第38話 結姫の決意 ~モノローグ

 大きな岩が並ぶ露天風呂に娘が二人。

 於結は、この岩に囲まれた露天風呂に浸かり、空に輝く星々を見上げていた。

 今にも落ちてきそうな幾千の星々。

 於結は、一番輝く星に手を伸ばした。


「・・・・・・」

「はあああっ」


 どうしようもなく深い溜息をついた。

 

 その湯けむりの隣には、白拍子の娘・静香も並んで星々を見上げていた。


 ◆

 於結は、あの日あの宴での二人の熱烈な再会思い出す。

 なにせ今、帝都で評判と噂の白拍子。

 この偶然な二人の再開に、御月見の宴に集まっていた貴族たちは趣向に酔い、大いに二人をはやし立て、場が盛り上がる。


 場所を変え、落ち着いた古那が優しく静香に話しかけた。


「一人で村を出て来たのか?」

 首を小さく横に振る。


「弁慶様たちと・・・」


「弁慶殿はどうした?」


「・・・・・・」


「今は、ある御方おかたと共に奥州おうしゅうに旅立ちました」

「その地で共に暮しています」


 物憂げな大きな黒い瞳を古那に向けた。


「私は一人、都に残りました・・・」

「いつか必ず、この帝都に迎えに戻って来ると・・・」


「・・・・・・」

 

 歯切れ悪く、照れた様にモジモジとする静香。


「・・・・・・」

「私の中にその御方おかたの御子が・・・」


 古那と於結が目を丸くしてお互い目を合わせた。


 ◆

 於結が隣で湯舟に浸かる静香をチラリと覗く。

 

 長いまつ毛と雪の様に白い肌が湯けむりにとけ、お伽話の幻想の乙女を想わせる。

 

 於結は静香の口から古那との出会いや秘めた想いを聞いた。


「古那のバカッ!」


 古那は旅立った・・・

 婚礼の日程を延期したうえに、身重みおもの静香の生活を頼むと言って旅立って行った。


―――大事な御役目とはいえっ

―――さすがに父上様や頼政兄さまの頼みであってもっ

―――あまりの申し出っ!


―――頼りになる小十郎は武者修行の旅に出ると言い残し、既に帝都を旅立っていない。

―――頼政の兄さまは、関東は伊豆の地へ国司こくしとして任命され旅立った。

―――朱羅しゅらは父上様からもらった宝刀に釣られ、古那と一緒に福原ふくはらの地へ旅立って行った。


「・・・・・・」

「ザッバアアンッ」

 湯舟に浸かっていた於結が勢い良く立ち上がる。


「私も行こうっ!」

「古那を追いかけてっ福原ふくはらの地へ行こうっ!」

「古那っ!」

「必ずっ・・・」


 そこには、美しく輝く満天の星々を背に冒険を求める一人の娘の決意があった。

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