第6話 呪われた史跡部

 砂を噛んでいるよう。そういう言い回しを小説で読む。こういう状態なんだろうか。

 何を食べても味がしないで、がまんして食べても、空腹が満たされないし、後で戻す事になる。仕方が無いと、あれ以来、サプリメントで栄養を摂っている。

 別府先輩と翔子の遺体は見つからず、行方不明扱いのままだ。おかげで史跡部は呪われた部とか言われ、腫物扱いだった。

 そして僕達生還した3人は、相変わらず部室で顔を合わせていた。どこかに行っても身の置きどころがないというか、居心地が悪い。それに昼休みは、お弁当を食べるクラスメイトと一緒にいたくない。

 先輩達も同じなのか、本を読んだり、勉強をしたりで、成績が上がったのは皮肉な結果だ。

「新入部員、ゼロかあ」

「まあ、いいけどな。どうせ、史跡めぐりなんてこじつけの、暇つぶしの部活だしな」

「よく入ったなあ、山代」

「先輩がいいますか、それ」

「違いない」

 バカ話をして笑ってはいても、どこか上滑りで、続かない。

 ああ、そうだ。この部に入ったのは、緩くて楽で、面白そうじゃないって、翔子が誘って来たからだ。

「あ、そろそろ予鈴だ。行くか」

「おう」

 先輩達が立ち上がり、僕も立ちあがる。

 この渇き、この飢えを、どうしたら癒せるのだろう。

 もう、一生このままなのだろうか。それは、別府先輩と翔子の、呪いなのだろうか。

 溜め息をついて、僕は午後の授業に向かった。


 部室のドアに手をかける。

 と、何やら中で音がした。一気にドアを開けて、それを見る。

 黒川先輩がカナヅチを、草津先輩が大振りなナイフを持って、もつれ合っていた。

「先輩。何をしてるんですか」

 意外と冷静な声が出た。

「ああ、山代。何かこの頃、食った気がしなくてな」

 黒川先輩が涼しい顔で言う。

「俺もだよ。味気ないんだよな」

 草津先輩も眉を寄せて苦笑した。

「お前もか」

「え」

「ナタ。違うのか?」

 黒川先輩が顎をしゃくって、僕の右手を指す。

「考える事は皆一緒か」

 草津先輩が笑い、僕も笑った。

 そして、ナタを振り上げた。

 これなら味がするはずだ。先輩達も、そう思っていたんだな。


 しかし、僕達はそのまま凍り付いた。

 いきなりドアが開き、別府先輩と翔子が現れたからだ。

「翔子……?」

「ホームルームが長引いちゃって。

 どうしたの?」

「え、いや……」

 僕達はぎこちなく、カナヅチ、ナイフ、ナタを下ろした。

「そんなものでふざけてちゃ危ないでしょ。全く男子は。大人しい山代君までこんなバカな先輩に染まっちゃうなんて。はああ」

 大きく別府先輩は嘆息して、僕達は気まずいような思いと混乱を押し隠した。

「いや、これは、まあ……そうだな」

 黒川先輩が言葉に困るなんて、滅多に見られない光景だろう。

 でも、言えるわけもない。別府先輩と翔子を食べて以来、何も味がしなくなったから、人なら味がするのか確認しようとしていた、だなんて。

 これは、「バカな事はやめろ」と別府先輩と翔子が見せた幻か何かに違いない。僕はそう思いながら、ひっそりと笑った。

「健太、何泣いてるの?」

「え!私?私が泣かしたの?」

 うろたえる別府先輩と翔子の声が、今は嬉しかった。





 


 

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