第16話 紅月-16
田口の命令で群衆の輪は大きくなって、二人を取り囲んだ。秋葉は心配そうに由起子に寄り添った。
「あんた、バカ?田口さんに勝てるわけないでしょ」
「でも…やらなきゃ」
秋葉から離れると由起子は田口に真っ直ぐに対峙した。田口は薄笑いを浮かべながら、由起子に言った。
「空手かなんかやってるそうだな。あいにく、俺も空手をやっててね、まぁそれ以上に、ケンカが好きなんでね、お前に勝ち目はないよ」
由起子はじっと田口を見つめるだけだった。
「どうだ、俺の女になるっていうなら、勘弁してやるが、どうする。女の奴人がどんなに悲惨か、お前にも想像がつくだろう?」
「いい。始めよう」
由起子の言葉に田口は軽快なフットワークを見せた。由起子をなぶるかのように由起子の周りを回りながら、軽くジャブや足を蹴り上げて見せた。
次第に手拍子が鳴ってきた。歓声の高まりとともに、田口のフットワークは軽快になってきた。由起子は、田口のペースに呑まれまい、気迫で負けまいと思いながら、じっと田口の動きを目で追った。
次第に間合いを詰めてきた田口は、一瞬速い蹴りを入れてきた。受けた腕ごと由起子は弾き飛ばされた。痺れる腕の感触になんて強い蹴りだろうと思って顔を上げると、もう田口は間近に迫っていた。あっと言う間もなく、パンチを顔面にもらって倒れた。痛みを堪えて起き上がろうとすると脇腹に蹴りが入ってきた。そのまま崩れるように伏せると、今度は背骨に膝が落とされた。
ほんの数分の間に由起子はぼろぼろになっていた。離れて息を整えながら、田口は言った。
「おい、もう終わりか?こんなじゃあ、観客も満足しないぜ。なぁ?」
歓声が上がる。
「一年で
歓声が一層大きくなる。
由起子はふらふらになりながら立ち上がった。全身が痛む。どこと言える訳でもなく、全部が痛む。それでも、このまま、なぶり殺しになった方がましだと思った。そう思ったから立ち上がった。抵抗できる間は抵抗する。そうして、死んでもいいと思った。
「ほう、まだ立てるのか」
田口はゆっくりと近づいてきた。そしてまた軽快なフットワークを始めた。間合いを取りながら、次第に近づいてきて蹴りを入れた。辛うじて立っている由起子にはかわせなかった。
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