スキルを持たないバカ冒険者が女の子とキスしたら魔力が全回復するようになり、やがて幼馴染を救うために魔王と戦う(旧題:無能な馬鹿が世界最強)
お小遣い月3万
1章 覚醒するバカ
第1話 神に選ばれたバカ
赤紙が届いた。
実際に郵便ポストに赤い紙が入っていたわけじゃない。
赤い紙というのは、戦争に行く人に送られたというハガキである。
昔の人は、その赤い紙を見て、頭の中が真っ白になって息をするのも忘れたんだろう。オシッコを漏らした奴もいるかもしれない。うんこを漏らした奴もいるかもしれない。
自分が戦争に行く。戦争に行けばどうなるのかわかっている。
体の水分が穴から逃げて行くような感覚がする。
日本バンザーイじゃいられない。
俺は戦争に行くことになってしまった。
戦争といっても、国と国との争いごとじゃない。
世界各地に現れているダンジョンに入るのだ。
ダンジョン。それは三十年前から出現する異世界の扉。
誰もが見たことはある。あの禍々しい黒い渦の中に入る許可が降りてしまったのだ。
『ダンジョンへの入場を許可します』
ネット番組を見ている時に脳内から声が聞こえた。
神様の声、とも言われている。
その声は機械的のようでも、受付の優しいお姉さんの声のようでもあった。
『それに伴い、『成長する者』の称号が与えられました』
初めは空耳だと思った。
いや、そう思いたかった。
だって俺すげぇーヒョロイんだぜ。
運動なんてしたことないもん。
ミスター帰宅部とは俺のこと。
俺こそが帰宅部のエース。帰宅を愛し、帰宅に愛された男。それが小林光太郎という男。
そんな俺が命のやり取りをするダンジョン? 無理に決まってるだろう。
ダンジョンに入ったら一撃で死んでしまう。
なんだったら石につまずいただけで死んでしまう。
なんだったらクリボーにぶつかっただけで、地面にめり込んで地球の底まで落ちてしまう。
それぐらいに貧弱なのだ。
筋肉という物が世の中にはある、というのは噂で聞いたことがある。
だけど俺の体のどこにも筋肉は付いていない。オプションを付けていないシンプルボディーなのだ。
神様もバカじゃないんだから、俺にダンジョンの入場を許可するなよ。
俺が空耳だと思っている神様の声は、それ以上は聞こえなかった。
キッチンでは母親が洗い物をしている。
俺の隣には中学生になったばかりの妹がモコモコパジャマを着て、シャンプーの匂いをさせながらオレンジジュースを啜っていた。
「お兄ちゃん、顔が真っ青だよ」
と妹に言われる。
「ファンデーションが合ってないのかしら?」
思わず俺は冗談を口にした。
「キモっ」
妹の純子がタンスに小指でもぶつけたような顔をする。
ダンジョンへの入場を許可された事を妹に言える訳がない。
父親が冒険者になったのは一年前だった。
ヒョロいジジィが冒険者になってもダンジョンで生きていける訳がない。
父親はダンジョンに行ったきり帰って来ていない。
誰もダンジョンに入りたくないのだ。
だから出来ればダンジョンの入場券を誰かに譲りたい。
そして身内にもダンジョンに行ってほしくない。
だけどダンジョンの入場を許可された者は、ダンジョンに入る義務がある。
それを断ると罰金が課せられた。
冒険者は週に一度ダンジョンに入る。そして、そのダンジョンに見合った報奨金を国から貰う。ダンジョンの中のアイテムは冒険者の物とする。
ダンジョンの入場を断る場合、または失敗した場合は罰金が課せられる。
うちには罰金を払い続けるお金がなかった。
多額の罰金を払い続ける事ができる家庭なんてないだろう。
だから父親はダンジョンに行ったのだ。
死ぬために行ったようなもんである。
冒険者になったら、いつかはダンジョンで死ぬ。
昨日、ステータス検査が行われたばっかりなので、次のステータス検査が行われるのは、ちょうど一ヶ月後である。
ダンジョンへの入場を許可されたことがステータス検査でバレると、それからの俺の人生は冒険者になる。最悪である。
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