第57話 友達認定

「二人共、頑張るんだ!! もうすぐ合宿所だぞ!!」


「りょ、了解……でも制限時間の30分って、とっくに過ぎているよね? 私達失格になるのかなぁ……もしかしたら昼ご飯抜きとかになったら……」


 それこそ舞奈が暴れるぞ!!


「べ、別に失格は無いと思うけどなぁ……ただ普通に具材無しのカレーライスを食べるだけだと思うけど……」


「『普通以下のカレーライス』かぁ……まぁ、それだったら全然良いんだけど……」


 和久塁、あえて『普通以下のカレーライス』って言わなくてもよくね?


「ひ、一矢っ!? 聖香にずっとおんぶしてもらっているだけから頑張りようが無いんだけど、私に何かできることはかな!?」


 フフ、舞奈って意外とそういうところは真面目なんだよなぁ……


「そうだなぁ、舞奈は声を出して和久塁を応援するってのはどうだ? 和久塁もそれで構わないよな?」


「ええ、勿論よ!! 舞奈が応援してくれるのなら私の体力は直ぐに回復しちゃうわ!! それならおんぶしながらでもカレーライスも食べれると思う!!」


 いや、そこまでしなくても……でも和久塁は舞奈と少しずつ仲良くなってきたのが本当に嬉しいんだろうなぁ……見ていて俺も嬉しくなってくるよ。


「わ、分かった!! 私、聖香を応援するわ!! でもまさか私達が肉も野菜も持って帰えれなかったなんてこと知ったら、モブオ君きっと怒るだろうぁ……」


「それは大丈夫さ。モブオはそんな事で怒る様な奴じゃ無いさ」


「そ、そうかなぁ……そうだと良いんだけど……」


「舞奈、布津野君、見て!? 合宿所が見えてきたわよ!!」



 おっ、モブオが笑顔で手を振っているぞ。

 ってことはモブオの作戦は成功したのかもしれないな?


「お~い、3人共〜お疲れさ~ん!! 戻るのが遅くて心配したぞ~っ!!」


「わ、悪いな、モブオ……道中、色々あってさ。それで申し訳無いけど肉も野菜も手に入れられなかったんだ……マジですまん、モブオ!!」


「あぁ~その事か。それは他のクラスの奴等から聞いているから問題無いよ。そんな事より舞奈ちゃん、足の怪我は大丈夫かい?」


「有難うモブオ君。足は痛いけど、聖香が頑張ってここまでおんぶしてくれたから悪化はしていないと思うわ。聖香、本当に有難う」


「や、やめてよ~舞奈!! お、お礼だなんて恥ずかしいじゃない!!」


「いや、和久塁!! 俺からもお礼を言わせてくれ!? 本当に有難う、お前が俺達の班に居てくれて助かったよ!!」


「ふっ、布津野君まで止めてよ~!? 私、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいわ気分だわ!!」


 でも俺はマジで和久塁に感謝してるんだぜ。お礼の言葉だけじゃ全然足らないくらいにさ……あ、そうだ。良いことを思い付いたぞ。


「和久塁、お礼にはならないけどさ、これから俺の事も下の名前で『一矢』って呼んでくれないか? その方が友達っぽいし、それにどうも最近の俺は苗字で呼ばれるより下の名前で呼ばれる事の方が多くて『一矢』って呼ばれる方がどうも落ち着くんだよ。まぁ和久塁が嫌なら別に下の名前で呼ばなくても良いけど……」


「えっ、良いの!? 本当に私も布津野君の事を『一矢』って呼んでも構わないの!?」


「和久塁は俺にとって貴重な友達の1人だしさ、全然構わないよ」


「あ、有難う……ひ、ひ、一矢……」(ポッ)


 別に下の名前を呼ぶくらいで顔を赤くするなよな。ハハハ……


「ちょっと待って聖香!! 『一矢』って呼び捨てで呼んで良いのは私だけって決まっているの!! だから、いくら聖香が私の友達でも一矢の事は『一矢君』って呼ぶようにして!?」


「ちょっと待て舞奈!? そんな事いつ、誰が、どう決めたんだ!?」


「私が一矢に誘われてネガティ部に入部した後に決めたことなんだけどなんか文句あるの!? 先輩達にもそれは伝えているわ」


「べっ、別に文句は無いけどさぁ……」っていうか先輩達にもそんな事を言っていたのかよ!?


 しかし何で自分だけが俺の事を呼び捨てで呼びたいんだ?


 も、もしかして俺の事が……いや、それは絶対にないな。逆に俺よりも自分が上でいたいとかじゃないのか? でも俺だって舞奈を呼び捨てにしているし、それも無いか。


「今、私を友達って言ってくれた……グスン……わ、分かったわ舞奈……私は布津野君を『一矢君』って呼ぶ事にするわね?」


 舞奈に友達認定されて和久塁も感無量みたいだな?


「そ、それじゃぁさ……ひ、一矢君はこれから私の事は『聖香』って呼び捨てで呼んでくれるかな? そ、それくらいはいいよね舞奈?」


「え? う、うん……一矢が聖香を呼び捨てにするのは許可するわ」


 お前、何様だよ!? でも……


「そ、そうだよな? 呼び捨ての方が俺としても助かるよ。俺が和久塁に『聖香ちゃん』って呼ぶのは何か似合わないしさ……和久塁も『聖香ちゃん』っていうのは似合わない感じがするし。よーし、俺も今から和久塁の事は『聖香』って呼ぶようにするよ!! これからも宜しくな聖香!?」


「『似合わない』ってどういう意味よ!? でもまぁ良いわ。私も『ちゃん付け』で呼ばれるのは何か恥ずかしいし……私こそ宜しくね一矢君?」


「よーしっ、よく分からんが、舞奈ちゃんとの話がまとまったみたいだね?」


「モブオ!! 今、聖香に『ちゃん付け』は似合わないって言ったところだぞ!!」


「ふん、そんな事は関係ないよ。俺が仲良くなった女子に『ちゃん付け』するのは当たり前の事というか、これは俺のポリシーさ」


 ケッ、モブオのクセに何がポリシーだよ。


「そ、それじゃぁ私は今日から多田野君の事は『ノブオ君』って呼ぶわね?」


「えっ? 別に聖香ちゃんも俺の事は『モブオ君』でも構わないんだよ」


「いえいえ、その『モブオ君』っていうのも舞奈だけの呼び方にした方が何となく良いかなと思ってね……」


 おっ、さすが聖香だ。この半日で舞奈が喜ぶコツを掴んだようだな?


「ハハハ、俺はどちらでも構わないから聖香ちゃんに任せるよ。それよりもさ、

早く皆でカレーライスを食べようぜ? とても美味しくできてるからさ!!」


「えっ!? もしかして、モブオが言っていた作戦が成功したのか!?」


 それは凄い!!

 なんかモブオを信用していなかった俺がめちゃくちゃ恥ずかしいぜ……


「いや、大失敗に終わったよ。ハハハハハ……」


「へ? だ、大失敗……??」

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