二度目のデート(これも戦い?)。中編

 水中での最悪の情事が未遂に終わった後、疲れたから一階のプールサイドで休んでいるわとカオルが言った。階段をゆっくり下りて周囲を見回した後南側の隅にある丸いテーブルを指差して、あそこに座って子どもたちを見ているからと微笑んだ。


 とても意外で、前向きな彼女の言葉にボクは少し心が和んだ。


 二十代の頃見ていたカオルは子育てに苦労している様子で、むしろ子どもが苦手なのではと思っていた。その考えを裏付けるように、小さな娘を抱えた次女夫婦が家探しの間一時同居している際にも、早く出ていくようにと何度も口論になったと聞いていた。

 それはカオルが一人っ子だった生い立ちに起因していると考えた。長い間何でも独りで完結させていた彼女が家庭を築いたとたん、その生活は有無も言わせず封印されてしまった。愛する人と結ばれたとはいえ、彼女にとって生活のほとんどが義務だった。子どもを生むことも育てることも、夫の両親や親族と関わることも全てが義務だったのではないか。

 本当は叔父真一とだけ居さえすれば、カオルはそれで十分だった。今の時流は多様性を重んじるから、幸せな家族の考え方も人それぞれと言えるだろうが、両親と多くの兄弟に囲まれた大家族で育った叔父の幸せには、子どもが大勢いる日常が当たりだったに違いない。カオルが望む家族のかたちでは決して幸せになれないから、仕方なくあらゆる義務作業をこなしていた。それ故子育てが終わったあとは真一以外全てを排除したかった。ボクはずっとカオルの本心をそう考えていた。だから『たっくんの子どもを十人でも生む』と宣言した言葉が俄には信じられなかった。

 夫婦になったからってそれだけでカオルの真意が全て理解できるはずもない。でも思いがけずボクの子を身籠ったことで変心がなされたのなら、そんな嬉しいことはない。

 ボクはこの時、人類滅亡の危機など一切忘れ、素直な感慨に耽っていた。

 

 もう少し泳ぎたかったので、パラソルの下にカオルを置いて、再び二十五メートルプールに向かった。階段の途中で振り返ると、五歳くらいの女の子を連れた母親にお腹の子について話し掛けられているようで、笑顔が覗いていた。

 和やかな様子を改めて確かめると、ボクは残り一時間のスケジュールを決めた。あと三十分集中して泳ぎ、その後は彼女のいる場所に戻って残りの時間を二人で過ごそうと考えた。


 先程のハプニングを打ち消すように、ボクは泳ぎに集中していた。ドームに二人で出掛けた時は彼女の大胆な行動に衝撃を受け、またその後あり得ない戯れを期待し、予想できない経験で心を乱された。麻里奈が予見したように、ボクは振り回されることを前提にカオルに接しなければならない。だが後手に回ってはいけない。ボクに尽くす態度を見せながらカオルが何を仕掛けてくるか分からない状況では、常に冷静でいなければならない。あの時のように狼狽えてはいけないのだ。

 

 予定通り三十分で泳ぎを切り上げ、カオルの許へ向かった。


 二階から見下ろすカオルは子どもたちに囲まれていた。小学校高学年くらいの男の子で人数は五人。何やら楽しそうに笑顔も交えて話が弾んでいる。積極的に子供たちとの交流を図る彼女の様子に心が和んだ。ボクは足早に階段を下り、気付かれないよう盗み聞きをする積りでその輪にゆっくり近付いた。

(!)

 ボクは耳を疑い、激しく動揺した。内容をじっくり確認するまでもなく、思いもよらない会話であることに愕然としたからだ。


 彼らはカオルの容姿を褒めちぎりナンパしているようだった。    

「さっき一緒にいた男の人旦那なの?随分不釣り合いだね。おばさん奇麗なのに、あんな相手じゃもったいないよ」

 少年は平然と不躾けな質問を投げ掛けた。 

「いいえ、違うの。あれは死んだ主人の弟……。私実は未亡人なの。死んだあとに妊娠が判って産む決意をしたんだけど、やっぱり独りで育てるのは大変だから、素敵な殿方を見つけようと思ってココに来たの」

 普段とは違う語り口調で説明は事実無根。しかも『素敵な殿方』を探すなら全くの場違いな気がする。

「でもあの男、おばさんに気があるんでしょ?」

 一番悪そうな少年が、如何にも知った風な口でカオルを問い詰めた。

「……そうなの、それで私困ってるの」

 困惑した表情はすっかり訳ありな身重の未亡人になりきっている。

「私も一度その気になって、彼に抱かれたの。でもすごくセックスが下手で、女性に対する気遣いもぜんぜんダメ。とても付き合う気になれなかった……」

 そうため息をつきながら嘘の物語は続いていく。一体どこまで続くのか、ボクは聞き耳を立てていた。


「俺セックス上手いよ!」

 突然カオルの表情が輝いた。

「私、セックスが上手な殿方が好き」

「それじゃ、俺がおばさん抱いてもいい?」

「貴方の精子、たくさん戴けるかしら」

「もちろん、いくらでも出してやるよ」

 すると周りにいた少年たちが俺も俺もと騒ぎ始めた。カオルが笑顔で頷くと、その内の一人が彼女の乳房を掴み、揉み始めた。


 信じられない光景だ。


 再びあの悪夢が蘇った。しかも相手は少年だ。カオルが言う『素敵な殿方』は少年なのか?そもそもこれは幻なのか現実なのか?

