クズな友人が魔法少女の一人にホラ吹いたせいで求婚されてます
桂ピッピ二世
第1話「全部ルシファーのせい」
正義は正義の中でしか生きられない。ならば悪も同じこと。
俺は自分でも言えるほど最凶の怪人だ。あ、一番強い方の最強じゃないぞ。
そんなに強い方じゃないからな、俺は。
さっきも言ったがこの世界は怪人っていう悪い奴らで溢れてる。
怪人は四割が悪の秘密結社で造られて、残りの六割が自然発生するの二種類ある。
俺は五歳のときに秘密結社に拉致られて人体改造を受けさせられた。
今では立派な怪人だ。へへっ。
世の中に悪が蔓延れば当然、正義のヒーローが現れる。
これはもう真理だ。
政府は怪人に対抗するために不思議な装置を作ったのだ。
名前は.....確か「マジカル変身装置」だったかな。
その装置の適合者のことは「魔法少女」って呼ばれてるけど俺から言わしゃああれは魔法少女なんて可愛いもんじゃない。
悪魔だ。
「僕の名はアナ・ルフェスムーン・ワンワン!通称魔法少女ワンワン!月に代わって、お仕置きよ!!」
まず一人目。漆黒の髪をポニーテールに縛った元気いっぱいの魔法少女。
両手の拳にはメリケンサックみたいな「マジカル変身装置」を装着していて、全体的にあの美少女戦士に似た格好をしてる。
実際に似たような台詞も吐いてるしな。
「ちょっとワンワン!本名は言ったら駄目って博士から言われてたでしょ!」
「あれ?そうだった?」
「そうなのよ!全く.....。真紅の炎に抱かれて消えなさい!魔法少女スカー!ここに推参!」
二人目。くり目で真ん丸な瞳してんのにクールな性格の全身青色華やかな服装を身に纏った魔法少女。
背中にはバスターソードみたいな大剣を背負っているが、それがマジカル変身装置なようだ。
「あ、あの....わたくし......はぅ、やっぱり無理ですわぁ」
「ほらホーちゃん!頑張れ頑張れ!」
「貴女なら出来ると私は信じてる!」
「うぅ......最初の自己紹介は必要ですのぉ?ひょ、ひょ、氷天を凍てつくす絶対零度!魔法少女フェニックスですわ!......ぅぅ」
三人目。あからさまな引っ込み思案な性格のくせによく魔法少女をやれていると思う。
背中から生えている七色の翼がマジカル変身装置らしいが、特に飛行性能とかはないらしい。
これで魔法少女は全員揃った。俺程度の怪人なら三人中二人ならぶちのめせるが全員相手にするとなると打つ手がない。
ていうかコイツ等弱点でもある変身装置モロ出して怪人共と戦ってるからな。
俺だったら怖すぎて戦闘なんか出来やしない。
例えるなら脳みそをさらけ出したまま怪人に突っ込むみたいなもんだ。正気の沙汰じゃない。
「さぁ!今日こそ僕たちの仲間になってもらうよ!エルピス!!」
「あ、あの.....先日のお礼も兼ねてお茶会など如何でしょう......か」
「国民の皆さんが貴方の帰りを待ってる!さぁ、私達の手を取って!」
初めに話すべきだったが、俺は今、魔法少女三人に囲まれている。
300メートルもある高層ビルの屋上で。
「ふざけるな!俺は怪人だ!貴様等の倒すべき敵が寝返るだと!?戯けた事を.....そもそも俺はエルピスなんかじゃない!!!」
怪人となって早七年。いつの間にか俺の通り名は古代ギリシャ語のエルピスと付けられていた。
意味は「希望」らしい。いやマジふざけんな。
俺怪人だよ!?悪だよ!?犯罪者だよ!?
なのになんでこんな誰がどう見てもヒーローだと連想するような名前で呼ばれてんの!?
俺何も知らねぇよ!?
「ていうかなんで貴様等はこの俺を仲間に引き入れようとする!」
「だって君昨日エラエラ怪人に殺されかけたホーちゃんを助けてくれたじゃん!」
「目の前で助けを求める奴が例え極悪人だろうが魔法少女であろうが体が勝手に反応して助けちまうんだよ!悪いかぁ!!!!」
「やっぱりヒーローじゃんか!!!」
クソ!こんな事なら助けるんじゃなかった!
