第一章 『堕天使の森』
第1話 狩る者と狩られる者
「女の人が襲われています!」
森の中で繰り広げられる事態を見下ろしながら、ティナの奴が低く抑えた声を上げた。
「見りゃ分かる。ま、よくあることだ」
「そんなノンキなことを言っている場合ですか! 助けにいきましょう!」
「やなこった。助ける理由がねえ」
俺の言葉にティナは
その顔は
俺の嫌いな
こいつは誰かれ構わず助けようとする悪い
襲われている女を助けに今にも飛び出して行きそうな
俺はそんなティナの腕を
「待て。あの女はただの旅人じゃねえ。見ろ。抵抗してるじゃねえか」
襲われているその女は、剣で果敢に斬りつけている。
その腕前はなかなかのもので、マヌケな
死んだ
大したもんじゃねえか。
「で、でもバレットさん。あれじゃ多勢に無勢すぎます。このままじゃ……」
「
ティナの言う通り、
一方の女は仲間もなく単独行動のようだ。
それでも女が
ここからだと
じっと勝利への道すじを
女は
身を隠せる木の多い森の中というのも幸いして、
それを利用して女は木々の陰から陰へと移り渡り、
「ケッ。情けねえ野郎どもだ」
こりゃ勝負ありだな。
そう思ったその時、それまで快調に
「何だ?」
唐突に女の動きが
あれほど精力的に動き回っていた女が、いきなりその場から立ち上がれずにいる。
何が起きたのか分からんが、妙な風向きになってきやがったぞ。
女が苦しげに肩を上下させている様子に、とうとうティナが我慢できずに立ち上がる。
「もう見ていられません!」
そう言うとティナは翼を広げて一目散に岩山から森へと
あのアホ。
余計なことを。
「チッ……
俺は仕方なくティナを追って森の中へと飛び降りた。
1人の
俺はティナを追い抜いて急降下し、
そして
「ゲッ!」
顔から地面に落下したその
起き上がろうとしていた
「あぐうっ!」
「よう。楽しそうじゃねえか。俺も狩りの仲間に入れてくれよ。ただし、狩られるのはてめえらだけどな」
「あがあっ!」
ゴキッという音と共に動けなくなった
そして息も絶え絶えになっているそいつを思い切り投げつけて、近くの木に叩きつけた。
「がはっ!」
思った通り、個々のレベルは大したことない連中のようだな。
「岩山の
俺がそう言ったその時、
数は……4人か。
連中は俺の姿を見て一様に
「あ、悪魔……貴様。狩りの邪魔をするな!」
4人の
俺は思わずこみ上げてくる笑いを
「邪魔なんかするつもりはねえよ。ただな、俺の視界に入っちまったのが運の尽きだ。今から俺がおまえらを殺す。思い切りむごたらしくな。死にたくなきゃ必死に抵抗して見せな」
そこからはいつも通りの手慣れたケンカだ。
「
「ぎゃあっ!」
右足の
バランスを
勢いよく吹っ飛ばされたそいつは、木の根元に激突して絶命した。
すぐに俺の背後から別の奴が槍らしき長物の武器を突き出してくるが、俺はそれを半身になってかわす。
そしてその槍の
「がっ!」
「俺の頭は硬いだろ」
「くはっ!」
「うがっ!」
そいつらが衝突して倒れ込む
俺の能力は炎だ。
火遊びはお手のもんさ。
「
俺が両手から放った炎は赤く燃える
「ぎゃああああっ!」
「熱いぃぃぃぃっ!」
それを見た4人目の
この中では一番若い、まだガキっぽいその
「ひぃぃぃいぃっ!」
その情けねえ後ろ姿に、俺の闘争心が急速に冷えていく。
フンッ。
手ごたえのねえ奴らだ。
憎たらしいがさっきティナの言っていた通りだな。
こんな連中をいくら倒したところで俺の力は上がらねえ。
そもそも俺は下級種としてのレベルが上限に達して、ステータスはカウンター・ストップ=カンストを迎えている。
普通に
ただ、以前に奇妙な縁で出会った元・魔王の男が言っていたことだが、NPCにはステータス上には表れない裏パラメーターがあるらしい。
それを
だから俺には新たな刺激が必要なんだ。
強くなるための刺激的な出来事が。
「さてと、ティナの奴は生きてんのか?」
俺は森の中を進みながら耳を済ませた。
岩山から見下ろした時には十数人はいただろう
そして前方ではティナが片時も手放さない
「
ティナが放つあの神聖魔法は、極端に光属性が高い。
個々のキャラクターが持つ光と
だからあいつの放つ神聖魔法は、俺みたいな
俺も一度浴びたことがあるが、体がヒリつく不快な痛みは忘れられねえ。
ティナは片
そのせいで
あの神聖魔法はティナがそのちっぽけな体全体から発する攻撃方式で、攻防一体となったなかなか
そして少し休んだためか立てるようになったカタナ女は、背後から回り込んできた
最後に残された1人の
それで打ち止めだった。
「やれやれ。つまんねえな。遊びにもなりゃしねえ」
結局、カタナ女を助けることになっちまった。
人助けなんて悪魔にあるまじき行為だぜ。
あのカタナ女のほうがよほど強い……ん?
そこで俺はちょっとした
せっかくだし、ちょっと遊んでやろう。
そしてティナがこっちに気付く前に全力で森の中を駆け抜けて……刀を持つ女に襲いかかった。
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