第35話 茶髪ロングメガネ美少女

 はぁ―――っ……


 昨日の疲れが全然取れないなぁ……


 しかし『テンテン部長』は恐ろしくテンションの高い人だったよなぁ……

 

 あんな人にしょっちゅうウチの部に顔なんか出されたら、いずれ全員心が病んで死人が出るかもしれないぞ!!


 前に菜弥美先輩が言っていた『ネガティ部の天敵』の意味が良く分かったよ。


 しかし『ポジティ部』には、あんなのがゴロゴロ居るのか!?

 考えただけで恐ろし過ぎるぜ!!


 あの後、皆で『お茶』を飲みながら『対策会議』をやったけども……


 結局数分でいつもと同じく励ましたり、悩み聞いたり、頭をナデナデしたいのを我慢したり、顔の角度を突っ込んだり、なんか不機嫌な奴のご機嫌を伺ったり……


 『あんたらテンテン部長の事を言ってる程気にして無いんじゃないのか!? っていうか、本当は俺なんかよりも根性すわってるんじゃないのか!?』


 って、突っ込みたくなったぜ……


 あっ!?


 ってか、もうこんな時間じゃないかっ!?

 や、ヤバい!! 遅刻してしまうぞ!!


――――――――――――――――――――――

【名染伊太学園 正門付近】



 はぁ~なんとか遅刻は免れそうだ。


 んっ?


 俺の前を歩いている女子……あの後姿に見覚えが……っていうか昨日、会ったばかりだし……茶髪ロングで髪の先の方をリボンで結んでいる……間違いない、あの人だ。


 どうしよう? 声をかけるべきか、かけないべきか……


 いや、これはかけるべきだろう。


「あ、あの~おはようございます。『ムキムキ?』副部長さん!」


 ギロッ!!


 げっ!!?


 うわぁ、メガネのレンズの奥からめっちゃ怖い目でにらまれた気がしたぞ!!


「すいきなり声をかけて、すみません!! そ、それと俺、先輩の名前を知らないんで、思わず昨日ルイルイが言っていた呼び名でつい声をかけてしまいました……」


「え? ああ昨日『ネガティ部』の部室にいた君かぁ? 私、メガネをしていてもそんなに視力は良くないから一瞬誰だか分からなかったわ。君だったんだね? あの後、部室に戻った時に天翔部長が君の名前ばかり言っていたわよ。それで君の名前は……え―っと~名前は『普通の』……」


「いえ、『ふつの』です!! 1年の『ふつのひとや』です!! どうぞ宜しくお願いします!!」


「あっ!! そうそう『ふつの』君だったわ。天翔部長もそう言っていたし……こちらこそよろしくね? 私は二年の『前妻木奈子まえむきなこ』よ」


 !!??


「ま、ま、『まえむき……なこ』……『まえむきな…こ』……『前向きな子』だ!!」


 バンザ――――――イッッ!!!!


「さ、さすが『ポジティ部』副部長ですね!? 名前までポジティブなんて!!」


 それに『マエムキ』の『ムキ』を取って『ムキムキ』って呼び名になったってことかよ? ほんと、あの外道顧問は……


「フフッ、よく言われるわ」


「そ、そうですよね? あ、それ言われるの嫌でしたか? もしそうだったらすみません!!」


「フフフ……別に謝らくてもいいわよ。両親が付けてくれた名前を嫌な訳ないしね…」


 俺は親が付けたこの名前が凄く嫌なんですけどね。


「そ、そうですか……安心しました……」


「嫌だとすれば『ムキムキ』って呼ばれる方が嫌かもね~ウフッ」


「あぁ~そうですよねっ!? その気持ち凄く分かりますよ!! さすがに前妻木先輩に対して『ムキムキ』ってのは無いっスよねぇ~? どうせうちの『外道顧問』が名付け親なんでしょ!?」


「お~布津野君、分かってくれるんだ~? フフッ、それに名付け親も正解だよ」


「そりゃあ分かりますよ~!! 俺も名前やあだ名では苦労してますからね。 俺なんてもし『ヒトヤン』じゃ無かったら『フツフツ』か『ヒトヒト』になるところだったんですから!!」


「プッ、『フツフツ』に『ヒトヒト』って……ルイルイ先輩、センス無いわねぇ~…? 私だったら、そうねぇ……『ツノツノ』……うん、『ツノツノ』ってどうかなしら?」


「お断りします!!」


「だよねぇ~? クスッ……」


「「ハッハッハッハッハ」」


 んっ?

 ちょっと待てよ……


 この感覚は何だろう?

 この学園に入学して初めての感覚だぞ……


 凄く俺にピッタリな『普通』の感覚……そ、そうだ!!


 この『普通』の感覚……って、俺は『普通』じゃ無いけどな!!


 そんな事はどうでも良いや。

 きっと俺は前妻木先輩との会話を普通に楽しめているんだ。


 絶対そうだ、そうに違いない!!


 俺の周りは『普通』じゃ無い人達ばかりだからなぁ……会話するだけでも相手の性格を考えてしないといけないから大変だもんなぁ……


 だからこんな他愛たわいもない普通の会話が俺は居心地が良いんだよ。前妻木先輩を話していても全然疲れないし、気も遣わなくてもいいし、とても爽やかな気分になってしまう。


 でも待てよ……


 前妻木先輩は『ポジティ部』の副部長だぞ。


 そんな人が『普通』のはずがないのでは……もしかして何か隠しているとか!?

 本当は俺を油断させる為の演技とかなのか!?


 う~~~ん……そんな風には見えないんだよなぁ……それにそんな事を考えていたら俺が舞奈と同じマイナス思考みたいで嫌だしな。


 ここは素直に前妻木先輩を信じてみよう。


「しかし布津野君って、とても面白いわねぇ? さすが噂の『何か凄い普通の子』だけの事はあるわ。うちの部長が君を『ポジティ部』に欲しがった気持ちが少しだけ分かる気がするなぁ……」


「や、止めて下さいよ~俺、絶対に『ポジティ部』には入部しませんし!!」


「フフフ、分かっているわよ~心配しなくて大丈夫だから……私は出来るだけ天翔部長をネガティ部の部室に近付かせない様にするから安心して?」


「ほっ、本当ですかっ!? そうしていただけると助かります!! マジで宜しくお願いします!!」


「オッケー……ところでさ布津野君? 私の教室は2階なんだけど1年生の教室は何階だったかな~? それを踏まえて今何時だと思う~?」


「えっ、時間ですか? それと俺の教室は何階かって……!?」


 ニコッ


「ああ――――――っ、もうこんな時間かよ!!?」


 ヤバい、ちっ、ち、遅刻だーっ!!


 絶対コレは遅刻だって―――――――――ッッ!!!!


「前妻木先輩!! 俺、遅刻寸前なんでもう行きますね!? 前妻木先輩だってギリギリ何ですから急がないと!! 今日は朝から前妻木先輩と色々なお話できて良かったです。ありがとうございました!! ってかヤバいぞーっ!!」




「フフッ……彼が布津野君かぁ……とても話しやすい子だったなぁ……『何か凄い普通の子』……プッ……ネガティ部さんには『素敵な子』が入部してくれたんだねぇ……」

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