エラエラ怪人は魚に手足が生えたような見た目でエラ呼吸によって半径400キロの酸素を急速に吸い込むとんでもねぇやつだった。
大都市に住む殆どの連中が酸素欠乏症に陥って今にも死にかけになってたし、魔法少女達も酸素がないと呼吸が出来ないので過呼吸を起こしていた。
「いやまぁ、俺怪人だし。ああいう手の怪人はそれほど大敵じゃなかったからな」
フェニックスが首をへし折られかけたときに、俺の体が勝手に動いてエラエラ怪人を殴り飛ばした。
懐に詰め寄って腹に手を突き刺してからエラエラ怪人の吸い取った酸素を全部空気中へ撒いてやると干物になって死にやがった。
「ていうか貴様等魔法少女の癖に酸素奪われただけで死にかけるとか、その装置改善の余地があるだろ」
せめて変身解除するまでは空気中の酸素を常に衣服が取り込んで肉体へ送り込むとかあればまだ戦闘の幅が広がるだろ。
「あ、そっか。じゃあ博士に進言しておくね!ありがとエルピス!」
「ハッハッハ!礼など要らんわ!ん?ちょっと待て、俺達これから殺し合うんだよな?」
「え?なんで?」
「いや、なんでじゃねぇよ。そもそも貴様等は俺を殺すために」
視界の端から閃光が見えたと思ったら爆発音と同時に高層ビルが激しく揺れた。
俺は直ぐ様姿勢を低くし、倒れないようにするもワンワンは「わぁっ!」と無様に転んだ。
白いパンツが丸見えだが興奮するほど俺は男として成長はしていない。
怪人としてはまだまだヒヨッコだからな。成長しないと。
「な、なに!この音!」
「今のは雷が落ちた音だ。だとすると、怪人が現れやがったか」
俺は怪人が何者かを確かめるために背中から翼を生やして空へ飛び立った。
高層ビルから200メートルほど離れた距離にあるビルから、全身に稲妻を纏った怪人が浮遊していた。
「アイツか.....」
翼を羽ばたかせ、怪人へと近づく。同僚なら手を貸すが自然発生した怪人なら即座に殺す。
「おい貴様!名前はなんだ!俺と同じ類の怪人なら印を見せろ!」
「むぅ!?我が名はエレキドゥス・オブ・サンダー!お主の言う同じ類の怪人とは意味がわからぬが、怪人ならば殺す動機はない。このま
ま立ち去るか、手を貸すか、どちらか決めよ!」
なるほど。見たところこいつは自然発生した怪人ではあるが、知性があるみたいだ。
自然発生した怪人と人工的な怪人の違いは主に一つに限る。
それは印があるかないかだ。
人工的な怪人の見分けをつけるために一匹一匹に首輪とも取れる印が付けられている。
俺にとっての首輪は左手のひらにある紋章だ。
それがないなら、コイツは殺戮対象となる。
俺の殺気に気づいたのか、エレキドゥス・オブ・サンダーは眉間に皺を寄せて両手から雷光を発した。
「小僧.....殺る気か?」
バチバチィバチィ!と稲妻が唸る。
「ジジイ。あまり図に乗るなよ」
俺は拳を握る。そして、翼を広げて目の前の怪人に特攻した。
「大活躍だったな、エルピス」
「止せ.....その名で呼ぶな」
太陽が紅に輝きながら海の彼方へ沈んでいく。俺と悪友のルシファーはその様を堤防からしみじみと眺めていた。
ルシファーは俺より一年早く生まれた先輩怪人で実力も折り紙つきだ。
カリスマ性も高く、何百もの怪人を束ねた軍団のリーダーでもある。
「かなり激しい戦いだったみたいだな。エレキドゥス・オブ・サンダーだっけか?仲間に欲しかったなぁ」
「抜かせ。あんなクソジジイ、仲間にするだけ無駄だ。俺でもワンパンで倒せたんだぞ?」
見た目は超強そうだったにあの稲妻吸収して無効化できたし、顔面に拳一発叩き込んだら即死しやがった。
「はははははは!お前はそこらへんの怪人より強いからなぁ。俺の軍団に入ってくれよ、優遇するぜ?」
いい提案だが俺は断った。誰にも縛られずに生きたいのさ俺は。
「そうか.....そいつは残念だ」
「俺はもう帰るぜ。またな、ファシルー」
「その名前で呼ばれると辛いね。また会おう親友」
一週間後、女子高生である魔法少女三人は学校が終わったいつもの帰り道。
元気な子供達が遊んでいる公園で一休みしようとアナが言い出して三人はベンチに座ることにした。
「この前のエレキ怪人、またエルピスが倒してくれたね」
