シレネ

神楽岡 ラミア

出会い

 俺は今屋上にいた。何故?そりゃ授業をサボるためだよ。もう俺に授業なんてものは必要ないから。


 いつものように、屋上で惰眠を貪っていると、屋上に誰かが来た。屋上にいるのがバレて教師が来たのかと思ったがそうではないようだ。


 その女の子は、ボロボロになったペンと教科書。そして汚い字で書かれたノート。そして、一輪の白い花を持っていた。ノートの文字のほとんどは小さくて読めなかったが、唯一大きい字で「バカ」と書かれているのが読めた。


 その子は持っていたものを全て床に置き、靴を脱いだ。そしてフェンスに手をかけた…。


 俺はそこで彼女が何をしようとしているのかわかってしまった。正直理解したくなかったとは思う。


 世界のどこかで誰かが死ぬのはどうでもいいが、流石に目の前で自殺されるとSAN値が減りそうだし、気分悪いので一応止める事にする。


「おい、お前何しようとしてる?」


 その子は驚いた表情をし、フェンスを登る手を早めた。焦りなのか運動神経が悪いのかわからないが、全然登れていなかった。


 その隙に近づきフェンスから強引に手を離させる。男と女の力の違いか、その手は案外簡単に離れた。不覚にもその時胸を触ってしまった。一軍の奴らであればラッキースケベとか騒ぐだろうが、俺はそんなキャラじゃないしそんな雰囲気ではなかった。


 どうしようと困惑しているとその子が口を開いた。


「...変態。あーあ、あんたのせいで人生設計狂ったわ」


 言っている意味がわからなかった。だがその子は、役者が台本を読むようにその言葉を言う。


「じゃあさ、狂わせた償いとして、私の彼氏になってよ」

「………?もう一回言ってくれ」

「だから、私の人生設計狂わせたでしょ?つまり君には私の彼氏になる義務があるわけ。分かった?」


 よし。二回聞いても話からん。正直すぐにでもこの場を離れたかったが、こいつは「逃さない」と言わんばかりに話を続ける。


「私に、死んで欲しくないでしょ?だったら、私を生きたいと思わせて」

 まだこいつの言っていることが分からなく、頭が混乱していたが、一つの解答にたどり着いた。


「拒否する」


 そう。拒否することだ。面倒事は巻き込まれ無いのが一番だ。


「要件もなくなったし俺は教室に帰らせてもr」

「君に拒否権があるとでも?」


 俺はこいつに恐怖した。顔こそ笑っていたが目が笑っていない。シンプルに怖かった。


「君がここを去るのも自由だけど、君が去った後私が何をしても自由だよね?」


 そういいながらこいつはフェンスに手を掛ける。


「はぁ、分かったよ。やればいいんだろ」


 俺は渋々了解した。多分ここで去ったらこいつは俺に見えるように自殺するだろう。それが飛び降りてる途中か死体になった後かわからないが。


「やればいいんだろ。じゃなくて、私にいう事あるでしょ?」

「はぁ、付き合ってください」


 俺はここから早く離れたい一心でうんざりしながらそう答えた。


「よろしい」


 こいつは満足気な表情でそう言った。少しの間無言の間が続いていたが、その静寂の中怒号が響き渡った。


「佐々木。屋上で何をやっているんだ?」


 生徒指導の長谷川がやってきた。


「なんで俺だけなんですか?ここにもう一人…」


「屋上には佐々木一人しかいないが?」


 そう言われて辺りを見回すと数秒前までいたはずのそいつがいなかった。「来るなら言ってくれよ」と思いながら長谷川の説教を流し聞いた。


 そうして説教が終わり、教室に戻ろうとしたら一輪の花が落ちているのに気づいた。その花は白く一見スズランのように見えたが少し違う。似ているが花弁が尖っている…?


 俺に花の知識なんてほとんどない。もう会いたくはないが次に会ったときに返そうと思い、花をポケットに入れて教室に戻っていった。結局場所が変わっただけで、また寝て時間を潰した。

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