track11 次の修行

「うぃ終わりー、お疲れ。んじゃ早速作るから二日後にまた店…じゃないや教会に来てちょ」



数分後、羞恥に悶える夢魔の身体を隅々まで採寸したロミィは、道具を片付けながらそう言った。

終わるやいなや最高速度でドレスを着用し、未だ余韻を残す羞恥をそのままに率直な疑問を投げかける。



「ふ、二日で出来ちゃうって…随分と早くない?」

「信仰より服作りのほうが得意だからねウチは。…まぁでも、サキュバス用の衣装はいつも三日はかかってたな」

「え?じゃあ何で私は二日なの?」

「だって胸のところ布一枚で済むじゃん」

「もうええわマジで!!!」



いつまで貧乳ネタでいじってくるんだコイツ…。

しかも修道服の上から見ても結構なモノをもっているのが余計に腹が立つ。

何で俺よりちっこいのに俺より胸デカいんだ。


…いやいやいや今の文章はおかしいイカれてやがる。もう胸に関しての嫉妬は禁止だ。




「ていうかその前に!!!採寸だけでおわり!?何か衣装のデザインとかは?」

「あぁそれは大丈夫。…さっきヴィエラっちに原案貰ったから」



ロミィは徐に一枚の紙を俺に見せる。

そこには”勝負服”という題名と共にヴィエラが描いたのであろうデザイン画があった。


胸部は中心が菱形にくりぬかれた黒いサラシのようなもので覆われ、腹部はかなりギリギリまで露出している。何故か申し訳程度に赤のスカートを履いてはいるが…太ももの付け根に迫る勢いの短さだ。

他には黒ニーソ、サテン(白色)の手袋等………なんかもう”性癖大渋滞”としか言いようがないデザインだ。



「露出度高すぎてパーツ毎みたいになってんじゃん……。勘弁してくれ……」

「嫌なん?」

「当たり前だ!……でもどうせ拒絶してもあの人譲らないだろうし……」



拒否するにしても、サキュバスにおいて”露出度が高いから”というのは理由にならない。

対象を蠱惑するのが前提である以上、むしろこの程度の露出で済んでいることに安堵すべきなのだろうか…いやそれにしても性癖マシマシ過ぎるだろ!!母親までもが変態かよ!!!



「じゃーこれでいいって事で。んじゃ今日は帰って大丈夫よー」

「………ロミィ…だっけ。ちなみにお前、シスターらしい事はしてるのか?」

「んなっ、失礼しちゃうじゃん。もちろんしてるし」

「ふーん…じゃあ見せてよ」



悪戯めいた声で彼女を焚きつけようとする。だが彼女はその挑発に乗らず、何故か妙に真剣な顔つきになってしまった。



「……今後、嫌でも見ることになるよ」

「嫌でも…?それってどういう……」




刹那、部屋の扉が乱暴に開かれる。

吃驚した俺は小さな悲鳴と共に後方を振り返った。



「ロミィちゃん採寸終わった!!!!?」

「シーラ様見てくださいこのゴスロリ!!!絶対お似合いですよこれ!!!」



目に映ったのは、両手いっぱいに購入した服を抱え込んだハンスとヴィエラの二人。

自分達のものだけでなく俺用の服も勝手に買い漁っていたらしい



「はぁ~……」

「元気だねぇ二人とも」




呆れる俺を横目に、彼女は柄にもない笑みを浮かべていた。







「いやぁ買いまくりましたねヴィエラ様!!」

「えぇ、買い過ぎること山の如しね!!!」

「………お前らマジで何しに来たんだよ」



白い紙袋を両手に3つずつ持ち俺の両脇を歩く二人。

この世界では”修行”と”ショッピング”は同義語なのだろうか。



「で?結局俺用の衣装注文して終わりか?……なら早く屋敷に…」

「何を言ってらっしゃいますか。ここからが本番ですよ?」

「”催淫”修行ですものね!!さぁ次の目的地へ行きましょう!」



そう甘くはないようだった。

…精力補給の修行だから当然と言えば当然か畜生!!!


ヘッドバンギングが如き勢いで項垂れる俺。

逃げ出そうにも見慣れない風景ばかりで迷子になることは確実…

いや、今まで8年間も逃げ続けて来たんだ。いつまでもウジウジしてられないだろう。


しかし、”直接”補給するってことはやはり………そういう事なのか?今まで怖くてその手の質問はしてこなかったし、ハンスの講義ではその部分だけ謎の奇声を上げて耳に入れないように誤魔化してきたし……。




「いや、流石にそれはマズイだろ…。何とかR17程度のギリギリの淫猥さで精力を補給できれば……」





頭を働かそうにも前世は健全男子。駆け巡る案は軒並みセンシティブ全開のサキュバスプレイばかり。

クソッ!!!憎むべきは日本の豊潤なHENTAI文化……転生後も俺の脳にがっつり爪痕残してやがる!!!


……暫くすると、突然ハンスに手を引かれた。

バカげた妄想から現実に戻され、視界に変遷した風景が宿る。




「なぁっ………!!!?な、何だ……これは……!?」

「今回のメインはこちらでございます」




先程とは打って変わって、街路の幅はかなり狭くなり周囲の者達も虚ろな目つきの男や、やけに露出の高い服装の女性達ばかり。…並ぶ店も少なく、これまたどれも何となく怪しい。


そして極めつけは、俺の目の前に聳える店。

建物の上部には”ラム・ドゥ・ニュイ”と書かれた細長い看板が、電飾に縁を飾られている。


目の前にも小さい立て看板があり……そこには、『夢魔大歓迎 30分8000フィル』

とデカいカラフル文字で書かれていた。ちなみに”フィル”とはこの国の通貨単位である。


……『30分 8000フィル』ってお前……




「ハンスここって……”そういう店”じゃ…ないよな…?」

「そういう店です」

「そういう店よ」

「母親の口から”そういう店”とか聞きたくなかった!!!!お前ら正気か!!?俺はまだ16だぞ!!」



怪しげな路地、怪しげな往来、そして夢魔大歓迎&時間制の店。

導かれる答えは完全に………そ……そういう店だ。



「夢魔にR指定は存在しませんよシーラ様」

「モラルも存在しねぇのか!!?いくらなんでも絶対嫌だからな俺は!!お家帰るマジで!!」

「往生際悪いわよシーラちゃん!ほらハンス、そっち持って」

「承知致しました」



本日三度目の拘束。しかもコツを掴んだのか二人共確実に俺の関節をキメている。

無様な断末魔を響かせながら、またも俺は地獄へと連行されていくのだった。




「それでも母親かてめぇええぇええええぇええ!!!!!」


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