絶対に幸せになれない悲しい特殊性癖『ストーキングストーカー』
昆布 海胆
絶対に幸せになれない悲しい特殊性癖『ストーキングストーカー』
異性に恋をする、それはとても素晴らしい事である。
だが世界には特殊な性癖を持つ人間が多数存在する・・・
その性癖故に、永遠に成就する事の無い悲しい恋をするさだめを持つ事だってあるのである・・・
これはそんな特殊な性癖を持つ男の物語・・・
暗い夜道、電柱の街灯が照らす道を小走りで歩く一人の女性が居た。
彼女の名は『スミレ』、とある企業に勤める24歳のOLである。
「あぁ・・・今日もとっても可愛いよスミレ」
そのスミレの後ろを物陰に身を潜めながら後を付いて行く俺。
そう、言わずもがな分かるとは思うが、これはストーカーというヤツである。
彼女との出会いは親友を通じてであった。
俺の親友『アツシ』がスミレと同じ職場で働いていて、アツシから俺は彼女の事を聞いて知ったのである。
この俺の特殊性癖を以前から知っており理解を示してくれているアツシ、本当持つべきモノはイケメンの親友である。
「あぁ・・・スミレ、その笑顔が見れて俺は幸せだ」
今はスマホと言う便利な物がある、スミレがそれを使っている時に見せる笑顔、その顔に俺の恋心はガッシリ掴まれている。
少し引っ込み思案で暗い感じの彼女だからこそ笑顔の時のギャップが更に強くなる、スイカに塩を振った時のようにアクセントになるわけだ。
交差点を曲がり見えなくなるのに合わせ、俺は足音を出来るだけ立てずに素早く進む。
自分で自分の性癖の事は理解しているつもりだからこそ彼女に気付かれるわけにはいかないのだ。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
交差点、もしもスミレが俺に気付いていてこっちを見ているかもしれない・・・
こういう時に海外ドラマで見た方法が非常に役に立つ!
スッとポケットから出した小さな鏡で交差点の先を覗き見てスミレを確認する。
「よし、気付いていないな」
この先の道をスミレは真っ直ぐに進むはずだ、だからこそここを曲がるのは急いではいけない。
もしも今回顔を見られたりすれば、次回から後を付けるのが難しくなるからだ。
逸る気持ちを押さえて慎重に行動をする俺、幸いスミレがこちらを振り向く事は無く、スッと自然な動きで俺も交差点を曲がった。
そして、いつものポジションに俺は体を隠す。
「ふぅ・・・よし!」
そこから見えるスミレの横顔、ここが一番重要なのだ!
キラキラとした目で見上げるスミレの横顔は最高に可愛く、彼女が一番輝いている瞬間と言っても過言ではない。
いつも通りスミレのあの顔を見れた事に満足し、俺は興奮でおかしくなりそうな程早まる鼓動を手で感じていた。
自らの心臓の上に乗せた自らの左手に伝わる力強く素早い鼓動がスミレに本気なのだと主張していた。
そして・・・
「あっ・・・」
その場を歩き去るスミレ、俺の今日の恋の時間が終わりを告げる・・・
ポケットから取り出したスマホで親友のアツシに電話を掛けてお礼を告げる。
「よぅ、今日も堪能したかい?」
「あぁ、大満足だ。本当アツシが居てくれて良かったよ」
「まぁ俺としてもお前が居てくれるから安心なんだがな」
そう言って他愛のない会話をいつも通り交わし通話を終える。
最初アツシからスミレの事を相談された時は本当にコイツと親友になって良かったと思ったものだ。
そう言って俺は部屋から俺に向かって手を振るアツシに手を振って帰路につく・・・
きっとアツシ以外世界の誰にも理解される事は無いだろう俺の性癖・・・
明日もまたアツシと同じ職場で働くスミレは俺を喜ばせてくれることだろう!
「あぁ、スミレ・・・早くまた君に会いたいよ♡」
俺は先程までの興奮を思い出しながら溢れんばかりの高揚を押さえつつ自宅へ向かう。
異性のストーカーは本当に最高だ!
俺は一生独身で暮らしていく事だろう・・・だがそれでも良い。
カマキリは繁殖時、雌が雄を食べるという・・・
アンコウは繫殖時、雌の体に雄が取り込まれるという・・・
一度の愛で人生を終わらせる事に比べれば俺の愛は永遠なのだから・・・
これはとあるストーカーの物語。
悲しい定めを背負った一人の男、彼には特殊性癖があった・・・
それは彼が・・・
自分以外の異性をストーカーしている異性をストーカーする事でしか愛せないという悲しい特殊性癖の持ち主だったからである。
相手がもしも自分に気付き、好意を向けて来たとしても彼は一切応じる事は無いだろう。
何故ならば、彼は自分以外の誰かに好意を持って後をつけ回す女性が好きなのだから・・・
そして、明日もまた彼はストーカーをストーカーする・・・
ストーカーをしている女性がスマホで盗撮した画像に喜ぶその顔や仕草に発情する為に・・・
完
絶対に幸せになれない悲しい特殊性癖『ストーキングストーカー』 昆布 海胆 @onimix
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