第2話 世間を舐めすぎた若造 その1

 ある日の夕方……


 僕は工場こうばで作業をしていると、工場の扉が勢いよく開く。


『ガラッ!』


「よぅ……山本。元気か!!」


「これは…、徳丸の兄貴!」

「お疲れ様です!!」


 工場に徳丸さんが来訪した。

 僕は直ぐに立ち上がり、斜め45度で挨拶をする。

 礼儀を守れない人間は、この世に生きている必要は無い。


 徳丸さんは僕が暴走族ヘッドを張っていた時、族の後ろ盾に成ってくれた人で有る。

 僕にとっては兄貴の様な存在で有る。

 徳丸さんの職業は近年規制が厳しい業界だが、表の仕事で成果を上げているそうだ!?


「山本。そんな堅苦しい挨拶はいらないよ」

「俺とお前はさかづきを交わした関係では無いからな」

「あくまで……お前は堅気だ!」


「徳丸さんがそう言っても、礼儀だけは正しくしなければ……」


「あはは!」

「山本は相変わらずこだる奴だな!!」

「お前が職人で無ければ、俺の所に入れているのだがな!!」


「そっ、それは、少し……」


「あはは―――」

「まぁ、冗談だ!」


 徳丸さんは笑いながら言った後、急に険しい表情に変わる。


「……山本」

「久しぶりに仕事が来たぞ…!」


 徳丸さんは低音口調で言う。

 話し方からして……これは裏の仕事だな。


「そうですか……」


「あぁ…。今回も小物だが……今回はちょっと、依頼者から要望を加えられてね」


「要望ですか…?」

「かなり、恨んでいるようですね」


 僕のお仕置きプランは基本的に、僕の思い通りでお仕置きをする。

 徳丸さん(依頼者)の指示でお仕置きを行う時も有るが、設備の関係や都合で出来ない場合も有るからだ。

 それに僕のお仕置きは、拷問で殺す事が目的では無い。


「あぁ…」

「相手さんの肩・肘・膝を完全に壊して欲しいそうだ」


「……依頼主さん。かなり調べたようですね」

「其処まですると相手、完全社会復帰は出来ませんよね…」


「まぁ、出来る訳無いだろうな。山本!」

「歩く事や物を持つ事も困難に成る筈だ…。最近の依頼者は要求が過剰過ぎるよ!」


 徳丸さんは呆れ返りながら言う。

 徳丸さんの世界でも、此処までの行為はしないだろう。


「それだけ、世の中すさんでいる証ですね」

「それで、徳丸さん。相手の情報はどれだけ掴んでいるのですか?」


 すると、徳丸さんは馬鹿にする様に言い始めた。


「……山本。聞いてびっくりだよ!」

「依頼者の住んで居るアパートの隣人が、ターゲットだそうだ!!」

「世の中、本当に変な時代に成ったもんだよ!!」


(近所トラブルで私刑を求めるとは余程、依頼者は小心者なのか)


「だが、依頼を受けた以上。これは俺達の仕事だ!」

「今回も頼むぞ。山本!!」


「……はい」


 お仕置きの仕事は徳丸さんが事務仕事をして、俺が現場(お仕置き)担当で有る。

 お仕置きの報酬分配は徳丸さんが6割、僕は4割と成っている。

 今回は依頼者から要望が付いているから、かなりの収益に成るだろう?


「それで、経緯いきさつは何なんですか。徳丸さん」


「……経緯?」

「大した事無いよ…。依頼者の隣部屋に数ヶ月前、母子が引っ越して来たのだが、その息子が少し癇癪かんしゃく癖が有って、直ぐ扉や物に当たるそうだ」

「その息子、定職に就いては無いらしく、その音が1日響いて目障りだそうだ」

「あっ、ちなみに依頼者は男性で有り自営業な。その部屋で生活と自営業をしているそうだ!」


「……徳丸さん。下らん理由ですね」

「そんなの、その男を注意すれば、終わりでは無いですか?」

「その依頼者、情け過ぎませんか?」


「まぁ、まぁ、山本」

「世の中、全てお前の様な男ばかりでは無いのだよ」

「依頼者も数回、部屋に出向いて男に注意を言ったらしいが、全く聞いてくれなかったらしい」


「……男が聞かなければ、其奴の母親に言えば良いでないか!」

「母親の言葉なら息子も聞くだろ?」


「あぁ、山本言う通りだ!」

「依頼者もその母親を待ち構えて、息子の話はしたそうだが『息子は息子の意思で生活していますので……』で終わったそうだ」


「男だけで無く母親もくずですね…」


「本来なら其処で話が終わるのだが、母親に告げ口されて逆上した息子が、依頼者の車に傷を付けたそうだ」

「『死ね』と“でかでか”ボンネットに鋭利な物で書かれた」


「……それは、少しやり過ぎですね。その息子」


「だろ! 山本!!」

「また、依頼者の車が国産車で無く外車なんだと」

「依頼者は自営業だから、その傷つけられた車でも、それに乗って営業活動をしなくては成らない」

「恥ずかしさ、恥、怒りが一気に沸いて、俺の所に来たと言う訳だ」


「……徳丸さん」

「車に傷を付けたのが例の息子なら、警察に通報すれば終わりですよね?」

「今の時代、何処にでも監視カメラは有るし、板金の修理代や慰謝料を息子では無く、母親に請求すれば、母親は払うしか無いでしょう…?」


 僕は当たり前の事を言う。

 俺が其奴を処理するのは構わんが、警察を使えるならそっちの方が手っ取り早い。


「まだ、続きが有るのだよ。山本!」


 徳丸さんはそう言いながら話を続けた……


 ……

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