第3話 ステータス検査

 ステータス検査の日。

「今からステータス検査を始めたいと思います」

 持ち物検査みたいなノリで、担任の先生が言った。

 男性三十代半ば、黒のジャージの担任の先生がステータス検査の球体を持って、窓側の一番目の席から順に歩いて行く。

 あの球体はステータスが与えられたかどうか測るためのものらしい。

 手をかざせば、ステータスが無い者は青く光る。

 ステータスが与えられた者が手をかざすと、赤く光る。

 つまり赤く光れば冒険者という事である。

 俺の席は、真ん中の一番後ろだった。

 みんなが手をかざして、青く光らして行く。

 そして俺の席までやって来る。

 胸の鼓動が秒針のように聞こえた。

 もしかしたら神の声が聞こえたのは、何かの勘違いだったんじゃないか? 

 青く光れ、と思いながら、占い師が使う水晶球ぐらいの球体に手をかざした。


 赤く光った。


 先生が俺の顔を見た。

 何か言いたげで、でも何を言ってあげればいいのかわからないという表情だった。

 クラス中がコチラに視線を向けていた。

 月に一度のなんて無いステータス検査。

 まさか赤く光る奴がいるなんて。

 身近に冒険者になった奴はいる。だけど俺だって赤く光る球体を見るのは初めてだった。


「そっか」と先生は呟いて、俺の肩を優しくポンポンと叩いた。

 そして先生が歩き始め、クラスメイトが球体に手をかざしていく。


「小林」

 隣の席の友達が俺の名前を呼んだ。

 特に説明するようなキャラクターでもないので名前は書かないでおく。そこら辺にいる友達の一人である。

「小林、お前」

 彼は立ち上がり、俺の頭をギュッと抱きしめた。

「アンさんの胸で泣いてもええんですか?」

 と俺は尋ねた。

「お前……」

「髪セットしてるで、髪の毛クシャクシャにしないで」

「お前……」

「俺のこと好きなのはわかるけど、ココではやめて。また続きはお家で」

「代わってあげたいぐらいだ」

「それじゃあ代わってくれ」

「それは無理」

 と友達に言われる。


 小林、と先生に呼ばれる。

 友達の抱擁から解放され、俺は立ち上がり教卓の前に行く。

 何人かのクラスメイトが泣いている。

 自分で言うのもなんだけど、友達は多いタイプだった。

 女の子も泣いている子がいた。

 自分で言うのもなんだけど、ちょっとだけモテていた。

 教卓に行く途中、泣いている女の子の元に立ち止まった。

 女の子、と書くのは特に説明するキャラクターでもないからである。

「泣かないで」と俺は言った。

「でも小林くんが」

「泣かなくてもいいんだよ。君が俺と代わってダンジョンに行ってくれたらいいだけなんだから」

「それは無理」と女の子にバッサリと言われる。



 教卓の前まで行く。

「あれだな」と先生が言った。

「お前はバカだし、運動もできないし、我慢もできないから、卒業して就職してもロクな人生が送れないと思ってた。だから冒険者になれてよかったじゃん。逆にラッキーじゃん。明るくいこう。それしか取り柄ないんだから」

「先生」と俺は言った。「励ましてくれているようですけど普通に傷ついています。俺ロクな人生送れないと思われてたんですか? 明るいしか取り柄がなかったんですか?」

「すまんすまん。冒険者になれて逆にラッキーだったな」

「俺でも冒険者になって、ちゃんとアンラッキーだわ」

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