第44話 幼馴染ってこと?

 子龍先輩!?


 な、何で母さんの前では顔を正面に向けられるんだ!?


「ほんと、懐かしいわねぇ……主人の実家が大阪にあるから、若い頃はよく帰省していてね、その時に一矢を近所の公園に連れて行った際に仁見さん御家族と偶然出会ったのよ。それで君は一矢と仲良く遊んでくれていたわねぇ」


 な、なんだって!? って事は俺は小さい頃に子龍先輩と何度か大阪で会っているってことなのか!? それって俺と子龍先輩は幼馴染の関係……


「仁見さんご夫婦って実は昔から私達夫婦ととても深い繋がりがあるんだけどねぇ……それを話すと長くなるけどいいかしら?」


「ダメに決まってるだろ!! 俺達は今から勉強をするんだからさ!!」


「フフフ……冗談よ。その話は今度機会にね」


 いやマジでそうしてくれ……


「でもまさかあの時の可愛らしい坊やが、こんなに大きくなっているなんてねぇ……それもお父さんに似て凄いイケメンになっているし~おばさんとってもビックリしたわ~」


 へぇ、子龍先輩のお父さんもイケメンなのか。


「すみません、おばさん……僕はおばさんの事を全然覚えていないのですが……」


「それは仕方無いわよ~最後に会ったのはあなたが小学校低学年くらいの頃だしねぇ……それから私達もあまり帰省しなくなったから自然と疎遠になっちゃって……でも仁見さんご家族が東京に住んでいるなんて全然知らなかったわ~主人は知っているのかしらねぇ?」


「そ、そうなんですね? でも、嬉しいです。僕の小学生の頃を知っている人に会えるだなんて……とても嬉しくて涙が出てきます」


 そっ、そういうことか!!

 分かった気がするぞ!!


 子龍先輩が母さんの前だけは顔を正面に向ける事が出来る理由が……


 子龍先輩がまだ『モテ過ぎ問題』の無かった平和で一番楽しかった時代の頃を知っているの母さんの前だから嬉しさの余り体が……いや、首が勝手に当時の良い状態に戻る事が出来るんだよ、きっと!!


 間違い無い、絶対そうだ!!


「感動の再会……世間って狭いわね……」(ボソッ…)


「そうね、テルマ。目の前で感動の再会を見る事が出来てとても嬉しいわ。それに私は中学生の頃から子龍の暗い顔ばかりしか見てこなかったから何だか私まで涙が出てきちゃうわ……」


 菜弥美先輩が心の優しい人だってことはよく分かりましたけど……


「あの~感動の再会はこれくらいにして、そろそろマジで勉強を始めませんか? それと、皆さんがどこに座るかはジャンケンで決めましょうよ……って、美代部長までなに号泣してるんですか!?」


「だ、だって……子龍君が正面を向いてお話されている姿はルイルイを目の前にした時しか見た事がありませんでしたし……それで年上のお姉さんとなら正面を向いてお話して頂けるのではと私もそれなりに頑張ってみましたが全然叶わず……それなのに、やっぱりルイルイより『更に年上の方』とは正面を向いてお話されていて……私、なんだかそれが悲しくて、悔しくて……やっぱり部長失格だなぁと思うと、涙が止まらなくなってしまいまして……」


 そっそっちの涙かよ!?

 てっきり感動の涙だと思ったわ!!


「えっと~あなたは越智子おちこさんだったかしら?」


「グスン……は、はい……グスッ……」


「『更に年上』って余計なお世話よ!! 年は食ってるけどな!!」


「ヒィッ、ヒ―――ッ!! す、すみません!! 私とても失礼な事を言ってしまいました!! ほ、本当に……も、申し訳ありませんでした!!」


「かっ、母さん!? 美代部長に何て強烈な突っ込みをするんだよ!? ビックリして怯えているじゃないか!!」


「フフ、ゴメンなさいね越智子さん? 私も久しぶりに大きな声で突っ込みたくなっちゃってさぁ……つい、あなたの言葉に乗っかって思わず突っ込んでしまったわ。本当は私全然怒ってないし、気にもしていないから……こちらこそゴメンなさいね~?」


「え? い、いえ……そんな事は……」


 突っ込みたくなる気持ちは分らなくはないけどさぁ……マジで今日は勘弁してくれよな。


「さぁ私はそろそろ退散させてもらうわねか? それでは皆さんごゆっくりね~? あっ、そう言えば一矢?」


「何だよ母さん? まだ何かあるのかよぉ?」


「いや実はね、お父さんが今朝から急に大阪に1週間出張になってしまったのよ。それで一矢と2人だけで夕飯っていうのも味気ないしさぁ……どうだろう今週は皆さんさえ良ければ夕飯も一緒に食べていってもらうっていうのはどうかしらと思ってね。どうかしら?」


「えーっ、1週間も夕飯を一緒にだって!? そ、それは流石に無理があるだろ!?」


「「「「「え―――っ、良いんですか!? 有難うございます!! 1週間、お世話になりまーす!!!!」」」」」


「えっ!?」


 ちょ、ちょっと皆さん……」?

 そ、それは少し図々し過ぎるのでは!?

 っていうか今の返事めちゃくちゃ元気がありましたよね?

 本当にこれは『ネガティ部』の集まりなのか!?



「なんだか一矢君のおうちに居ると、とても楽しくて明るい性格になれますね?」


「え? 美代部長、有難うございます。でも肝心の勉強が始まっていませんので」


「ねぇ一矢君? 一矢君の家に居ると、悩み事なんてどうでもよくなってくるよ。でも、悩み事が減ってしまうと一矢君に相談する数も減っちゃうから、とりあえずどうすれば悩み事が減らない様になるかをこれから悩んでみるわ!!」


 言ってる意味分からんわ!! 


「な、菜弥美先輩、悩み事が減るならそれで良いじゃないですか!?」


「ねぇ一矢君? 私ね……この家にずっと住みたいわ……」(ニコッ……)


「テッ、テルマ先輩っ!?」


 こ、こ、このぉぉ『小悪魔天使』めっ!!


 ギィッ、バタンッ!!


 あ、舞奈が戻って来た。


「一矢ぁっ!? お、お手洗いってどこにあるのよーっ!?」


「お前、まだトイレに行けてなかったのかよ!?」



「一矢君……1年生は中間テストが終わったら次は『なぞめいた合宿』が始まるね?」


「しっ、子龍先輩、いきなり話を変えないでくださいよ!? 非常に突っ込みにくいじゃ無いですか!? それにもう顔が横向いてるし!!」


 ・・・・・・んっ?・・・・・・えっ?


 『なぞめいた合宿』って何?


 めっちゃ気になるけど早く勉強をしなければ……


 でも漢字はどっちなんだ? 『名染伊太合宿』なのか? それとも『謎めいた合宿』なのか? どっちだ!?


 ヤバい!!


 これじゃ『なぞめいた合宿』がめちゃくちゃ気になって勉強に集中できないじゃないか――――――――――――――っ!!!!

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