2章 ゴブリンバースト

第14話 罪と日常

 心臓を取り出したい気持ちになっております。

 昨日、俺は妹を助けるために怖いお兄さん、たぶんあれは怖いお兄さんだったよね? を吸収しちゃいました。

 アタイ、そんな悪いことをする子じゃないですけぇ。

 妹が攫われて頭に血が上っていました。

 やっちゃったよ感が半端ねぇー。

 近藤さん曰く、従業員って言っていたから普通に働くサラリーマンだったのかも、とか思ったら、罪悪感が半端ねぇー。

 本当に何してますの? アタイ、サラリーマンを吸収したんじゃありませんか?

 でも普通のサラリーマンが女の子を攫って、あんな悪い顔をするのか?

 上司の命令だからするのか?

 悪の根源である近藤の馬鹿野郎だけを吸い込めばよかったんじゃないだろうか?

 つーか吸い込むって何だよ?

 こんなチートスキルもう使わねぇー。

 昨日も簡単にベテラン冒険者を倒してしまって、俺TUEEEEEEEをやってしまったけど、俺って本当に強いのか?

 もう逆に俺TUEEEEEEなんてカッコ悪いんじゃないのか?

 Eを何個付けるのか正しいのか?

 俺にはわからねぇー。

 何もわかんねぇー。

 そもそも殺人じゃないのか?

 殺人がバレたらどうしよう?

 俺、刑務所に入るのかな?

 考えただけで泥沼である。

 1342番とか呼ばれてしまうのだろうか?

 何年刑務所に入るんだろうか?

 少なくとも五人は殺したから、すごい年数入るんじゃないだろうか?

 刑務所から出て来た時には、数十年の月日が経ってしまって、シャバの事を何も知らないんだと思う。

 もう携帯電話って体に埋め込む式になってるの? って驚くんだろう。

 つーか数十年も刑務所に入るんだから、その間はダンジョンに入らずに済むだろう。

 それもそれでいいか、と思えるほどにダンジョンって恐怖である。

 だから近藤さんは悪いことをしてもダンジョンから免れようとしたんだろう。

 悪いことがバレて刑務所に入ったとしても、それはそれでダンジョンから免れるから。

 だって魔物に殺される、ってそれだけで恐怖なのだ。



 ささくれた状態のまま学校に行く。

 教室ではいつも明るい小林光太郎くんを演じるために「おっは〜」とか言う。

「あれ〜? なんか元気なくない?」

 名前を語るまでもない友達に言われる。

 この名前を語るまでもない友達、って言い方も本当は好きじゃない。

 しょせんアタイは犯罪者ですけぇ、そんな奴に名前を語るまでもないと偉そうなことを言える立場じゃないような気がする。

 そもそも主要キャラクターしか名前は書かないつもりだった。

 だって読んでいてパニクるじゃん。

 めっちゃ人が出てくる。コイツもコイツも主要キャラなのかな? そうなるぐらいなら名前なんて書かないでおこう、そう思って名前を語るまでもない友達、というカテゴリーができてしまったのだ。

 俺みたいな犯罪者でも友達がいる。

 何も知らない友達の愛おしいこと。

 コイツは堀川一之助。モブである。迷うことなきモブである。短髪。ソフトマッチョ。サッカー部。

 主要キャラじゃないので覚えなくて全然いい。だけどオイラの友達です。

 さっきから心が乱れすぎて一人称もバグってる。

 人を殺しちまったよ、それが俺をバグらしている。

「いやいや、いつもこんな感じよ?」

「顔真っ青じゃん。ドラえ◯んばりに」

「の◯太くん。そんな事を言ったって道具は出してあげられないんだよ」

 今、俺が出せるのは骨ぐらいなんだよ。昨日吸収してしまったお兄さん達の骨ぐらいなんだよ、の◯太くん。

「昨日ダンジョンに行ったんだろう? なにかあった?」

「女の子と出会ったぐらい。同じ学校の」

「えっ、誰よ? よかったじゃん?」

「新庄かな、って知ってる?」

「おぉ、あの綺麗な子?」

「有名?」

「有名有名。あの子もたしかに冒険者だったよな。うちの学校って光太郎も含めて二人も冒険者いるんだよな。めっちゃキツそうな女の子でしょ」

「そうそう。キツそう」

 他愛ない会話をして、授業が始まる。

 俺は授業中に机の下で調べ物をしていた。

 ダンジョン。あの入り口の黒い渦のことをゲートと呼ぶ。

 それ以外にわかっていることは、やっぱり異世界と通じているということ。

 その異世界は二つの説があるみたい。

 パラレルワールドの地球という説と、別の惑星という説。

 どちらが正しいかはわからない状態らしい。

 小難しいことを書いていたから詳細は読まなかったけど。

 俺の称号である『成長する者』を検索したところ、何も引っかからなかった。

 俺以外に魔物のスキルを使える人がいるのかは不明である。

 そういえば昨日近藤さんに攻撃された時、彼のスキルも手に入った。

 攻撃されたらスキルが手に入るのか?



 次の休み時間に噂の綺麗な女の子が俺のクラスにやって来る。

 しかも俺に会いに来たらしい。

「次のダンジョンからパーティー登録しましょう」

 と新庄かなが言った。

 彼女は綺麗な黒髪を耳にかけた。

 髪から見える綺麗な耳。

 フィギアじゃないかな、って思うぐらいに美しい。

「了解」

「光太郎って何ランク?」

「F」

「ほとんど一人でスライムを倒してたじゃない。たぶんFじゃないんじゃないかな」

「そうかなー? 別にFでいいけどー」

 そんな事を喋っていると校内放送が流れる。


『緊急事態発生。緊急事態発生。〇〇市でダンジョンがバーストしました。魔物が近隣をうろついています。ただちに生徒達は体育館に避難してください』


 俺と新庄かなは見つめ合う。

 これってもしかして恋の始まりかな?

 そんな事は無いっす。

 ただ見つめ合っただけである。



 バーストしたのはあのダンジョンである。

 ミクと毎日のように行っていたダンジョン。

 親友を飲み込んだダンジョン。

 〇〇市は歓楽街のある場所でもあった。

 だから俺が昨日犯した罪もうやむやにできるかも、みたいな事を思った。

 だけど一人の罪が免れてよかった、というようなレベルじゃなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る