空気吸ってくるね...」


 トールは少しだけ悲しそうな声でそう言い、ドアから出て行ってしまった。

 そういえば、パーティを組もうって言ってきたのはトールだったか。


「どうすりゃいいんだ...」


 こっちに来てから何一つ上手くいってない気がする。

 せめて、もう少しマシなジョブだったら違っていたのに。


「ムゥン!決まっているだろう!思いっきりやればいいじゃないか!100点満点は無理でも、心底全力で挑むことは出来るだろう?君がやれることをやったなら、あとのことは後の事だ!」


 筋肉の人は何に対してもポジティブだ。

 俺がやれること......


「ムァッハッハッ!そんなことよりも大事な事があるんじゃないか?」


あとのことは...後のことか。


「全力で散歩してくる!」


【タスクはジムを飛び出した】


 トールはワーカーギルドの前で星空を見上げていた。


「...心配して迎えに来てくれたの?」


 透きとおるような声だが、元気が無い。


「いや、外の空気を吸いに来ただけ」


「そっか...ゴメンね、私が声かけてなかったら、今頃クエストは達成できてたのに」


 やっぱり気にしていたのか。

 振り返ったトールの目は、少しだけ赤くなっているように見えた。

 

「あの時トールが突っ込んで来なかったら、ムキムキ男との物語が始まってたかもな。そんなストーリー誰が見たいよ?」


「うーん、それなりに需要があるかも?」


 フォローの仕方を間違えたようだ。

 トールには持って回ったような言い方じゃ伝わらないのかも。


「俺は知り合いもいないし、声かけてくれて感謝してるよ。もう一回あの場面からやり直せるとしたら、きっと俺からトールに声かけてる。大変かもしれないけどさ、トールと一緒にクエストをクリアできたらって思うよ」


「......私もタスクと一緒がいいかな。ちょっと弱気になってたね。うん!」


 占いの時、何度引き直しても結果は同じだと言われたっけ。

 何回やりなおしても、やっぱり俺達は出会っていたと思って納得しよう。


「何だか...告白みたいな感じで照れるね」


 しまった!調子に乗りすぎたか。

 赤くなってうつむいちゃったよ。


 ......いやいや、声優は役者なのだから。


「おい、演技やめろって!」


「えへへ、バレたか」


 全く、こういう奴だわ。


「ねぇ、タスクはいつか、元の世界に帰っちゃうの?」


「そうだな、帰る方法が解れば......ん?」


「フフ、異世界から来たって、ホントの事なんだね」


 おっと、トールと話してると、どうもペースが乱される。


「さあ帰るぞ!明日が最終日なんだからな」


「やっぱり迎えに来てくれたんじゃない」


「ちーがーいーまーすー!」


 いつもの笑顔に戻ったトールとの帰り道、何となく...その声がこそばゆくて。


【タスクは頬を赤らめた】


「うるせーんだよ!天の声!」 「え?何?」

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