第16話 ある、怒れる天使の回想



すやすやと眠るベルの毛先がくるっとしてる癖のある美しい黒髪に指を絡める。

今まで見たどんなやつよりも艶があって黒曜石のようで綺麗だ。

癖のあるこの髪は本人は手入れがしにくいとぼやいていてあまり好きではないみたいだが俺は純粋に可愛いなと思ってる。


髪の少しを手に取ってくるくると遊ぶ。


「お前には…何も気負わず生きて欲しい」


「あわよくば…

早く、俺の手元に落ちてこい。」



俺がこの世界の一切からお前を守るから。

どんなことがあっても俺だけはいつまでもお前の味方でいる。


この世界はベルにとって決して住みやすいと言える環境ではない。


力こそ正義の実力主義である魔界では

力もない争いも嫌いなベルは淘汰される対象になってしまう。


それこそ先日のあいつらみたいな……



***



あの日、ベルの家を出て転移で飛んだ先にいたのはあの悪魔どもだった。


偶然ではなく故意的にだが。

これが俺の『固有スキル・転移』の便利なところだ。

思い描く場所、人物のところに一瞬で飛べる。人物に至ってはどんな場所にいても直接会ったことさえ有れば魔力の波長を探し出しその場所に飛ぶことができる。


この悪魔どもがいたのは赤と茶の煉瓦で造られた少し豪華な一軒家。ここが奴らの寝床なのだろう。


中に気配が1、2、3、4、5…

5人いるな。

ベルに危害を加えたやつの数とも一致する


うじゃうじゃ群れて気持ち悪い。


害虫駆除は早めにしないとな。

さっさと終わらせるに限る。

手のひらに神力を集め一気に放つ。



ドカンっ!!!


バラバラと玄関の扉が崩れ落ちていく。

多少頑丈に造っているみたいだがそんなこと俺には関係ない。


わざわざ呼び鈴鳴らしてとか玄関からすみませーんとか俺がするわけないだろ。

めんどくさい。

玄関ごと吹っ飛ばせば話は早い。

音につられて奥からわらわら出てくる。


「何やってんだてめぇ!!」

「兄貴の家と知ってのことかぁ!」

「何やっとんじゃ!」


うわぁ、どこぞのチンピラ…

ドン引き…やっぱり悪魔は低俗だ。


「お前らの言う兄貴はどこだ?」

まだ姿を見せないなぁ….


よほど警戒されているか、こいつらで事足りると舐められているか

まぁ、どちらにせよこいつらは邪魔だから



1人ずつ消していこうか


瞬きの間に目の前に迫る天使。

動きが目で追えないほど速い。

「お前、ベルの手を踏みつけていたな?」

「あぁ?なんの話してんだ…うわぁぁぁ!!あ"あ、俺の手が…俺の………ごふっ……」


ベルの手を踏みつけていた悪魔の腕を吹き飛ばし剣で心臓をひと突きすると簡単に死ぬ。


ドサっ…


サッと剣を抜くと呆気なく悪魔の身体が地面に横たわる。


物言わぬ亡骸になったことに何も思わない。


やっぱり俺は俺のまま。

今も昔も変わらない。


あいつだけが、ベルだけが俺を俺じゃなくさせる。

ベルが笑っていると胸が温かくなるし、怒っていても可愛いなとしか思わない。怪我をしているのを見ただけで怒りで我を忘れてしまう。

そんなことを思うやつは今までいなかった。


こんな姿はベルにしか見せない。

あの日ベルに出会ってから、

ベルだけが俺の特別で唯一。



だから、あいつを守るために…

あいつの平和な毎日を守るために


お前らはいらない。


目の前で仲間を殺されたやつが何か吠えているが興味はない。

さっさと終わらせるか


「さぁ、かかってこい雑魚どもが」




悪魔は残り4人






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