白いうさぎと鳥居
野林緑里
第1話
それは雪が積もった日の帰り道。
ほとんどの雪が溶けてしまったなかで歩いていると神社へと昇る階段にちょこんと白いものが置かれていることに気づいた。
雪だるまなのだろうかと思い近づいてみると、どうやら違うようだ。
どちらかというと餅のような形をした固まりだった。
なぜこんなところに餅が置かれているのだろうかと手を伸ばしてみると、丸い餅のなかからぴょこんと長い耳が出現したのだ。
餅ではない。
餅にしては柔らかいし、よくみると全身が白い毛で覆われている。
やがて丸い尻尾があることに気づくと、長い耳の部分が起き上がる。
うさぎだ。
真っ白いうさぎが顔をあげてぼくのほうをみていたのだ。
どうしてこんなところにウサギがいるのだろうか。
しかもこんな寒いなかでなにをしているのだろうかと怪訝に思っているとウサギがぴょんと跳び跳ねながら、階段をかけ登りはじめた。
ぼくは思わずそれを追いかけていく。
うさぎはふいに上りきったところにある鳥居の前で立ち止まるとぼくの方を振り向いた。
ぼくは一度足を止める。
すると、うさぎはぼくに背を向けて鳥居の向こう側へと消えていった。
そのとき、ぼくはなぜか恐怖を感じた。
いつも見慣れた神社の鳥居、
普段ならば、その向こうの景色がみえるはずなのに、なぜか靄がかかったようになにも見えなかったからだ。
ただ真っ白いうさぎがかけていく姿だけがうっすらと見えていた。
うさぎはまた振り向いてぼくのほうを見つめている。
早くこい
そういっているような気がした。
うさぎを追いかけているぼくはまるでアリスにでもなった気分だ。
うさぎを追いかけていくうちに不思議な世界へと迷い混んでしまう「ふしぎの国のアリス」
正直ぼくはそれを読んだことはない。
けれど、たしかそんな内容だった。
もしかしたら、あのうさぎはぼくをふしぎな世界へ連れていってくれるというのだろうか。
こことは異なる別世界。
見たこともないふしぎな生き物が暮らしている世界。
それはそれで楽しいかもしれない。
こんなつまらない世の中よりもずっとずっと楽しいかもしれない。
そんな期待と不安。
底知れぬ恐怖。
そしてなによりも見知らぬものへの好奇心。
ぼくは一歩前へと進んでいく。
階段を登りきる。
鳥居の向こうは真っ白だ。雪がたくさん積もっていて真っ白で、うさぎの姿もそれと一体化している。それでも、ぼくにはうさぎの姿がはっきり見えていた。
うさぎが見ている。
早くこいといっていることがわかる。
鳥居の向こう側。
そこにはなにがあるのか。
なにもかわらない景色かもしれないし、まったく別世界かもしれない。
ぼくはそんなことを考えながら鳥居を潜った。
白いうさぎと鳥居 野林緑里 @gswolf0718
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