 ボクは再び混乱していた。


「き、君たち、この女の人に何を言ってるんだ!?それに身体にまで触れるようなまねして!君たちはまだ小学生だろ?」

 明らかにカラ威張りだった。腰が引けてる大人の話なんか聞くはずもない。逆にこいつだよおばさんが言ってた奴はと、嘲笑するように囁く声を聞き萎縮した瞬間、不良ぶった一人が叫んだ。

「小学生だって関係ない。セックスは知ってる。おばさんのセックスの相手くらい簡単さ。それにお前はおばさんに振られたんだよ。だから俺たちに構わずさっさと一人で帰れよ!」

 少年の啖呵にそうだそうだとやじが飛び、ボクは増々尻込みした。

 それじゃあみんなで遊ぼうよと、一人がカオルの腕を掴むと勢いよく身体を引っ張り上げた。他の四人がそうしようと奇声を上げながら、彼女の背中を押し何処かへ連れて行こうとした。


「お、おい、何処へ連れて行くんだよ」

 強がって見せるが明らかに威勢が悪い。

「振られた奴には関係ないだろ!」

 逆に高飛車に言い返された。

 小学生とはいえ、想いを一つに団結するエネルギーには大人ででさえ圧倒されてしまう。その相手が、まるでひ弱な大人の代表のような風情の自分では全く以て成す術がない。

 何のことはない。彼らを強引に振り解き、カオルをここから連れ出せば、問題はなかった。だが身体が全く動かなかった。その様子をただ眺めているだけ。ドームでの悪夢が再燃されてしまった。

 カオルは胸や尻を弄ばれ、五人に囲まれながらボクから離れて行った。振り返る彼女の表情には言いようもない不敵な笑みが浮かんでいた。

 あの時と同じだった。


『私はあ・な・た・のカオルなのに、こんなコトされて悔しくないの?だったらこの下僕たち以上にたっくんの精子で私をしあわせにして……』


 少年たちは流れるプールの中央にある幼児用プールにカオルを連れて行き、プールサイドに座らせた。中に入った二人がカオルの前に立ち、右と左、それに背中側にそれぞれ一人づつで彼女を囲み、彼らの腕がカオルの身体中をまさぐり続けた。胸に手を入れ乳房を揉み、ショーツにも潜らせた。カオルは指先の動きに合わせ甘い吐息を発している。

 ボクはただ彼らの仕打ちを呆然と眺めていた。眺めているしかなかった。身体が全く動かなかった。

 早く貴方たちのエキスを頂戴とカオルが強請ると、彼らは奇声を上げ、カオルを立たせて水着を剥いだ。五人いればその作業は容易い。ショーツに三人、プラジャーに二人。いち・にの・さんの掛け声で、下へ上へと布切れは呆気なく身体を滑った。全裸の姿に歓喜し、忙しくスイムパンツを脱いだ。彼らのボルテージもピークに達している。若さ故全員の男性器が既に天を向いていた。その猛り様は最早小学生のモノとは思えないほどの太さと長さを兼ね備えていた。

 その事態に大きな危機感を抱いていた。それなのにボクの目はカオルに釘付けだった。

 高齢であるにもかかわらず新しい命を宿した彼女の佇まいは、細身ながら乳房や腰周りに生命力溢れる豊かさを復活させ、下腹部の著しい主張も相まって見事な曲線美を集結させていた。キリスト教信奉者でないボクでも『受胎告知』は知っている。まるで大天使からのお告げを聞いて、キリストの母になることを受け入れたマリアが宿した命を慈しむ姿を想像させた。

 そのとたん身体が熱くなった。心が騒いだ。我が妻が弄ばれているのに、犯されるカオルの痴態を期待している自分がいた。

 彼らはカオルを水の中に寝かた。幼児用プールの水深は三〇センチ程だからプールサイドに頭を置けば身体が水中に隠れることなく彼女を抱くことができる。水面に浮かぶ上半身の柔らかな丘と、下腹部の張りのある稜線がとても異様で扇情的だった。左右両側で一人づつ身体を押さえ付けると、不良気どりの少年が正面に立ちカオルの両脚を割った。異様に発達した男性器の持ち主ではあるが、背伸びしている少年の華奢な体格では熟した大人の肉体を持つカオルを自由に操るのは難しいと思った。だが予想に反し少年の手際は見事だった。両足首を両手に抱えると素早く膝を折ってM字に開いた。入口はもう目の前。少年は腰を沈めた。その瞬間カオルは唸った。表情は歓喜に満ちていた。ボクはその時絶望感と高揚感を同時に抱いていた。こんな経験は初めてだった。

