第10話 遅咲きの中年男 その5

 僕は海山の確保、敏行は“める”の確保でそれぞれが動く。

 背後から海山を襲うが、“める”とハグをしている状態だから、ロープで首を絞めて、海山を失神させる方法を取る。


 僕は素早く、海山の首にロープを廻し締め上げるが、僕が海山の首をロープを通す時、“める”は海山の目を手で隠しながら、同時にロープを巻きやすい様に海山の首を上に持ち上げた!?


「ぐぇ……!!」


“める”の御陰で、いとも簡単に海山の首を絞める事が成功する。

“める”は海山の首が絞まるのを見ながら、海山を両手で突き放し、側まで来ていた敏行に保護される。


(……この“める”って女何者なんだ!?)

(只のロリ系風俗女では無いぞ!!)

(……今はとにかく、海山の確保だ!!)


「おっ、お前誰だ!!」


“める”の手助けも有ったが、海山の首を絞める体制が少し悪かった所為で、首ど真ん中にロープが入らず、海山に声を上げられてしまう!


「……」


 僕はそれに答えず、無言で海山の首をロープで絞め続ける。


「ぐぉぉぉーー」


 海山は両手でロープを持って、それをこうとしてきた。

 出来る訳無いのに……!?


(この男……只の中年デブでは無いのか!!)


 今回は場所が、首真ん中で無かった事と、有る程度太さが有るロープだから(細いロープだと食い込みすぎる)、もし上手に掴まれたら、多少でも気道が確保されてしまう!!

 最終的には海山は窒息するだろうが……時間が掛かりすぎると、近所の人間に見られるリスクがその分増える!


「ふん!」


 その時、機転を利かした敏行が、海山の腹に目がけて、拳をぶち込む!


「グホォォーー」


 敏行の御陰で海山はロープを放し、ロープも先ほどの衝撃で首真ん中に入る。


『バタバタ、…………』


 海山は少し暴れたが、直ぐに気を失い、第1段階は完了だ。

 僕は敏行と素早く、海山の手足を両手で縛り、今回はスーツケースに海山を押し込む。

 途中で目覚めても、暴れさせない為にだ。

 傷つけると不味い“める”は、お店のスタッフによって保護されていた。


「総長!」

「結構、手強い奴でしたね…」


「あぁ、少し油断していた」

「服装と雰囲気で、其処らの中年デブと思ってしまった」

「手助け、ありがとな……敏行」


「総長、礼なんか良いっすよ!」

「それより、早くずらかりましょう!!」


 海山が少し声を上げたが、近隣の人間は様子を伺いに来る事無く、海山確保は完了する。

 防犯カメラも、この辺りは設置されてないので問題は無い。

 海山を車に積み込み、今から有る所に向かうのだが僕は、“める”の事が少し気に成った……


「敏行!」

「お前は先に車に戻っていてくれ。僕はあの女に話が有る!」


「うす! 総長!!」


 もう、暴走族チームは陰形無いのに敏行は、まだ副総長気分で居る。

 敏行に取っては、僕と居て楽しいのだろうが、今は暴走族では無くお仕置き屋だ。

 そろそろ、呼び方を変えさせないとな……

 僕は近くに居る“める”の所に向かい声を掛ける。


「“める”助かったよ!」


「いえ、いえ、お役立てて良かったよ♪」


 大胆な行動をした割には、子供の様な顔をとしゃべり方をする女。


「君さ……素人では無いでしょ?」


「んっ……。私は普通の女の子だよ!♪」


 僕が鎌をかけたのに、“める”はしらばっくれた。


(素人女があんな行動出来る訳が無い……徳丸さん達が絡んでいるから、その人達の情婦だろうか?)

(まさか、徳丸の兄貴では無いよな!?)


「まぁ、良い。今回は助かったよ。この場で礼を言う!」


 僕はそう言って、“める”に頭を下げる。

 僕を助けてくれた人には、相手が赤ん坊で有っても僕は頭を下げる。


「礼なんか良いよ!」

「山本さんだっけ…? 徳丸さんから良く話は聞いているよ!!」

「……今回の事で、私に本当のお礼をしたければ、お店に電話して私を指名してね♪」

「サービスするよ♪」


「僕は……そう言ったのに興味が無いので、すまんが…」


(徳丸の兄貴が出て来ると言う事は、まさかのまさか!?)

(事実だったら……幻滅だな…。僕の兄貴がロリ好みだと……)

(これ以上は聞けないし、あくまでその場で付けた話と思おう…)


「そう……残念だな!」

「じゃあ、私は次のお客さんが待っているから、じゃあね♪」


“める”はそう言い終えると、お店のスタッフ達と共に車に戻って行った。

 最後まで化けの皮は剥がれなかった……


(俺の側にも以前居たな……あんなタイプの女)

(……まぁ、良い。今回のお仕置きは少し特殊だから、今からが大変だ!)


 僕は足早に、敏行が待っている車に戻った。


 ……

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