第9話 痛いのはイヤ…

なんとしてもこの場を抜け出さないと…

でも全くどうしたらいいのかわからない。


他の悪魔と違って争うことに不慣れな僕はこの状況を打開する手立てがとんと思い付かなかった。


それでもにじり寄ってくる奴らが気持ち悪くて、本能は早く逃げろと警告を鳴らしている。


奴らは僕を全くの弱者として侮っている。

そこが隙になってるはず。


きっと、

チャンスは一回。



戦闘慣れした奴らを欺くのは一回が限界だろう。


1、2、3!


カウント3と同時に一気に駆け出す!



悪魔どもの間をすり抜け視界が開けたと思ったその時、

目の前にすり抜けたはずのやつがいた。


「いやぁ、飼い猫に噛まれるってこんなにイラつくんだねぇ…」

「!?…ッッ!!」


先程の表情から一転、

笑みを消した悪魔の顔を認識したと同時に腹部に強い衝撃を感じた。


気づけば僕の身体は後方に吹っ飛ばされていて軽く10mは飛んだと思う。


早すぎて何が起きたのか理解できなかったが、腹部から伝わってくる痛みがあの悪魔に蹴られたといやでも認識させられた。


痛みを堪えていると

ふと自分にかかる影に目をやれば、あの悪魔がいて


「雑魚は飼い猫らしく従順にしてればいいんだよ…なぁ!」

「ガハッっ!!」


ガンッ、ドゴォッ!!


2度、3度と蹴られた。

痛みで気づかなかった僕は、

あの悪魔の接近を2度も許してしまった。

それが悪いんだ。


ほんと、

戦闘慣れしてないにも程がある。

これがほんとに命を狙ってきた悪魔だったら一瞬で、最初の一撃で息の根を止められていた。


弱肉強食の魔界は強さこそが正義、

弱いものは淘汰されるのだ。

むしろ今まで誰にも絡まれなかったのが奇跡だ。


蹴られた腹は痛いが

僕を飼い猫と言う奴には腹が立つ。


「………誰が…飼い猫だ!」

「ほんとにうるさいなぁ…あぁ?」

「グッっ…!」

「雑魚は黙ってろ、よ!」

「………っ」



「あの天使さえいなければお前みたいな雑魚なんて…」



痛みであまり頭が回らない。

あの悪魔に強がるのが精一杯だ。

何か言ってるみたいだけど、もうよくわからない。

この時間が早く終わってくれと思うばかりだった。


あぁ、カマエル…

僕がお前みたいに強かったら…、キレイだったらこんな惨めな思いはしなくてもよかったのかな。


自分にもっと自信が持てたのかな…


痛い…怖い、

…痛いのはいや。



カマエル…



僕が1番に思い浮かべたのはカマエルだった。



こんな時お前がそばにいないことを寂しく思うなんて

いつもそばにくるなって言ってるのに僕って変だな…


ひとしきり殴って蹴って満足したのか、

地面に倒れた僕を放置して悪魔たちはどっか行ってしまった。



奴らが行った安堵により

僕は張り詰めた緊張の糸が切れたのと痛みで意識を手放した。









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