 周囲で家族連れが少なからず戯れているのに、誰も彼らを諫め止めようとはしなかった。公の場でのわいせつ行為は明らかに犯罪だ。だが止めるどころか視線を向ける者すら皆無だった。

 得てして経験の少ない少年たちの行為は一直線だ。抑揚なんて何もないし相手を気遣うことすらない。膨張した欲望をただカオルの穴に突き刺し、腰を激しく振り続けるだけだった。もっと優しくしてと懇願するカオルに少年は全く聞く耳を持たない。宿る命さえ何とも思わず、平気でカオルの腹部を圧迫する。

 少年は彼女の中で程なく果てた。だが律動は中々止まなかった。


 行為を終えた少年がすぐさま声を掛けた。

「ねえおばさん、お腹の赤ちゃん、本当に死んだ旦那さんの子なの?違うんだったらみんなとヤリまくって、どうにがなってもいいんじゃないの?」

 

 どうにか?まさか……。


(やめろ!)


 ボクの叫びは言葉にならなかった。


「そうね、それでもいいかもね」


 カオルは少年に賛同している。


「どうにかなっても構わないなら、面白いコトやろう」

 少年の昂りは既に復活していた。余韻に浸るカオル身体を引き起こすと頭の上で目を血走らせていた少年がプールの中で横たわった。

「おばさん、こっち向いて」

 その少年が声を掛けると、カオルは振り返り少年の上に跨った。

「そのまま腰を下ろしてよ」

 彼女が見下ろす視線の先には穢れを知らない桃色の男性器が今にも爆発しそうな勢いでそそり立ち、涎を流して待ち構えていた。カオルは言われるまま腰を沈め、容易く少年の昂りは膣内(なか)に消えた。一度腰を上下に動かし感触を確かめるように吐息が漏れると、先ほど終わったばかりの少年が言葉を掛けた。

「おばさん、後ろの穴使ったことある?オレ今からそっちに入れるからな」 

 最初に果てた少年は触診で位置を確認しながら、完全復活した男性器の先端を肛門に押し当てた。拡げるの初めてだからゆっくりやってという懇願も彼には通用しなかった。前の穴と同様一気に突き刺した。その瞬間の一声は苦痛を含んでいたものの、すぐに甘い吐息に変わった。

 女性の身体を前後から挟んで同時に二穴を弄ぶ『サンドイッチ』という体位を実践していた。カオルは聞いたことのない唸り声のような喘ぎを漏らしていた。前後の二人は突き上げる作業に没頭し、腹部の圧迫を強めている。このままでは本当に胎児に危険が及んでしまう。残りの三人も前回の悪夢と同様、彼女の両手と口で楽しんでいた。分別のある大人の男性に比べて厄介なのは、好きな遊びに対して遠慮せず、我慢を知らなかった。昂ればすぐに吐き出していた。その粘液は両手にあるモノなら彼女の肌を汚し、器官を塞ぐモノは中に撒き散らした。場所を変えて放ち続けていた。大きな風船に戯れる幼児のように彼女の腹部にダイブしていた。華奢な体型に蓄えてある体力よりも何度も気持ちよく放出したいという性欲の方が断然勝っていた。いつ終わるのかと恐怖さえ抱いた。

 だが心の動きとは裏腹にボクの欲望は煮え滾っていた。


「お前さあ、そこで突っ立ってないで、一緒にヤルか?」

 心中を見透かされたように、不良少年が声を掛けた。悲しいかな昂りは涎を流して喜んだ。その時、彼らとボクの空間は繋がり、それ以外は異世界を見ているようにガラスの壁で隔絶されてしまった。

 ボクはゆっくり歩き出した。凌辱され、汚される度に妖しく濡れる肌を見せられ、カオルに浴びせたくて堪らなかった。こんな状況なのに、渡りに船の言葉にボクは容易く屈した。


「やめて!彼だけには射精(だ)されたくないの!」

 だがカオルの拒絶は信じられないほど悲痛で、ボクを失望させた。

「だってさ……。それじゃあ、仕方がない。おじさん、よっぽど嫌われてんだなぁ、ホントに残念だよ……」


 カオルの拒絶反応に行き場を失った欲望は空しく宙を舞った。


『我ら一族の魂よ。復活への準備は着々と進行している……。

 小さな島国の僕(しもべ)のため、僕の奴隷がさらに濃厚なエキスを抽出するよう奴隷の心を惑わし僕へと向かわせる一助を為すのだ……。』

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