同期と夜景を見るだけの話。
いずみ
同期と夜景ドライブデート
大学の4年間も佳境に入り、今年も終わりが近づいてきた。
ある日の午後8時、いつものようにバイトを終えて事務所に上がる。そこで待っているのは同じ大学の同級生でバイト先も同期の友人、山科由希やましな ゆきだ。彼女は俺よりも1時間先にバイトを終え、事務所で動画を見ていた。
「お疲れ様」
「おう、おつかれ。今日は何食う?」
「私はお寿司を所望いたす」
「じゃあ回転寿司行くか」
「奢り?もちろん奢りよね?」
「くっ、先週シフト代わってもらったけんな、今日だけ特別やぞ」
俺の車に2人で乗り込み、郊外の回転寿司屋に向かった。
一人暮らしをしながら地方大学に通う俺こと河北大地かわきた だいちは、4歳上の兄から自動車を譲り受け、趣味のドライブを満喫する生活を送っている。
ーーーー
「好きなもん好きなだけ食ってよかよー」
「じゃあ私はウニから〜」
「人の金やけんっていきなり150円の皿から行く奴…」
そう言いながら俺は回転寿司に来たら必ず最初に食べるエンガワを注文する。俺なりのルーティンってやつだ。
「私、サーモンばっかり食べる人とは友達になれんかもね」
「同感やわ、俺は大人になって光り物とか貝とかばっか食べるようになった」
そんな他愛もない会話を弾ませつつ、寿司を楽しんだ。
ーーーー
「ご馳走様でした。」
「この間のお礼ということで」
回転寿司を堪能した俺たちは再び車に乗り込む。
「この後の予定は?」
「すぐ帰る?」
「俺は別にこの後何も無いし、帰ってもゲームするくらいで暇やけん、このままドライブでも行かん?」
「いいけど、この時間から行くってどこ行くん?」
「海とかでもいいけど、冬の海はクソ寒かけん夜景見に行こう」
「男女2人で夜景スポットとかロマンチックやんw」
「オススメのとこあるけん、行こうぜ」
「いつの間にそんなとこ知ったん、他の女の子を連れて行った場所に私を連れて行くんや、プレイボーイめ」
「しばらく女の子とデートなんかしとらんわ、前に男友達3人で行ったんよ。1時間くらいかかるけどいい?」
「いいよ、じゃあ運転よろしく!」
夜9時半、俺らは車を走らせた。道中の車内はバイト先の愚痴の言い合ったり。卒業論文の話をしたり。一緒に歌ったり。
俺たちは誰よりも気が合う異性だと思っている。
…少なくとも俺は。
ーーーー
「今年のクリスマスも2人揃ってバイトやったなぁ」
「俺なんて最後にクリスマスデートしたのは高2まで遡る」
「今年が学生最後のクリスマスやったのにねー」
俺たちは互いに就活も終わり、あとは大学卒業を待つのみだ。
「大学4年間のクリスマスと正月は毎年バイトしてたのも良い思い出になるよ、」
「それだけ聞くとめっちゃ悲しい奴に聞こえるよw」
「でも俺だけじゃなくて由希もじゃね?」
「それは言わない方針で」
そう言う由希は凄く美人だ。身長は165センチと高め、スリムな体型なのに出るとこは出てる、要するにスタイルがとても良い。大学内では高嶺の花で、成績も良いときた。まさに才色兼備。なのに、なぜか彼氏がいない。
由希の交友関係は広いわけではなく、いつも特定の友達と一緒にいるか、1人で授業を受けている。
大学内で見かける由希はクールな空気を醸し出している。バイト以外で男子と話しているところを見たことがないくらいだ。しかしながら、俺に話しかけてくれる時はいつも優しい雰囲気。ズルいと思う。勘違いさせに来てない?
