第10話 紅月-10
* * *
―――それで、集まったの?
うん。一年生が何人か入って、前の部員の人達も戻ってきて、結局十二三人になったのよ。
―――先生、エースになったの?
んん。控え。ピッチャー経験者が、一年の田川君とあたししかいなかったんだけど、あたしは背も低かったし、まだまだボールも遅かったから、控えで外野守ることになったの。あ、打つのと守るのは結構うまかったのよ。二年生にも負けないくらい。足も速いし、一番でライトになったの。いまのイチロー君とおんなじね。
―――へぇ、すごいな。
野球部は、順調によくなっていったわ。他のクラブはまともに練習すらしてないのに、野球部だけは練習も真面目にやっててね、周りからは不思議な目で見られていたみたいね。でも、まだまだ対外試合ができるほどじゃなかったの。それに学校の評判があまりよくなかったから、相手が見つからなかったっていうのが、本当だったみたいね。
それに、あたしもそうした不良連中に巻き込まれていったの。
* * *
練習を終えて更衣室に向かう途中、由起子は呼び止められ、振り返るとそこに秋葉が立っていた。ちょっと、と手招きしながら由起子を呼び寄せた。由起子は少し躊躇ったが、素直に近づいた。
秋葉は仲間を二人つれていた。二人とも明らかな校則違反の派手な髪型をしている。もっとも、校則なんていうものは有名無実で、上級生で校則を守っている学生は半分ほどしかいなかった。だから、由起子も特に驚くこともなく秋葉に招かれるままに三人に近づいた。
「あんた、こないだの事だけどさぁ」
秋葉はダルい喋り方で由起子に話し掛けてきた。
「アタシ、黙っといてやってもいいよ」
「え?」
「アタシがチクったら、あんた、退学になるんだよ」
「あ…ぁ、ぅん」
「それと、吉村。あいつにも、仕返ししないように、口利いてやるよ」
「え?」
「あいつ、執念深いから、きっと、恨んでるよ。でも、アタシがひと
「…ん」
「どう?」
「あ、……お願いします」
「ふん。いいよ。だけど、その代わり条件があるんだ」
やっぱり、と由起子は思った。
「あんた、アタシたちのグループに入んな」
「え?」
「あんた、空手かなんかやってるだろ。そういう娘が欲しいんだよ。どうしても、女なんてなめられるからね、あんたみたいに腕の立つ娘が欲しいんだ」
「でも、入って、どうするんですか?」
「アタシが呼ぶときに一緒に来ればいいだけさ」
「それで……?」
「ふん、後はその時にわかるよ」
由起子は戸惑った。薄笑いを浮かべてる秋葉が何を考えてるかおおよそ検討がついた。ケンカに使う気なんだ。由起子は俯きながら、静かに言った。
「……あたし、野球がしたいんです」
「ぁん?」
「野球がしたいだけなんです」
「なんだ?」
「だから、すいません。野球部の方を優先したいんです」
「それは、どういう、こと?アタシ、の頼み、断る、ってこと?」
「すいません。とにかく、いまは野球がしたいんです」
「断るんだね?」
「すいません」
「いいんだね。吉村が、仕返しに来るよ」
「……」
「野球部なんて、ぶっ潰されるよ」
「そんな……」
「あいつならそのくらいやるよ」
得意気に話す秋葉を見ながら由起子は躊躇いながら頷いた。
「…わかりました。でも…、野球部の試合があるときは、勘弁して下さい……」
「あぁ、いいよ。じゃあ、そのうち連絡するよ」
三人は悠々と立ち去った。由起子は後味の悪い思いをしながら、その姿を見送った。
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