第56話 俺もおんぶしたいけど

 くっ、くそ―――っ!!


 まさか肉が入った袋が1つも残っていないなんて……


 モブオが『もし具材が見つからなくても俺に良い考えがあるから、心配しないで2人を仲良くさせてこい』って言ってたけどさぁ……あいつドジなところあるから心の底からは信用できないんだよなぁ……


 それに調理場には恐らくあのルイルイも居るだろうし……


 やはりモブオには悪いけど自分達で具材は確保しておいた方が良いかもしれないな? よし、まだ1つくらい見つけにくい所にぶら下がっているかもしれないよな?


 諦めずに、もう少し探してみるか……


――――――――――――――――――――――


【合宿所内キッチン・モブオ視点】


 しめしめ、誰も居ないぞ。

 久地川くちがわ所長代理はさっき、こう言っていたよな。


『敷地の中にあるものなら何でも持って来ていい』っさ……


 だとしたら合宿所内にあるものも敷地内なんだからオッケーだよな?

 そして合宿所のキッチンにある大型冷蔵庫の中身も頂いて構わないってことだよな?


 うん、そうに違いない。俺の解釈はきっと間違っていないはずだ!!


「おい、お前!! そこで何をしているだ!?」


「えっ!? あっ!? 久地川所長代理!!」


 間近で見るとやっぱり美人だなぁ……


「お前はヒトヤンと同じ班の奴だな?」


「は、はい!! フツオとは幼馴染で多田野乃武男ただののぶおと言います!!」


「はあ? 『ただのもぶお』だと?」


「いえ、『ただののぶお』です」


「名前なんかどうでも良いんだよ!! そんな事より『ブオブオ』は何故ここに居るのかと聞いているんだ!?」


「『ブオブオ』? それは何ですか、食べ物ですか?」


「お前はバカか? お前の名前が『モブオ』だから『ブオブオ』って呼んでいるんだ!!」


「別に俺の名前を変なところで縮めなくても……それにモブオじゃないし……」


「バカ野郎、お前の名前は覚えづらいんだよ!! それよりもお前、ここの冷蔵庫の中身を持ち出そうとしていただろ!?」


 うわっ、めちゃくちゃバレてるじゃないか!!

 でもそこは開き直って……


「そ、そうですよ!! な、なんか文句があるんですか!? お、俺は敷地内にあるものは全て持ち出しオッケーってのを、素直に実行しようとしただけなんだすけどね~っ!!」


「ハ~ハッハッハッハッハ~ッ!! 別に文句はないぞ!! というよりも、この学年に知恵が回る奴が居たって事で逆に私は嬉しいくらいだ!! だがなぁ、残念だったな『ブオブオ』……」


「ざ、残念?」


「あぁ、残念だ。ブオブオの様な知恵の回る奴が居た場合を想定して、悪いが事前に冷蔵庫の中は空っぽにしておいたのさ」


「な、何だって~っ!?」


 す、すまんフツオ……足が遅いお前は2人を仲良くさせる事に専念し過ぎて具材なんて到底持ち帰る事はできないだろうと思って、せっかく、この作戦を考えたのに……クソッ


「おい、ブオブオ何を落ち込んでいる? どうだ、私と手を組む気はないか? 私はお前の様な『学年総合200位』で『アーカイ部』所属の様な奴と前から手を組みたいと思っていたんだよ」(ニヤリ)


「て、手を組む!? っていうか、そこまで俺の事を知っておいて何故、俺の名前は覚えてくれていないんですか!?」


――――――――――――――――――――――

【肉の入った袋がぶらさがっていた木の下】


 あ―――っダメだっ!! 全然無いっ!!

 こうなったら肉は諦めて野菜カレーでいくか? それとも……


 モブオの事を少しだけ期待してみるか……


 それよりも舞奈達のところに早く行かないと!!


 ん? 前の方から誰か歩いているけど……なんかおんぶをしている様に見えるんだが……


 あっ、あれは舞奈達じゃないか!!

