⑷ 転生
それじゃあ、番外編の続き。
私達はマンティコアに見つからないようにスーパーに向かった。
ある時点から魔物が出るようになりました。
魔物といってもコカトリスや大猿とか、その程度の魔物です。
コカトリスっていうと大きな鶏。きっと食べたら美味しいと思います。これから食料が尽きて、魔物を食べなきゃいけないっていう時に、コカトリスなら食べていいと思います。
だけど尻尾が毒ヘビになっているので気をつけなくちゃいけません。
Dランクの魔物です。
Dランクぐらいなら私の一撃で倒すことができます。
ミチコと金棒。それは最強同士の組み合わせです。
金棒を0キロにさせ、自分の体重も0キロにさせ、ジャンプしてコカトリスの脳天に強烈な一撃。
攻撃を与える時に、体重増やす。
元の重さより増し増しで。
脳天に大ダメージを食らわせたコカトリスは一撃で倒れます。
私もチートになったものです。
コカトリスはスーパーに着くまでに7匹ぐらい出てきましたが、全て2人で瞬殺でした。
大猿も10匹ぐらい出ましたが、全て瞬殺でした。
私達は強いのです。
スーパーらしき瓦礫に辿り着くまでに、1時間ぐらいかかったと思います。
その瓦礫の山が、なぜスーパーだとわかったのかというと看板が落ちていたからです。
私のスキルで瓦礫を綿菓子でも持つように退かしました。
瓦礫の下から腐った野菜が出てきました。
「さすがに食べれないわね」
と新庄さんが言います。
瓦礫を掘って行くとカップラーメンを見つけることができました。
でもお湯がなければ食べれないんじゃないか? そんな事は考えませんでした。バリバリ食べればいいわけです。
そしてお目当ての缶詰も発見しました。
私達はリュックに缶詰を詰め込んでいきます。
作業をしている最中に悪寒が走りました。
それは新庄さんも同じで、彼女も私のように手を止めていました。
振り向くとマンティコアです。
生活指導の先生のような顔がヨダレを垂らしながら私達のことを見ています。
「私が時間を稼ぐからミチコは逃げて」
と新庄さんが言って、鞘から日本刀を抜きました。
彼女は闘気をまといました。そして炎のスキルもまといました。
新庄さんの髪が真っ赤に染まっていきます。
マンティコアはAランクです。
私達に倒すことができない魔物です。
ましてや新庄さんが1人で戦える魔物ではありません。
私も金棒を握りました。
「逃げて」
と新庄さんが叫びます。
「一緒に戦います」
「ダメ」
マンティコアが襲って来ます。
魔物は待ってくれません。
ライオンのように鋭い爪で新庄さんに襲って来ます。
それを彼女は日本刀で受け止めます。
だけどマンティコアは汚い口を開けて新庄さんを噛もうとします。
私はジャンプしてマンティコアの脳天を叩きにいきます。
それに気づいた魔物が避けます。
私が着地したと同時に、サソリの尻尾で私を攻撃してきます。
それを新庄さんが受け止めます。
すごいコンビネェーションです。
私達はお互いを守るように戦っているだけなんです。
もしかしたらコレなら勝てるかも、と思いました。
でも甘かったです。
マンティコアは鼓膜を破るぐらいの叫び声を上げました。
思わず私も新庄さんも耳を塞ぎました。
そしてマンティコアは新庄さんを食べようと襲ってきました。
新庄さんを守りたい一心で、私はスキルを放出しました。
私の手から黒い玉が出ました。
初めて万有引力を飛ばすことができました。
黒い玉はマンティコアに当たりました。
最大限に重力を重たくなるように魔力を込めました。
マンティコアは動かなくなりました。
立っているのもやっとみたいです。
だけど、この状態は長く続きません。
「今のうちに逃げましょう」
と私は言いました。
「シヴァさんが守る領域まで行きましょう」
そこからは2人でガムシャラに走りました。
瓦礫の上を走りました。
何度か足を捻りましたが、それでも走りました。
シヴァさんのところまで行けば助かります。
後ろから鼓膜を揺さぶる鳴き声がしました。
思わず、倒れて耳を塞ぎました。
マンティコアが襲って来ます。
私は黒い玉を出すために手の平を魔物に向けます。
黒い玉はマンティコアに向かって飛んで行きます。
魔物が避けます。
新庄さんがマンティコアに向かって斬撃します。
長い攻防がありました。
「鳴き声を出そうになったら黒玉を出して」
と新庄さんが言いました。
黒玉。
私の放出系の攻撃が黒玉、と命名されました。
小林さんみたいなネーミングセンスです。
マンティコアが一歩下がって、鳴き声を出そうとしたので黒玉を出しました。
魔物が避けます。
そこを新庄さんが斬撃します。
マンティコアが尻尾で防ぎます。
両者の力量は互角でした。
互角といことは、このまま戦えば私達の負けになります。
人間より魔物の方が魔力量が多いのです。
そもそも人間に魔力が宿ったのは最近のことです。
魔物は魔力を使って、進化している動物です。
私達の勝利条件はシヴァさんのところに行くことでした。
それをするにはマンティコアを足止めするしかありません。
私の黒玉が当たればいいのですが、熟練度も低い黒玉はスピードが遅いです。
もう当たる気がしません。
それに放出系は魔力を相当消費します。
新庄さんを見ると脂汗が出ています。
覚醒状態も魔力の消費が多いみたいです。
「一度だけ、本気を出すわ。後は頼むわよ」
新庄さんが真っ赤に燃え上がりました。炎が空に向かっていきます。
新庄さんの一撃は早かったです。
だけどマンティコアは新庄さんの斬撃を尻尾で受け止めようとしました。
サソリの尻尾が切れました。
