第16話 遅咲きの中年男 その11

「海山……」

「お前の元に大金が偶然降って来て、それがまた無く成っただけだ」

「俺だって悪魔では無いから、家を売れば借金は全額返済出来るし、安賃貸を借りられる位の金は残して有る」


「それにお前の年代なら、仕事は十分に有る」

「土○業や介○業、産○処理業が、笑顔で君を待っているぞ!!」


 徳丸さんは海山に止めを刺す!

 そして……海山は……


「クソ、クソ」

「何で、俺がこう成らなければ成らないのだ!!」

「彼奴が勝手に死んだだけなのに……」


 海山は砂浜を拳で叩いている。

 彼奴が今まで“ぬくぬく”と過ごした、日常生活はもう無いからだ。


「お前……まだ気付かないのか?」

「お前がやった事は、自殺教唆なんだよ。では済まないんだよ!!」


「阿呆の警察サツは、それを只の自殺で片付けたが、お前が“息子さん”を追い込んだのは事実なんだよ!!」


「くっ……くっ……!」


 海山は拳を握りしめている。

 1週間の無人島生活。更に資産をほぼ全額奪われて、悔しがらない人間はいない。


「一からのスタートだよ。海山……」

「今までの悔いを改めて、真人間の生活をすれば―――」


 徳丸さんが海山に言葉を述べているが、海山は急に立ち上がり……!!


「くそったれーーー」

「お前が俺の人生、壊しやがってーー!!」


 海山は最後の力を振り絞って、徳丸さんに襲い掛かった!!

 馬鹿な奴だ……


「海山……。俺はお前では無い。徳丸だ!!」

「死ね! 雑魚!!」


 瞬時に徳丸さんの右ストレートが、海山の顔面をぶち当てる!!


「グホハアァーー」


『ドサアァァーー』


 海山はその1撃で砂浜に倒れ込む。


「……気絶させる手間が省けたか」

「おい! 舎弟、山本!!」

「今の内に、海山を縛り上げろ!!」


『はい。徳丸さん!!』


 徳丸さんの舎弟と僕は同時に声を発し、海山の両手足をロープで縛り、徳丸さんが睡眠薬を海山に打ち、再びトランクケースに押し込む。

 その後はゴムボートに積み込んで、僕と徳丸さん達は無人島から撤収した……


 これで僕と言うか、徳丸の兄貴が中心でやってしまったお仕置きは終わりで有る。

 地位は元々無い海山だが、金は全てむしり取った。

 ここから先は、現代社会での生き地獄を味わって貰おう……


 ……


 その後……


 資産を全て失い、借金が有る(作ってやった)海山は、借金返済の為に家を売り、その残金で安賃貸アパートに移り住んだ。

 海山は直ぐに役所に駆け込んで、生活○護の申請を出したそうだが、健康を理由に断られたそうだ。

 まぁ、普通に考えれば、そうなるわな。


 就職活動もしたらしいが、年齢やブランクの関係で“ことごとく”失敗して、結局派遣社員に成り、今日も何処かで低賃金の仕事をしているそうだ。

 ちなみに、海山お気に入りの“めるちゃん”とは、あの日から会えて無いそうだ。

 派遣社員での給料では、女遊びなんて満足に出来ないからな……


 これで、尾形(依頼者)の望む、海山に生き地獄を味わす事に成ったとは言い切れないが、海山自身にはかなり堪えた筈だ。

 無人島で生死を彷徨わせ、細々と日々を生きる生活を強いらせた。

 依頼者の尾形も、一応これで納得してくれたので、お仕置き屋としての仕事は終了だ。


『めでたし、めでたし』と言いたいが……僕の方に“とばっちり”が来た!

 お仕置きに対する費用が、余りにも掛かって仕舞ったからだ。

 漁船のチャーター・燃料代。それに伴う移動費や経費等、金が掛かりすぎた。

 

 尾形が振り込んだ金額だけでは、大幅な赤字に成ってしまい、“無人島生活”を提案した僕に、徳丸の兄貴は差額を要求してきた。


『山本には悪いが……提案者は山本だ…!』

『尾形さんにこれ以上の請求は出来ないから、山本……お前がケツを拭け!!』

『分かったな……』


 まぁ、何処の世界でも理不尽だらけだ。

 けど、僕も抜かりが無いので、海山を拉致した当日。僕の助手で有る敏行はその日の内に解放されたので、その足で海山の家に行って、現金と金目の物は徳丸さん達が入る前にかっさらておいた。


“める”を使って外に海山をおびき出しているから、玄関は当然施錠はされてないし、深夜の時間帯だったからスムーズに奪う事が出来た。

 税金対策か、かなりの現金と貴金属が家に有ったのは助かった。


 海山のお陰で、僕はすんなりと差額を支払う事が出来た。

 これだけは、海山に感謝しないといけないな!(笑)


(徳丸の兄貴…)

(赤○字に、全額寄付したとか言っていたが……絶対に嘘だろうな)


 敏行が行った後日。僕も徳丸さんと海山の家に行って捜しをしている。

 その時見付けた、通帳や金目の物(少しは残して置いた)は全て徳丸さんが持って行って、あの時話した様に“寄付”したと言ったが、寄付した場所は間違いなく赤○字やN○Oでは無く、徳丸さんの事務所か本郷さんの元に寄付しているだろう……


(寄付の件を迂闊に聞く事は出来ないからな……)

(僕もこれ以上、あの世界には入りたくは無い……)

(あの時……怒り任せなければな……)


 今回のお仕置きは、僕と言うより徳丸の兄貴が中心に成ってしまった。

 規模の大きいお仕置きに成ってしまったから、今回は仕方ないが、出来れば僕と敏行だけで、お仕置きはしたいと感じた……

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