第11話 怒る女子高生との出会い

 2回目のダンジョンに入ろうとしていた。

 ダンジョン前の仮設ハウス。

 あれだけ断ったのに、田中中と再びダンジョンに入ることになってしまった。

 このデブはミクにまで迷惑をかけて俺のラインを聞き出し、毎日のようにラインを送ってきやがった。

 毎日というより毎時間である。

 しかも、この肥満児ときたら、ダンジョンへのお誘いラインが邪魔臭くなったのか最終的には自撮り写真を送ってくるようになった。

 もちろんブロックした。

 だけど物理的にブロックはできなかった。

 次に肥満児がやった行動はミクにアタックをかけたのだ。俺と一緒にダンジョンに入るように毎日、いや休み時間になったら言うようになったのだ。

 あまりにも彼女が迷惑していたから、仕方なく次のダンジョンは一緒に入ることになった。その代わりミクに喋りかけないように、というのが条件である。

「なんで、そこまで俺に固執するんだよ?」

 と俺が尋ねると田中中は驚いていた。

「固執なんてしてないよ。何を勘違いしてるの? バカなの? いや、バカなの? これだけ誘ったのは、あれだよ。好きな女の子に対してはいきにくいけど、別にどうでもいい子に対しては簡単にいけちゃう的なやつだよ」

 それを聞いて正直に言うとすげぇー殺したくなった。

 ダンジョンに入ったら、間違えて脳天を銃で撃ってやろうか? と本気で考えている。

 ……いや、撃たないんだけど。たぶんね。たぶんだけど。

 そしてダンジョン前の仮設ハウスには俺を含めて五人の冒険者が集まっている。

 みんな、どこかオドオドしている。

 大学生ぐらいの男性が三人。

 ダンジョンに馴れている人間じゃないらしく、三人ともジャージにプロテクターという装備だった。

 そしてデブは相変わらずチグハグな装備をしている。上は大きな甲冑、下はジャージとプロテクター、安全第一と書かれたヘルメットを装着して、大きな銃を持っている。

 安全第一のヘルメットは前のダンジョンで無くしていたはずだから、この肥満児は同じ物を買い直しているのだ。

 そして、もう一人。女子高生である。

 今から学校に行きますよ、って格好をして、腰に日本刀を装備している。

 防具的な物は一切着けていない。

 逆にダンジョンに馴れているから制服で来ているようにも見える。しかも俺と同じ学校の制服である。

 ダンジョン帰りに学校に行くつもりなんだろうか? 

 それ以上に気になったのは俺のことを睨んでいるという点である。

 どこかで会っているのかも? 

 たぶん毎日のように学校で顔を合わせているのかもしれない。

 だけど喋ったことはない。

 だって知らないもん。

 黒髪ストレートでキリッとした美人である。

 触ったら装備している日本刀で切られそう。

「それじゃあ新入りが、荷物持ちな」と田中中が言った。

 うぜぇー。

「新入りじゃなくて小林光太郎だよ」と俺が言った。「せめて名前で呼べよ」

「名前で呼ばれるぐらいには、頑張れよ」

 本当にコイツ殺していいですか?

「それに俺が荷物持ちでいいのかよ?」

「一応みんなにも聞こうか? 彼がダンジョン2回目だけど、それよりも経験が少ないという方おられますか? あるいは小林光太郎よりも弱いよ、って方いられますか?」

 誰も手をあげない。

「ほら君が荷物持ち決定だ」

 本当にコイツ殺していいですか?

 次は絶対にコイツとダンジョンに入らないから。

「それよりあなた達のスキルを知りたい」

 と女子高生が言い出した。

「まずは名前から紹介させてください」と田中中が言う。

「僕の名前はサトウ○ケル」

 もういいって。このくだり俺は2回目である。

「サトウ○ケル?」

 と女子高生が聞き直す。

 聞き直してるんじゃねぇーよ。

「昔は仮◯ライダーとかも出演させていただきました」

「……」

「嘘嘘。サトウタケルじゃないよ。あまりにも似すぎていて本物だと思ったかい? 握手してあげようか?」

「死ね」

 女子高生が長蛇の列に並んでいる時のようにイライラしているような顔をして、呟いた。

「田中中と言います。高校一年生です。スキルはヒールです」

 すぐに本名を言った。

「どれぐらいの傷が治せるの?」

「言う必要あるかな?」

 田中中が言うとイラッとした顔を女子高生がする。

「これからダンジョンに入るのよ。私が怪我したらアナタに頼ると思う。だから知ってる必要があると思うんだけど」

「将来的には死んだ人間も生き返させたいと思っております」

「将来の話をしてるんじゃないわ。死ね」

「ごめんなさい」

「っで、どれだけの傷が治せるの? 二度言わせないで」

「……擦り傷を1日、1回だけです」

「ゴミね」と女子高生が言った。

 俺が言うのも何だけどゴミだ。よくコイツは擦り傷だけで俺にマウント取って来てたな。

「レベルアップして、将来的には大怪我も治せるようになりますので」

 どんどんと田中中も萎縮している。

「将来の話を聞いているんじゃないわよ。何回言わせるの。私は今の話を聞いているの。ゴミ」

「しゃーません」

 田中中が凹み過ぎてしゃーません、って言ってる。

 後の大学生三人も名前とスキルを言った。三人とも実戦で使えるレベルの物じゃなかった。

「はぁー」と女子高生がため息をついた。

「まぁ、Fランクだから仕方がないか」

「そういう君もFランクじゃないのかよ?」と田中中が尋ねる。

「私はDランク。名前は新庄かな。スキルは炎」

 そう言って彼女は日本刀を抜いた。

 日本刀には咲き乱れるような炎が覆われていた。一気に仮設ハウスの中が暑くなる。

 近づいただけで溶けてしまいそう。

「ココではスキルは使用しないでください」

 ダンジョンの受付をしている軍人女性が言った。

 新庄かなは女性を睨み、ゆっくりと日本刀を鞘に閉まった。

 たしか炎のスキルを持った人間は怒りっぽかったんだっけ? たしかに、そんな感じする。

「お嬢がいればダンジョンも攻略できますね」と田中中が言った。

 急にお嬢? コイツもしかして強い奴には下手に出るのか?

 次は自己紹介、俺のターンか?

 スキルのことはどうしよう?

 そう言えば田中中は俺のことを心を読むスキル、って勘違いしているんだっけ?

 それに魔物の声も聞こえるように成長している。その事を言えばいいのか?

「それじゃあ次は俺だよね? 俺の名前は小林光太郎」

 と俺が言う。

「アナタの事は知ってるわ。スキルが無いのよね」

 田中中が驚いた顔で俺を見ている。

 その顔、すげぇームカつくんですけど。

「お前に小林光太郎、って名前はもったいないね」

 と田中中が千と千尋の◯隠しの魔女の真似をする。

「今日からお前は太だ」

「どこの文字を取ってんだよ」

 ツッコミたくないのに、ツッコンでしまった。

「お前は一生、荷物持ちだな」と田中中が言う。

「それじゃあ、今回は初見ダンジョンだし、お嬢以外はスキルは使えるようなもんじゃないし、強そうな魔物がいたら逃げて帰ってこよう」

 と急に田中中が仕切り始める。

「ゴミが仕切るな」と新庄かなが言う。

「へい。お嬢」

「でも、その方向性でいいと思う」


 大きなリュックに荷物をまとめて、俺は背負った。

 そしてダンジョンに入って行く。

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