第17話 紅月-17
左回し蹴りが由起子の右肩で妙な音を立てた。折れた、と思った瞬間、田口は一気に間合いを詰めた。田口の笑みがはっきり見えたとき、由起子は崩れ落ちるように身を屈めた。田口の右ストレートが空を切った。その下から地面を這うように飛んだ左アッパーが、田口の腹を獲えた。次の瞬間、田口は宙に舞った。そして、地面に落ちて二三度バウンドした後、悶絶の声を上げた。驚愕の声の中、由起子は左腕をゆっくりと掲げた。
そして、群衆をかき分けてその場を立ち去った。
* * *
―――……ホントなんだね……。
怖い?
―――いや…、…でも、背筋が寒くなるよ。
あの瞬間しかなかった…。田口にわずかに油断があった。あたしにはもう反撃するゆとりはないと思ったんでしょ、肩の骨が折れた時に。だから突っ込んできた。だから、反撃できた。あたしはとにかく気を落ちつかせて、自分の中心に気を集めて、それを左腕に託してぶつけた…。それが、最初のファントム…。
―――でも、誰も追って来なかったの?
後はよく覚えてないわ。リンチに会うのが怖くて、その場から離れようとしたんだけど、満足に歩けなかった。後で知ったんだけど、秋葉さんがあたしを病院まで運んでくれたのよ。姉貴分としては、放っておけなかったのね。
―――いい人だったんだね。
あのままだと、リンチされるかもしれないから。……でも、タイマンの勝者には、敬意を払うっていうのが暗黙のルールらしくてね、もし、あそこであたしが倒れても、そんなことはならなかったみたいね。
―――不良には不良の仁義ってものがあるんだね。
そう。まだ、そういう、ルールというか、プライドみたいなものが残っていたのよ、あの当時は。
―――その後はどうなったの?
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