第33話 スカウト

 な、何なんだこの人は!?


 無理、絶対無理無理!!

 この人には全てに於いて勝てる気がしないぞ!!


「テンテン先輩!! もう少し声のトーンを落としてもらえませんか!?」


「お~っ! ゴメンよ~ヤミヤミちゃん! 君も相変わらず美人だねぇ~っ!? 僕が後一年、入学が遅かったら君に一目惚れするところだったよ!!」


 なっ、何だこの人は!?

 もしかしてただの『たらし』なのか!?


「テンテン先輩、毎回会うたびにソレ言うの止めていただけませんか? もうそのネタ聞き飽きましたので……じゃないと私の悩み事が増えそうです!!」


 この人、毎回言ってるのかよ!?


「ハッハッハッハ!! ヤミヤミちゃんの言う通りだね!! ソレを言う度に毎回ミヨミヨがヤキモチを妬いてしまうからね~今度からは二回に一回にするよ!! それで良いかな、ヤミヤミちゃん!?」


 それでもまだ言う気かよ!?


「あのぉぉ、テンテン君……私は全然ヤキモチなんて妬いていませんし……いつもテンテン君が勘違いをしているだけですから……」


「そっ、そうですよ!! 美代部長はテンテン先輩の事は好きじゃないって毎回言ってるじゃないですか!? どうして諦めてくれないんですか!?」


 わ~っ、ヤバイ!!


 このままだと菜弥美先輩の悩み事が益々増えてしまいそうだぞ!!

 この状況で俺が割って入っても良いのかなぁ……?


「諦める? この僕が諦めるって? ハッハッハッハ!! 別に嫌われている訳でも無いのに僕が諦める必要はないじゃないか~っ!! ハッハッハッハ~ッ!! それに、ヤミヤミちゃんはこんな格言があるのを知らないのかい?」


「格言ですって!?」


 か、格言!?


「『諦めたらそこで試合終了だよ……』っていう格言がねっ!!」


 そ、それって……


「それ、格言じゃね――――――よ!! どちらかと言えば名言だよ!!」


 しっ、しまったーっ!!

 声に出して突っ込んでしまった~っ!!


「んっ? ムムムのムッ!?」


 わぁ~どうしよう……自分でムムムのムッて言ってるし怒っているんじゃ……


 そ、それにしては怪しげな笑顔で俺に近づいて来たし逆に怖い!! 

 逃げよっかな!?


「君~!! 見た事の無い顔だけど、もしかして『ネガティ部』の新入部員かい!?」


 うわっああっ、もう俺の前まで来たぞ!! 美代部長並みのスピードだな!?


「は、はい……そうですけど……」


「お~っ、そっかそっかっ~!! 君は新入部員か~っ!? で、名前は何て言うんだいっ?」


「ふ、布津野一矢ふつのひとやといいます……」


「ふ、ふ、『ふつのひとや』だって~っ!!??」


 凄い驚きようだが……どうせこの人も俺の名前でいじり始めるんだろ?


「す、す、すっごい良い名前だ~っ!! な〜んて素晴らしい名前なんだっ!! 『アンビリバボー』だよ~っ!!」


「えっ、ほ、本当ですか……? 本心でそんな事言ってませんか? 俺はいつもこの名前を言うとバカにされるんですけど……」


「君の名前の何処をバカにする要素があるんだい!? とても素晴らしい名前だよ!! だってそうだろ!? 僕にあんな素晴らしい突っ込みが出来るのに名前が『ふつのひとや』だなんて素晴らし過ぎるだろ~!? うちの部員でも、あ〜んな鋭くキレのある突っ込みが出来る者はいないよ~っ!! 君は『普通の人』じゃない!『凄い人』だよっ!!」


 ???


 俺は今、褒められたのか? それとも、バカにされたのか?


「ただねぇ~実に勿体ない……ああ、非常に勿体ない……めちゃくちゃ勿体なさ過ぎるよ~っ!!」


「えっ!? な、何が勿体ないというんですか!?」


「だってそうじゃないか~っ!? あれだけの素晴らしい突っ込みが出来るっていうのに『ネガティ部』の部員だなんて!! べ、別にミヨミヨが悪いって事じゃないからね~っ!! 僕が言いたいのは君は『ネガティ部』向きじゃ無くて、どう考えても僕のいる『ポジティ部』向きだって事だよ~っ!! どうだろう? 今からでも遅くは無いと思うんだっ!! 僕が復活した記念として、この際『ネガティ部』を退部して我が『ポジティ部』に入部しないかっ!? 僕達『ポジティ部』は喜んで君を迎えるよ!? 君なら将来、僕と同じポジティ部部長も務められると思うぞ~っ!!」


「え――――――っ!? お、俺が……俺みたいなのが『ポジティ部』に向いてると言うんですか!?」


「そうだとも!! さぁ~僕のところへ!!」


 ギュっ…


 えっ!?


 テンテン先輩、俺の右腕を掴んできたぞっ!?

 な、なんて力だっっ!!



『だ、ダメです――――――っ!! 絶対ダメです――――――っ!!』


 うわっ!?


 舞奈や先輩達も今度は俺の左腕を掴んできたぞ!!?

 皆、いつもとは全然違う必死な顔で俺を引き留めてくれているぞ!!


 美代部長……美代部長がこんなに大きな声を出して俺を引き留めてくれるなんて……もしかしたら俺の事が……って、コレ妄想している場合じゃ無いよなッ!?


 菜弥美先輩……悩み事が多い人だけど部員の中では一番しっかり者なのに、今は少し半泣きな状態じゃないか……こ、これはいわゆる『ギャップ萌え』というヤツかっ!? …って、萌えている場合じゃ無いなッ!!


 テルマ先輩……テルマ先輩も小さな手で俺の腕を掴んでくれているぞ!?


 め、めちゃくちゃ可愛い……って、キュンキュンしている場合じゃ無いよな!?


 子龍先輩……子龍先輩も必死で俺の腕を引っ張ってくれているぞ。


 そして引っ張っているその姿は顔が45度だからなのか一番引っ張っている感があるよな!? って、感心している場合じゃ無いよな!?


 舞奈……舞奈も両腕を使って必死に俺の腕を引っ張ってくれているけど……


 舞奈の大きな胸がボンボン俺の腕に当たって俺としてはずっとこのままの状態で……って鼻の下を伸ばしている場合じゃ無いよな!?



 ガラッ、ガラガラ、ピシャンッ!!


「そこまでだ、ウジ虫ども――――――っ!!」


 !!!??


 げ―――っ!?


 さっ、最強最悪コンビが揃っちまったよ――――――――――――っ!!!!

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