台風12号

南沼

第1話 プロローグ

「台風12号についての情報をお伝え致します。

 気象庁によりますと、台風12号は東シナ海で停滞を続けていましたが、東北東へと進路を変え、来月の一日には対馬海峡へ近づく見込みです。

 一度勢力を落としたものの、明日午後には900ヘクトパスカルと、再び猛烈な勢力になる見込みです。北九州では来月一日にかけて大時化となり、波の高さは8メートルから10メートルと予想されています。台風は次第に進路を東寄りに変えて来月二日ごろには非常に強い勢力で本州に近づく恐れがあり、暴風や高波、大雨の恐れがあります。進路の予想には幅がありますが、西日本や東日本でも来月三日ごろには暴風や大雨になる恐れがあります。今のうちに、日頃の備えを確認するようにしてください」


 2019年8月30日、南シナ海で発生した大型の台風がいよいよ日本に接近した。この年、台風そのものの発生頻度やその規模は例年並みでありながら、この12号は低速をもって西日本を舐めるように通過する、被害の比較的大きなものとして予報された。

 最初の上陸地は九州北西部である。

そこから様々の物語は生まれ、他のあらゆる例でそうであるよう、それらの内の大部分は当人らを除き誰にも知られぬまま泡沫のように消えていった。

よって、ここに記されるのはそのほんの一部である。

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