第18話 憎き元上司 その2

「……徳丸さん。1つ大問題が有るのですか、良いですか?」


「んっ……、何だ?」

「山本……」


「脇田とか言う男。依頼者を追い込んだ自覚が有りませんよね?」

「依頼者が公然と企業の上役に言えば良かったのを、言わずに辞めてますよね」


「んっ!?」

「…………そうかも知れんな。話通りなら」


(徳丸の兄貴…。深く考えずに依頼を受けたな…)

(このご時世だから、兄貴の所も経営が厳しいのだろうな…)


(けど、今の状態で脇田の両膝を壊しても、何も意味が無いぞ…)

(逆恨みをされたら、お仕置きは失敗だし、それにこの業界に迷惑を掛けてしまう)


(仮に状況を説明しても、脇田は絶対に自分が悪いとは言わないだろう)

(人間なんて個体差が有るから『普段日頃から鍛錬していない奴が悪い!』と、言い切る可能性も有る)


「まぁ…、それを上手に、お仕置きに持って行くのも山本の仕事だよ!」

「これが……脇田の写真と、住んで居る住所な!」


「……今回は、両膝以外壊すなよ!」

「それ以上やると赤字に成るし(徳丸さん基準)、企業勤めの人間だから企業側が動くと不味い!」


 今までのターゲットは、ニートまがいの人間や、社会的に必要とされてない人物ばかりで有った。

 そんな人間を潰しても世間は騒がない。

 粗大ごみを処理しただけだから。

 本来なら喜ばれても言いと僕は思う。


 だが、企業勤めの人間は少し厄介だ。

 重要なポストに就いている人間に成れば成る程、企業が独自に探り始めるからだ。

 脇田の場合は大手企業では無さそうだが、中小企業だからと言って、舐めて掛からない方が良い。


 彼奴らは彼奴らで、独自のパイプが有るからだ。

 絶対に報復合戦だけは避けなければならない。


 この業界では大手に成る、拷問エキスパートさん位に成れば、各方面に根回しが出来るが、僕の規模だと其処までの根回しが出来ない。

 脇田は班長と言う役職が付いているから、其奴の企業を敵に回すと、悪い事が起きても良い事は無い。

 それこそ、闇討ちで解決させるのが一番安易な方法だが、心から反省させないと“お仕置き”には成らない。


「まぁ…、上手に脇田を更生させてやってくれ!」

「頼んだぞ! 山本!!」


 徳丸さんは分が悪いと感じ取ったのか、僕が折角入れた茶を飲まずに工場こうばから出て行った。


(もう少し考えてから、仕事を取ってくれよ…)

(問題が起きたら、僕をトカゲの尻尾切りにするだけだろうが……)


 僕は心の中でそう思いながら、見所に入りかけたテレビ画面に目を向けた……


 ……


 お仕置き当日……


 今晩、脇田にお仕置きを加える。

 徳丸さんの貰った情報から、その企業は週末休日らしいので、企業にばれにくい週末に、脇田のお仕置きを決行する。


 捕獲方法は宅配便を装い、脇田を表(外)に出して、其処で脇田を確保して、工場で脇田にお仕置きを加える寸法だ。

 敏行が宅配便を装い、僕が捕獲役だ。

 宅配便の制服は、極秘ルートで仕入れた本物だ。


 午後○○時……


 打ち合わせ通り敏行が、脇田の住んで居るマンションの1室に向かう。

 僕は、脇田の死角に成る位置に身を潜める。


『ピンポーン♪』


「シマウマトマトです!」

「お荷物をお届けに参りました!!」


 敏行は役に成りきるのが上手なのか、本物配達員の様な喋り方をする。

 制服も本物だし、これなら脇田も警戒せずに出て来るだろう。

 脇田の目を眩ませる為に段ボール箱持って、本当の配達員を装っている。


「…はい!」


 インターホン越しから、若そうな声が聞こえてきた。


「シマウマトマトです!」


「あ~~、今開けます~~」


 少しやる気の無い声を聞いてからしばらくすると、玄関ロック音解除の音が聞こえて、ターゲットの脇田が玄関から顔をのぞかせる。


「あっ、こんばんは!」

「シマウマトマトです!」


「はい、はい……」


「脇田――さんで宜しいですね」


「はい……」


(あれが脇田か……見た感じ、40代後半かな?)

(ヒョロッとした、頼りなさそうな感じもするが……)


「では、こちらに印鑑かサインを……」


 敏行はそう言いながら、右手でボールペンを脇田に差し出す。

 脇田は何も考えずにそれを受け取り、伝票にサインを書き始める。


(脇田……地獄へようこそ)


 僕は脇田を捕獲する態勢に入った……


 ……

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