第6話 誰も癒せないヒーラーとの出会い

 仮設ハウスのパイプ椅子で待っているとヤバい奴が入って来た。

 上は大きな甲冑、下はジャージとプロテクター、安全第一と書かれたヘルメットを装着して、大きな銃を持っていた。

 それとアイドルの缶バッチがいっぱい付いた大きなリュックを背負っている。

 すごい巨漢で、一気に仮設ハウスの中が暑くなった。

 何をしてきたのか、すでにハァハァと荒い息をしている。

 お姉さんのアイパットに名前を記入して、緑の袋を受け取り、中を確認している。

「この四角い箱はなんですか?」と巨漢が尋ねた。

「そちらは食料です」

「お弁当持って来てますけど」

 と巨漢が言った。

 ほら俺以外にも弁当を持って来ている奴いるじゃん。

「ダンジョンに入るのは3回目と記録があるんですが、今までダンジョンの中でご飯は食べれましたか?」

「食べれたことがないです。入った瞬間に道具も全てモンスターに取られていましたから」

「そうですか。だから中身を知らなかったのね」

「美味しいですか?」

 バリバリバリバリ、と封を開ける音がする。

「今食べたら、ダンジョンで食べる物が無くなりますよ?」



 目が合った。

 ヤバい奴が、積み木みたいな物を食べながら俺の隣に座った。

「新入りかい?」

 えっ? 俺、質問されてる?

「はい。今日が初めてです」

「僕、先輩。よろしくな」

 手を差し出してきたけど、コイツの手には今食べている積み木みたいな食べ物のカスがいっぱい付いている。

 仕方がねぇー。ココで印象が悪くなっても嫌だし、と思って汚い手を握った。

「わかんない事があったら、なんでも僕に聞きな」

 さっきダンジョンに入るのが3回目だと聞こえていたんだけど。

「僕の名前はサトウタ○ル」

「サトウタ○ル?」

「君もよく知るサトウ○ケルだよ。昔は仮◯ライダーとかもやっていた」

 超、やべぇー奴のチームに入れられてるじゃん。最悪じゃん。死にゲーじゃん。

「嘘嘘。サトウ○ケルじゃないよ。あまりにも似すぎていて本物だと思ったかい? サインあげようか?」

「いらないです」

「本当の俺の名前はオグリ○ュン」

「ぼくは小林光太郎と言います」

「本物のオグリ○ュンだと思ったかい? 嘘嘘。サインあげようか? あぁ自分の美貌が妬ましい」

 無視しよう、と俺は決めた。

 もうコイツとは喋らないでいよう。

 それに太っているから隣に来られるだけで暑苦しい。

「……」

「田中と言います」

「……」

「変な嘘ついてごめんね」

「……」

「田中中と言います。下の名前が中ってウケるでしょう? これマジなんだよ」

「……」

「ごめんって」

 仕方がねぇー。今日はコイツと1日一緒にいるんだ。

 空気悪くしたくないし。

「よろしくお願いします」

 と俺が言う。

「君、歳いくつ?」

「17歳です」

「おっ、僕も17。っで、誕生日はいつ?」

「誕生日は12月」

「僕は9月だから、ちょっと君よりお兄さんか」

 誕生日でマウント取って来る奴、初めて見たわ。

「なんでも僕を頼ってくれていいんだよ。先輩だしお兄さんなんだから」

「いや、結構です」

「僕の職業はヒーラー。職業通り、スキルはヒーリング。治すぜ。めちゃくちゃ傷治すぜ」

「職業?」

「職業知らない? ジョブのことだよ。ジョブ」

 うぜぇー。

 ちなみにスキルによって職業という概念は存在しない。

 そんなのあるのはゲームの世界だけである。

 冒険者は、全て冒険者というくくりである。

 職業ヒーラー、ってコイツが勝手に言っているだけである。

 職業を言うのなら、コイツも俺も冒険者である。

「ちなみに武器にスキルを宿すタイプの人を剣士と僕は呼んでいる」

 田中中が言う。

 スキルには癖があるらしい。仮に炎のスキルを手に入れても、剣や道具に炎をまとわすのが得意なタイプがいる。そういう人の事をコイツは剣士、とカッコ良く言っているのだ。

「体にスキルをまとわす事ができる人の事を武道家と僕は呼んでいる」

 田中中が言う。

 得意不得意があるだけで、道具にスキルをまとわす事も、体にスキルをまとわすこともできたはずである。

「そして体からスキルを放出することができる奴のことを放○系」

「最後だけハ◯ターハ◯ターじゃん」

 ツッコンじゃった。なかなか俺はツッコまないよ。でもツッコンじゃった。

「スキルによる性格表って見たことある?」

「……まぁ」

 と俺が言う。

 スキルによる性格表、というのは占いみたいなもんである。

 一人に一つ与えられたスキルには性格が反映されていると思われている。

「炎系の人は怒りっぽくて、氷系の人は冷たい。そしてヒーラーは優しい人間が多いんだって。優しさに満ち溢れた素晴らしい人間が多いんだって。癒しそのものの人間が多いんだって」

「さよですか」

「冒険者スキルの唯一の当たりがヒールだよ。だってヒーラーだけ医療従事者として働く事ができるんだぜ。罰金を稼ぐことが簡単にできるから、ヒーラーは冒険者に少ないんだぜ」

 たしかに冒険者にヒーラーは少ないというのは聞いたことはある。

 それは冒険者にならずともお金を稼ぐ能力があるからだ。

 お金を稼げれば、あとは罰金を払えばいいだけ。

 もしかしたら、その罰金のお金がポーション等のアイテム支給に回っているのかもしれない。

 それじゃあヒールというスキルを持ちながら冒険者をやってるコイツは何なんだよ?

「どんな傷を治せるの?」と俺は尋ねた。

 もうコイツに敬語を使うつもりはない。同級生らしいし、なんかちょっとウゼェーし。

「将来的には損傷した箇所まで再生できるようになりたい」

 将来の話を聞いているんじゃねぇーよ。

「君は、どんなスキルなんだい?」

 コイツには絶対にスキルが無いことは教えちゃいけないような気がする。

 スキルがない事がバレればコイツは確実に俺のことをバカにするような気がする。

「言っちゃいけないスキルなんだ」

「えっ? もしかして心を読む系のスキルかい?」

「……」

「僕の心を読むな」と田中中が謎に焦っている。

 コイツは何を勘違いしているんだろうか?

「僕は、あの女性のイヤラシイ事なんて考えていない。決して考えていない」

 女性軍人様が顔を引きつらせていた。

「田中はあの女性のイヤラシイ事を考えてる」

「……コイツすげぇ」


 仮設ハウスに三人の冒険者が入って来た。

 三人は先輩冒険者らしく、防具も整っていた。

 似合っている甲冑。でもゴテゴテしていなくて、オシャレに見えるように布地の部分もある。

 使い込まれた剣や銃。

 三人とも二十代の男性で、大人の雰囲気を持っていた。

 他も田中中みたいな奴等だったらどうしよう? っと思っていたので、ちょっと安心した。

 田中中はパイプ椅子から立ち上がり、「おはようございます」と元気に挨拶していた。

 俺も田中中に習って、椅子から立ち上がり、挨拶をする。

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