 それも和久塁が舞奈をおんぶしているぞ!!



「お――――――――――――いっ!! 舞奈~っ!! 和久塁~っ!! 2人共どうしたんだ!?」


「あっ、一矢ぁぁああ!!」


「ふ、布津野君!!」


「2人共大丈夫か!? 一体どうしたんだよ?」


「私達は大丈夫。でも途中で舞奈の足がドンドン痛くなって歩けなくなってしまったの。だから私が舞奈をおんぶをして農園に向かったんだけど、後から来た班の人達に追い越されてしまって……そしてようやく農園にたどり着いた時には野菜が1つも残っていなかったのよ……」


「ゴ、ゴメンね一矢……私が足をくじいてしまったせいで野菜を確保できなくて……」


「舞奈……」


「そ、それでね野菜はダメでも、もしかしたら布津野君がお肉確保してくれているんじゃないかって思って戻って来たんだけど……」


「悪い……俺の方もダメだったんだ……」


「えっ、そうなの!? でも仕方無いよね……」


「私が……私さえ足をくじいていなければ……みんな私の事を心の中では恨んでいるんでしょ? お願いだから心の中で思わないで口に出して文句を言ってくれるかな!?」


「バ、バカな事を言うなよ舞奈、誰もそんな事は思ってないって!! 相変わらずマイナス思考だなぁお前は……」


「そうよ舞奈、私も全然恨んでなんかいないわよ!! 逆に舞奈をおんぶできて嬉し……あっ、いや……何でも無いわ……」


 和久塁、今おんぶできて嬉しいって言わなかったか?

 いや、そんな事よりも……


「和久塁、舞奈をずっとおんぶして来たんだろ? 大丈夫なのか? 俺と代わった方が……」


「い、嫌よっ!!」


「えっ、何でだよ!?」


「わ、私も聖香さえ良ければ聖香におんぶしてもらいたい……」


「ま、舞奈ぁぁああ!? 私は全然オッケーだよ。力と体力には自信がある方だから!!」


「な、何だよ舞奈まで……女子におんぶをさせるなんてさぁ、男の俺がおんぶしないと格好悪いじゃないかぁ?」


「だから嫌なのよぉぉ!! 一矢におんぶされるなんて恥ずかしいじゃない……」


 まぁそうだな。恥ずかしいよな?

 本当は俺だって恥ずかしいし……


 舞奈の太ももを触る事になるし、大きな胸が俺の背中に当たるしな。それにキスの件もあるから、それ等を考えただけで俺の身体に異変が起きてまともに歩けなくなるかもしれないか……ここは聖香に甘えた方が良いかもしれないな?


 舞奈をおんぶできないのは少し残念ではあるけれど……


「そ、それじゃぁそろそろ調理場に戻ろうか? モブオが米を炊いて待ってるはずだから……それと聖香も疲れた時は遠慮せずに言ってくれよ?」


 あとはモブオの作戦にかけるしかないな……




――――――――――――――――――――――


 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


 【名染伊太学園 昼休み屋上・菜弥美視点】


「美代部長、どうかされました? 何だか元気が無いように見えますけど」


「え? 菜弥美ちゃん、すみません……私、元気が無いように見えましたか?」


「はい、そう見えましたけど」


「そうですかぁ……はぁ……」


「もしかして、一矢君達が居ないから寂しいとかですか?」


 それなら私も同じ……


「えっ? まぁ、それもありますが……」


「え? 他に何か理由があるんですか?」


「私だけ無いんですよ……」


「えっ、何が無いんですか?」


「私だけ……私だけ教室で一矢君達の事を考えながら黄昏たそがれている場面が無いんです……それがとても寂しくて寂しくて……」


 きょ、今日は私が一矢君の代わりに突っ込まなければいけないみたいね?


「み、美代部長! そっ、そっちですか――――――――――――っ!?」

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