十七話 不穏な村・三

 シカやイノシシ、それにイヌなどなど、普通の動物しか見当たらないトルキー周辺の草原を見回って数時間。さすがに日が傾き始めてきている。

 動物はいるということは、ここで起こっている異変っていうのは強いモンスターが暴れまわっているみたいな“わかりやすい問題”ではなく、勘の鋭いモンスターだけが逃げ出すような事態ということだろう。

 

 「そろそろ村に戻ろうか」

 

 タロウさんの提案に異論はない。現状では謎が多すぎて、一旦休んで頭を整理したい気持ちもある。

 強いて言うなら……

 

 「あとはあの丘だけ見ていこう」

 

 すぐそこにある小高い丘。あそこからなら意外と遠くまで見えそうだし、締めに確認しておくにはちょうどいいよね。何となくだけど、気になる感じがするし……。

 

 「り!」

 「そうねぇ、いいと思うわ」

 

 サヤちゃんとナデシコさんの同意も得られて、さっき示した丘へと向かう。僕が先頭で、サヤちゃんとナデシコさんが続き、タロウさんが正面以外の周囲を警戒しつつ最後になるという並びだ。

 広い草原の中でこの辺りだけ急に隆起したような地形だから、ただの丘とはいってもこれが結構視界を遮っていた。だからこうして登ってくると、一気に視界が開ける。

 

 「っ!」

 

 今の今まで見えていなかったそれは、四つの人影。向こうもこっちに気付いたところであったようで、驚愕の表情がこちらからも確認できる。といっても一人は全身鎧で顔なんて見えないし、他の三人も中々の重装備をしている。

 

 「冒険者……かな?」

 「どうでしょうかぁ」

 「とにかく……警戒を」

 

 サヤちゃんとナデシコさんに比べてタロウさんはぴりぴりとしている。何か感じたようだった。

 かくいう僕も、ちょっとあの四人からは不穏なものを感じている。

 

 「一歩下がって」

 

 僕が前に出て皆をカバーできるように構える。超能力を発動して全身を発光させた僕は、耐久力も高ければ反応も速い――つまりは一番前衛向きだ。攻撃力の高いサヤちゃんが僕を盾にして攻めに集中し、ナデシコさんが一歩引いたところから魔術を用意しつつ随時指示を出し、皆の目が届かないところをタロウさんがフォローする、という形が冒険者としての僕らの“良い形”となっていた。

 

 先ほどの驚愕から一転して、余裕のある動きでのしのしと彼らが近づいてくる。全身鎧を除く三人は、遠くでは浅黒い肌に見えていたけど、距離が詰まったことでそれが違うことに気付いた。

 

 「魔族!」

 

 驚きの感情と警告の意図を半々で、ナデシコさんがその正体を口にする。あの青い肌……、王城で聞かされた魔族の特徴!

 

 「なら先手を……っ!?」

 

 動こうとした僕の腕を後ろから掴んだのはナデシコさんだった。

 

 「落ち着いてぇ、まずわたしが話してみるから」

 

 話すって……。王城で聞いた話では魔族は人族を追い詰めている敵で、しかも少数で圧倒している恐ろしい存在ということだった。

 

 「……」

 

 人影の中でひと際に存在感のある全身鎧が、小さく……本当に少しだけ首を傾げたように見えた。

 まさか、本当に交渉の余地が……? だとすると、僕らを召喚したこの国――テルタイ――の上層部から聞かされた魔族についての話って……。

 

 しかし、真実は謎のままにしても、少なくとも甘い考えをしていたようだ。

 魔族らしき連中の一人が、弾かれるようにしてこちらに向かって駆け出す。それに二人目、三人目、と続き、最後に全身鎧も格好からは想像もつかなかった軽快さで動き出した。

 

 「あのスピードは敵対行為と判断していいよな?」

 

 確認するようなタロウさんの言葉だったけど、それはもう断定の意思が込められていた。

 

 「……はい」

 「かいちょ?」

 「いえ、大丈夫ぅ。あくまでも様子を探ることを優先してぇ、慎重に対処するわよ」

 

 それでも何かが引っ掛かっているような素振りを見せていたナデシコさんも、サヤちゃんから確認されると、覚悟したようだった。

 

 ギッイィィィン!

 「くうっ!」

 

 先頭の魔族が叩きつけるように振るってきたショートソードの一撃は、超能力を発動して受け止めた僕の腕を痺れさせるほどだった。

 これまで戦ってきたモンスターなんかとは比べ物にならない! 思っていた以上に大変な相手じゃないか、魔族っていうのは。

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