切られた尻尾がニュルニュルと動いています。
私は黒玉を出しました。
私が出した黒玉は、ゆっくりとマンティコアに向かって行きます。
ゆっくり、と言っても少年野球のエースが投げるストレートぐらいはあります。
魔物は新庄さんに集中していました。
マンティコアは爪で斬撃を受け止めようとしました。
トラクターのタイヤのような肉球が、燃え上がる炎の魔剣を受け止めました。
斬撃が肉球に入っていきます。
だけど魔物の右足を10センチぐらい切ったところで、斬撃が止まりました。
そこに私が放った黒玉が届きます。
マンティコアに黒玉が当たりました。
重たくなった重力。足の痛み。魔物が地面にひれ伏しました。
新庄さんは日本刀から手を離して、倒れました。
私は新庄さんを担ぎます。
新庄さんの体重を0キロにして、彼女を担いで走りました。
勝ったと思いました。
これでシヴァさんのところまで行けば私達の勝ちです。
日本刀を足から引き抜いたマンティコアが追いかけてきます。
さっきよりも魔物のスピードが遅いのは右足の負傷のせいだと思います。
私も走っていると息が上がっていきます。
気分が悪くなってきます。
苦しくて胸が痛くなっていきます。
それでも、もう少しでシヴァさんの領域まで辿り付きます。
そして私はシヴァさんを視認できる領域に入りました。
私は新庄さんを降ろして、地面に座りました。
助かりました。
私達は生きています。
マンティコアがコチラに近づいて来ます。
もしかして魔物はシヴァさんのことを失念しているのかもしれません。
シヴァさんがコチラに近づいて来ます。
マンティコアが私達の目の前に来ました。
シヴァさんがいることに気づいた魔物は、後ずさりをします。
『かしこまりました。命令を取り消して、そちらに行きます』
シヴァさんが消えました。
消える前にシヴァさんが何かを言っていました。
もしかしたら小林さんもピンチで、シヴァさんを呼び戻したのかもしれません。
終わりました。
「新庄さん、シェルターに帰ってください」
と私は言いました。
「ダメよ。一緒に帰るのよ」
「私は新庄さんのことをお姉ちゃんだと思ってました」
ずっと思っていたことを言えました。
「私もミチコのこと妹だと思ってるわよ」
胸が痛くなりました。
「新庄さん、大好きです」
両親がいなくなって私は帰る場所がなかったんです。
ずっと私は迷子だったんです。
新庄さんがいなければ、生きているのは耐えられなかったと思います。
だから彼女には生きていてほしい、と思いました。
私は黒玉を出しました。
そしてジャンプします。
スキルを使って高く高くジャンプします。
怪我をしていてもマンティコアは黒玉を避けました。
避けた先に私は降りていきます。
魔力を最大級に込めて、魔物の頭に金棒で殴ります。
それでもマンティコアは倒れません。
「新庄さんシェルターに行ってください」
「嫌よ。ミチコだけ置いて行くのは嫌」
「私の命を無駄にするんですか? 早く行ってください」
黒玉を出しました。
さすがに、この距離だったら魔物に当たります。
マンティコアがひれ伏しました。
もう魔力はありません。
体を動かすこともできません。
私が食べられるのは時間の問題です。
新庄さんはシェルターに向かっています。
よかった。
本当によかった。
新庄さんじゃなくて、私が死ねて。
黒玉の効果が切れたマンティコアが、動けなくなった私を襲います。
お母さん。
お父さん。
私ね、頑張ったんです。
いっぱい褒めてください。
ずっと会いたかったんです。
悲しかったです。
寂しかったです。
怖かったです。
私は恐怖と痛みで目を瞑りました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
番外編、最後の話です。
やっぱり語り部になったら、まだまだ続いてほしいと思うものですね。
だけどコレが最後です。
最後、というのは番外編の最後、というだけではありません。
この物語において私の登場するのが最後です。
なぜなら私は死ぬからです。
死について私が思うこと。
ずっと私の身近に死はありました。
死は母親を連れ去って行きました。
死は父親を連れ去って行きました。
ずっと私は1人ぼっちでした。
私には帰るべき家はなかったんです。
9歳で帰る家がない。嫌われの者の冒険者。それが私です。
ずっと私は迷子だったのかもしれないです。
死んだら両親のところに行けるのかな?
ちょっとした期待を持っています。
だけど死んだら暗闇が続くだけなのかもしりません。
作品でよく見かける転生モノは死への恐怖を無くすモノなのかもしれません。
きっと、違うと思います。
でも、死んだら、別の世界に転生して、別の人生が待っていると思ったら、死ぬのは怖く無くなりますよね。
だから鬼ヶ島で転生するペンダントを貰った時、少し安心しました。
死んでも転生できると思うだけで戦えます。
私が死んだ後、この物語がハッピーエンドに終わることを私は願います。
私が死んだ後、私と出会った全ての人が幸せになることを私は願います。
特に新庄さん。
私が1人ぼっちになってから、ずっと寄り添ってくれていた大切な人。
『道端ミチコ、転生します』
と脳内で声が聞こえました。
私は生まれ変わります。
でも、その物語は、別の話です。
もしかして次に読者様に会う時はメインヒロインかもしれません。
その時は、どうかよろしくお願いします。
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