第6話 押しかけ天使と料理

「エル、お前の料理が食べたい」

「………。」


どうしてこうなった…。


先程別れたはずのカマエルがとうとう僕の家に上がり込んでご飯を要求している。


さっき家に連れて行くのは嫌って言ったはずだけどなぁ。


はぁ、こいつはどこまで自分勝手なのだろう。

頭が痛い。



僕は1人になってから家事を一人でできるようなった。

料理もその一つではじめは食材を包丁で切るたび手に切り傷を増やしてだんだけど今では一人前に扱えるようになった。


本当は悪魔は頑丈にできてるからちょっとやそっとじゃあ傷なんてつかないんだけど、魔界の食材ってどれもこれもすっごく硬い。だから必然的に包丁がよく切れるものでないと料理を満足にすることができないんだ。

その包丁は悪魔である僕の肌も容赦なく切ってしまう。何度も危なかった。


はじめはそのことを知らなくてカマエルにご飯をちゃんと食べてるのかと毎回のように聞かれたので食べてることを証明しようと食材を鍋に入れて、煮込んで食べていると内容を話すと呆れて「それは飯じゃない」と言われてしまった。そこからあれよあれよと調理道具一式が揃えられ、使い方も教えられた。この恩をどうしたら返せるのかと悩んでいると、


「いつか、俺にベルの飯を作ってくれ」


そう言われた。ここまでしてくれたんだししょうがないなと思いつついいよって言っておいた。


ただ、いまだにカマエルに作ったことがないのは僕に自信がないから。


それは飯じゃない騒動からかれこれもう1年くらい経つ。

カマエルがそろそろかなぁと思っているのも知ってる。


でも…もし失敗して美味しくないものが出来上がって食べたあいつががっかりしてしまったら?

僕の料理の腕前があいつの想像よりダメだったら?


怖い、失望されることが。


なんだかんだ僕はカマエルに甘えている。


このままの関係を望んでいるんだ。

変わることは望まない。

だってあいつがいなくなると



また、僕は1人になってしまうから。



台所で包丁を握ったまま止まった僕の後ろから抱き込まれるようにして僕の手にカマエルの手が乗せられた。


「大丈夫だ、お前ならできる。

どんなお前でも俺は嫌いになったり、離れたりしない。」

「〜っ!」


後ろからカマエルの体温を感じる。



ダメだった。涙が溢れて止まらない。

今まで欲しかった言葉をなんでこいつは簡単に言うんだ。


欲しがって欲しがって、誰からも与えられないと知って諦めた言葉を。


悪魔はいつかは離れて行くもの。

そう知ってからは求めないようにしていた。

家族でさえも僕の前から居なくなってしまった。


本当は寂しい、誰かそばにいて、僕を1人にしないでってずっと思ってた。





ほんと僕は悪魔らしくない。





それでも、

後ろで感じる確かな体温が僕には心地よかった。




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