第7話 紅月-7
邪魔者扱いされながらローラー掛けを手伝い、トンボ掛けを教えてもらって見渡すと、そこは間違いなく野球をするグラウンドだった。由起子は満足だった。感慨に浸りながら眺めていると頭を小突かれた。
「ナニ、ボーっとしてやがんだ、コノヤロウ」
「あたし、ヤロウじゃありません。ギャルっていうんです」
「ハハ、なにがギャルだ。こんな発育不良のくせに」
「まだ、一年じゃねえか。そのうち、グラマーになるかもしんねえぞ」
「そんときは、一緒に着替えてもらいたいもんだな」
笑い声は広いグラウンドに霧散していった。
「おい、黒田」
不意に背後から女の声が掛かった。振り返ってみると、髪を茶色に染め、ソバージュにした女子学生が立っていた。
「あ、秋葉さん」
黒田たちは頭を下げて挨拶をした。女子学生は、じろりと由起子を見つめながら不貞たような口ぶりで言った。
「なんだよ、あんたら。いつの間に青春しちゃってるのぉ」
「いや、これは…」
「なに、その娘?」
「あ、こいつは新入生で…名前、何てったっけ」
「緑川由起子です」
「ふーん。吉村は知ってるの?」
「いや、最近会ってないんで、まだ言ってません」
「いいのかい。吉村のいないとこでそんな勝手なことしてて」
「いや…来たら、ちゃんと説明しますんで…」
「今日、会うかもしんないから、言っといてやるよ。あんたたちが、青春してるって」
「は…はぁ、よろしく…」
秋葉は横目で由起子を睨みながら去って行った。
「やばかったかな…」
「あぁ、ちょっと…」
「ねぇ、あの人なんなの?」
「あの人はな、秋葉さんっていって、この学校の女のリーダーなんだよ」
「吉村さんと仲がいいから、俺達も目を掛けてもらってたんだけど、やばいな……」
「なにがやばいの?」
「だってな…、吉村さんの許可なしに、こいつ入部させて、こんなことまでしてるんだから…」
「いいじゃない、野球やろうよ」
「気楽だな、オマエは…」
「リンチされるかもしれないってのに…」
「どうしてぇ?野球部が、野球できるようにしただけじゃない」
「そんなこと言ってもな…」
「ヤベェな…」
「おい、緑川」
「ユッコでいいよ」
「そんなこと言ってる場合か。オマエ、明日は来るな」
「えぇ、どうして?」
「俺達で何とかしておくから、オマエは明日は休め」
「はぁ……?……ヤダ」
「バカ!」
「だって、まだ見習いだもん。早く正式に入部させてもらって野球やるんだ」
「オマエ、いいから俺達に任せろ」
「ヤダ」
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