惚れてまうやろ。
いや、結構前から惚れとるんやけどな。
ーーーー
そんなことを考えているうちに、目的地に到着。
「こんな山の中なのに夜景見えると?」
「ここから少し山の中の遊歩道を歩いた先に展望台があるんよ」
「暗くて何も見えんけど大丈夫?」
「ちゃんと舗装されとるし大丈夫よ」
俺たちは山の中を進む。
「ねぇ、」
「どうした?由希」
「寒いし真っ暗でちょっと怖くなってきた、」
「手繋ぐ?」
「いいと?」
「いいよ、ほら。」
自然と手を繋ぐことに成功。グッジョブ俺。…計画通り。
いかんいかん、悪い顔が出そうだったぜ。
握った由希の手は冷たかった。
手汗の心配ばかりしている俺。
「寒いね」
「もう少しで着くよ」
手を繋いでからはお互い無言の時間が続いた。不思議と気まずくなかった。むしろ心地よいくらいだ。
ーーーー
「着いた、この階段の上が展望台になっとるんよ、足元気をつけてね」
由希を先に上がらせて後ろをついていく。俺たちの他に人はいないようだ。
「うわっ、すごい綺麗」
「今日は天気良いし空気も綺麗でよかった」
ここから見える夜景は海が近いことから、街の光だけではなく港の灯りまで一望できる。
「夕方に来ると夕焼けも綺麗なんやけどな」
「夜でも凄く綺麗やし海も神秘的で私は好きよ」
由希はとっても喜んでくれたみたいだ。よかった、わざわざ来た甲斐があったな。
「私ね、大地に出会えてよかったなって思っとるんよ」
「どうした、急に?なんでそう思ってくれたん?」
「地元から離れた大学に入って、友達もおらんで、初めてバイトをやろうと思った時に、先輩とか社員さんとかが怖かったらどうしよう、仕事捌けないやつって思われたらどうしようって不安になった時期があって。いざバイトを始めてみたら、軽いノリで先輩たちに絡む同期の男がおって、「こんな軽くて見た目チャラそうな奴とは仲良くなれそうにないな」って思った。」
「悪かったな、チャラくて軽そうな同期で。」
「第一印象はね。でもね、一緒に仕事する中で、ノリは軽いくせに仕事に対しては真面目で、お客さんにも優しくて、色々教えてくれたり助けてくれて。不安やったバイトが凄く楽しくなって、いつの間にかね、大地とシフト被る日が待ち遠しくなった。後輩たちにも優しいし、誰とでも仲良くできる大地が羨ましかったんよ。」
由希がそんな風に思ってくれてるとは意外だった。
「大学に入ってからね、自分で言うのもアレやけど、見た目が良いだけで周りに男の人が寄ってきて、連絡先とかもいっぱい聞かれて断り続けたけど、少しずつ男の人が怖くなってね。バイト先でもそんな感じなんやろうなって思っとったけど、大地は誰に対しても同じ態度でいつも軽くて優しくて、怖くないなって。」
…いや、たぶん可愛い子に辞めてほしくなかっただけやけど。当時の俺、下心アリアリやったけど。
「やけんね、私は大地と4年間一緒に働けて凄く良かったなぁって思えるし、1番心を許せる人やなぁって思うんよ。」
「俺も由希が1番気の合う異性やと思っとるよ。大学卒業して就職しても由希とはずっと良い関係を続けていきたい。」
「私も。」
風の音だけが聞こえる。
握ったままだった手に力が入る。
(もうここで言うしかない。腹括れ、漢見せろ、俺。)
「由希。……俺は由希のことが好きです。俺と付き合ってください。これから先も俺もずっと一緒にいてくれませんか?」
「え?」
「初めて会った時はすげえ綺麗な子がバイトに入ってきて嬉しいって感じやったけど、それから真面目で芯が通っててちょっとだけ天然な内面を知って。いつの間にかそんな同期の女の子が好きになった。」
「ほんと?」
「ああ、ほんと。俺はこの先、大学卒業してもずっと一緒にいたい。友達としてじゃなくて、1人の女の子として大切にする。」
「私ね、ずっと好きな人おるんよ」
「え」
ずっと激しかった胸の動悸がさらに激しくなる。
勢い余って告白したけどそういう風なんじゃなかったか。やっぱり俺なんかと釣り合わないしダメだったか。早まったなぁ、友人としての距離が近すぎたかもな…
「君だよ」
「へ?」
「だから大地のこと好きなんやって」
「マジで!?」
「へへっ、そんな驚く? 私もそういう話ししよったやん」
「4年間一緒に働けてよかった、友人関係続けてねっていう話かと思った。」
「じゃあなんで告白してくれたん」
「いや、ワンチャン俺のこと好きなんかと思って」
「たまには男らしいところ見せるやん、先に好きって言ってくれたってドキドキしたのにw」
「いや俺もフラれると思ってドキドキしたわ、手汗やばいし」
「でも今日は大地から手繋いでくれて、こんな素敵な場所に連れてきてくれて、告白までしてくれて。本当にキュンキュンしたよ」
「今日は今まで由希と一緒にいた中で1番ドキドキしてます。」
「で、私と付き合ってくれる?1人の女の子として大切にしてくれる?」
「もちろん。由希、大好きです。勘の鈍いこんな俺でもよければ付き合ってください。」
「嬉しい。ありがとう。こちらこそお願いします。」
「よかったぁ。これからもよろしく」
ずっと好きだった子と付き合うことができて幸せな日になった。大学卒業後は就職先が同じ県内ではあるが、少し遠距離になる。でも、ずっと大切にするし、幸せにすると誓う。思い切ってドライブに誘って夜景スポットまで来てよかった。この思い出は大切にしよう。
同期と夜景を見るだけの話。 いずみ @earth1475
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