第16話 土蜘蛛 騒動
宮廷での女官姿とはうって変わり、
今日は宮廷の仕事が非番の為、休日である。実家の屋敷に古那を誘い、御茶を楽しんでいた。貴族の屋敷にみられる
「ねえ。古那ああ。お芝居でも観に
「今日は、”西の
平安京は中央通りに整備された朱雀大路を中心に西と東に町が別ている。月の半分である十五日毎に”西の市”、続いて”東の市”が開かれていた。路に並ぶ商店では
「よしっ。今日は俺が
古那はヒョイと於結の前に着地すると
◇◆◇◆ 西の市
この姫様は町散策が
若い娘らし春色の生地に大きな刺繍をあしらった絵柄の着物を着た娘は、整った顔立ちと大きな黒い瞳が際立って
於結の伸ばした手を伝い、ヒョイヒョイと肩に
そして着物の
「それでは出発するか!」
「俺が於結を護るからな」
於結は着物の胸元から
◆
西の市は人の
二人は路に並ぶ店を覗き商品を手に取り歩いて行く。
二人といっても・・・人から見れば一人の娘が何やらブツブツ独り言を言いながら歩いている様にも見える。
時折、振り返る通行人や店主が奇妙な顔をするのがまた
二人は芝居を観た後、今、宮中の女官の間で流行っている小間物屋に入る。
色とりどりの
「於結よ。そう言えば、そなたの首にかけている
於結は、古那が訪ねた
「この
「お父上様に
と光に
古那ほどの大きさがある水晶の勾玉。中心にキラキラと輝く銀の
「確かに・・・かなりの霊力が封じ込められている様だが?・・・」
「んんっ・・・何処かで見た事がある様な?・・・」
「この水晶は、”魔物” を寄せ付けないそうよ・・・私の御守り」
と於結が大事そうに
◇◆◇◆ 土蜘蛛騒動
寺の鐘がゴーンと鳴り響き、夕刻の時を知らせた。
西の市で商売していた店は、一斉に閉店の準備を始める。都では夕刻になると
集まった人々も名残り惜しそうに
二人も日が暮れるまでには、屋敷に戻らなければならない。
「ガシャン」「きゃあああ」
人混みの中を甲高い悲鳴が響く。
悲鳴が聞こえた中心の周りにいた人々が慌てふためき四方に散る。
人々が散った中央に先ほどの
そして町人は力尽き頭をうな垂れた。
「まっ魔物じゃあああ」
悲鳴があがる。
つまずき倒れた人に向かって右手を伸ばすとシュルシュルと手から白い糸を
「ひゃあああ。やめてくれ」
足に糸を絡められた町人が必死に助けを求め
「誰か!!たったったっ助けてくれ」
「・・・」
「大丈夫か?!」
声をあげながら、
異形の山伏の男に近づき、糸を吐く山伏の男に
「くそっ」一人の兵士が、足に絡まった糸を太刀で切り離そうとする。
「・・・」
山伏の男は不気味な声を発し、表情の無い白い顔と真っ赤な大きな口で兵士たちを
「・・・」
見ていた於結の体がブルッと震えた。
目の前の奇怪で見たこともない”魔物”に恐怖し、背筋に冷たいものが走った。
―――あっあっ足が動かない・・・声が出ない・・・これは現実?
―――心臓の鼓動が早い・・・書院で観た魔物の知識と混乱する思考が混ざり合い、頭の中に映像となって映し出される。
「・・・」
「俺が行って来る!」
突然、耳元から聞こえた声にビクッと驚き我に返る。
「こっ古那・・・」
「大丈夫だ。大した敵ではない!」
「・・・」
古那は言うと、地面に着地し助走をつけると山伏の男にめがけ跳躍する。
「・・・」
山伏の男の頭上がキラリと光り・・・一直線に光の残像が地面まで落ちた・・・
「・・・」
「キイイッ」
短い悲鳴に似た声を発すと
兵士たちは、恐る恐る倒れた山伏を確かめる様に近づいた。
「・・・」
ドクンッと山伏の男の体が跳ね上げり、体が折れ曲がる。
皮膚が溶け・・・変わりに黒光りする甲羅、細い足が数本現れた。
数回跳ね上がると静かになり動かなくなった。
「・・・」
周囲の人々が声無く静まる中、立っていた於結の
◆
「あれが・・・”魔物”なの・・・」
「
「ああ。あれは、
布団に入り目だけ出した於結が、天井を見つめて古那に問いかける。
於結の耳元で横になっていた古那が回想する様に、いぶかし気に答えた。
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