人気トラットリアのこぼれ話
戮藤イツル
新人・小日向透の雇用
【1】上半生
彼は昔から、洋画のスプラッターが好きだった。
それはもう、子供の頃から食い入るように観ていた。親も心配するほどに。
そんな彼がまず興味を抱いたのは、いわゆる人体模型と言うやつだった。
理由は簡単、それを隅から隅まで覚えればゆくゆくは役に立つから。
彼の理科の点数は小学校一年生から高校三年まで、ずっとトップクラスだった。
それから自分の身体能力に気付いた。
彼は子供頃から足が速かった。そして体も柔らかかった。
ついでに言うと自宅の庭にある柿の木くらいなら、木登りでは無く一足飛びで登ることが出来た。
彼はそれを隠すことにした。親に体操教室に通わせてもらう事で、自分の生まれつきの身体能力がそうして培われたものだとやりすごすことにした。
結果的にはどの大会に出されても金賞を獲るという化物じみた幼少期を送った。
それも何かの役に立つと思ったからだ。
そんな計算高い彼が、スプラッターを観ながらずっと思って居た事。
『僕もあんな風に、何かを殺してみたい』。
小学一年生にして大した危険思想保持者である。
そんな彼が初めて何かを殺したのは、小学校のクラスで飼っていたうさぎだった。
父親が趣味で持っていたサバイバルナイフ含む一式の刃物を持って夜の校舎に忍び込んだ。
そして、ああでもないこうでもないと切り刻んで、結局は鉈で首を刎ねた。
その時、彼は知ってしまったのだ。
何かを殺めると言う、愉しさに。
それから彼は、動物と言う動物、四足歩行するものやそうでないもの。なんでも殺してみた。
だが結果的に得られるのは、中途半端な愉しみだった。
そう、彼の頭には子供の頃ずっと観ていたスプラッターがこびりついていたのだ。
高校時代にはもう、自分が本当に殺したい生き物を結論付けていた。すなわち。
人間を殺してみたい――。
だがそれにはリスクが大きすぎる。
悩める彼は、そのまま人を殺したいと言う欲望を抱いたまま鬱々とした高校生活を送っていた。
そして進路希希望表が配られた時、考えたのだ。
人間は殺せないかもしれない。だがそれ以外の動物を殺すことが出来れば。
そう考えて、彼は農業系の大学に進学した。勿論、バイオ関連ではない。
体育大学でも無い事は大変嘆かれたが、彼の知るところではなかった。
屠殺。そう、この世には都合良く理由付けで動物を殺すことが出来る学部があるのだ。
そうして進んだ進路。だがそれも長くは続かなかった。
一回生は授業三昧、教科書とレポートでおおわらわ。
二回生は肝心の殺すための動物は一から育てて、あろうことか出荷されて行った。
三回生になる前に、彼は大学を中退した。当然、親は激怒した。
手塩にかけて大学まで行かせた息子が、勝手に大学を中途退学していたら当然のことだろう。
一過性ではあったにしろ、仕送りは止められ彼はバイトの掛け持ちを余儀なくされた。
殺すために生きて来た人生が、自分が死にそうになっている。特に部屋はすぐに引っ越した。家賃がかさみ過ぎる。
あとは食うもの。食うものを得るために働かねばならない。そんな彼にぴったりの仕事があった。
ファミリーレストランのアルバイトである。
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