缶ジュースを一口飲んだアナが嬉しそうに口にする。
「そのおかけで人命救助が効率的に進んだし、ホント彼には感謝してもしきれないわ」
「さ、さすがはわたくしの.....ここ、心を奪った人ですわ。ふ、ふひひ......」
彼女達がここで熱を挙げる怪人、エルピスは簡潔に言うならば日本の危機を81回くらい救っている。
いや多すぎるだろと思う方もいると思うが、彼からしたら逆に少な過ぎると嘆いています。
何度もいうがエルピスは怪人だ。だが、通常の怪人とは性質が違い、自然発生型の怪人のみを虐殺したり同類達が建物を破壊したら巻き込まれる人達を隠れて助けたりと魔法少女よりも活躍する姿を見せている。
勿論彼女達と戦ったことはある。三人揃った魔法少女を相手に善戦し、倒しかけるほどの強さを見せた。
最終的にはスタミナ切れで敗北したが、タイマンだったならエルピスの圧倒的勝利だったろう。
最初はただの怪人だったのに。七年の歳月をかけて助けを求める者達を助け続けた彼はいつしか伝説を幾つも作るほどの名高い怪人へと登り詰めた。
日本ではエルピスを知らぬ国民は居ない。
楽しげに会話をする三人の前に、一人の男性が現れた。
「やぁ。麗しい魔法少女達」
白銀の髪をたなびかせ、爽やかな笑みを浮かべている青年。
「あ!ファシルーさん!」
アナがパッと顔を明るくして言った。
「久しぶりだね。今日はお休みかな?」
「はい!今日はお休みなんですよ!」
青年の名前はファシルー。アナ達が所属している組織、「フェニア」に務める従業員だ。
現在は長期任務として秘密結社にスパイとして忍び込んでいる。
その中でエルピスと偶然出会い、いまでは飯食いに行くほど仲がいい。
「彼、怪人の癖にやたらと人を助けるよね?疑問に思ったことはないかい?」
「何か理由があるのかな?」
「エルピスは.....幼いときはヒーローに憧れる優しい子供だった。彼の家は大家族でね、六人兄妹だった。五歳の時、秘密結社に拉致られたらしいが、その際に目の前で家族を嬲り殺しにされたらしい」
アナ達は絶句した。
青年の苦虫を噛み潰したような表情から察するにその話は本当なのだろう。
「一人ずつ、ゆっくりと、じっくり。悲鳴を聞かされ、目を閉じることも許されず。僕なら精神崩壊を起こしてたよ。それをまだ五歳の子供が味合わされたんだ。そして、怪人となった」
誰も口を開こうとしない。顔を青ざめ、鳳凰は今にも泣き崩れそうだった。
「彼は言っていた。本当の正義は何なのか分からなくなったってね。その答えを見つけるために、悪となって正義を執行している」
「彼と関わる中で分かったんだ。彼ほど優しさに満ちた人はいないと。彼ほど、英雄に相応しい者はいないと」
正義とは曖昧だ。人によって答えが変わる。だから世界には闇と光が存在する。
答えのない正義に、誰もが納得する答えを見出そうとエルピスは疾走しているんだ。
どんなに険しい道のりでも、どんなに苦しい山々でも、乗り越えようと必死にもがいている。
「僕は彼に幸せになってほしいと思ってる。彼は求めてるんだ。愛情を。どれだけ人の役に立とうと、怪人故に心が痛む。それらを包み込んでくれる母親のような女性に愛されたいんだと言っていた」
「そ、そんな.....エルピス様が.....それほどまでお辛い過去を背負っていたなんて......」
ファシルーは彼女達のまえで頭を下げた。深く、深く。
「ファ、ファシルーさん!?」
「頼む!エルピスを.....助けてやってくれないか!アイツを、アイツを愛してやってくれ!何も知らないんだ.....世界のことを何も。愛情の一欠片すらも、知らないんだ。だから君達の誰でもいい、エルピスを幸せにしてやってくれ!」
「か、畏まりましたわ!」
「ほ、ホーちゃん!??」
顔を真っ赤にした鳳凰が勢いよく立ち上がった。
「不肖!この鳳凰が、必ずやエルピス様を幸せにしますわ!」
誓う。自分自身に。鳳凰はダッ、と公園から走り去ってしまった。
慌てた二人は鳳凰の後を追う。頭を下げたままだったファシルーは5分ほどして姿勢を正した。
「ま、全部嘘なんだけどね」
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