獣のように愛し合いたい

「魔王様、おはようございます」

「おはようルミナス」

「……………」


 昨夜、ニアと結ばれた翌日の朝のことだ。

 風邪を引かないようにと体を温かくする魔法に包まれ、俺はニアと共に裸のまま朝を迎えた。そうして目覚めた瞬間、俺たちの前にはルミナスが立っていたのだ。

 ルミナスは裸の俺たちを見ても顔を赤くしたりはせず、逆にホッとしたように安堵した様子だった。


「やれやれ、ようやくと言ったところですか魔王様?」

「えぇ。やっとノアと繋がることが出来たわ♪」


 そう言ってニアは俺に抱き着いた。

 いつも俺を胸に抱くのではなく、俺の胸に頬を預ける形で身を寄せてきたのだ。いつもは俺が甘える感じなのに今はニアが俺に甘えていた。


「ふふ、可愛らしいお姿です。それとノア様、ニア様を受け入れてくださりありがとうございます」

「いや、むしろお礼は俺の方が言わないとっていうか……」


 こんな俺を……って、いくら自分が小さな存在だからってあまり卑下するのもダメだよな。俺は頭を振って、これからもニアを支えていくことを約束した。まるで自分のことのように喜んでくれたルミナスが部屋を出て行き、俺とニアも着替えてリビングへと向かった。


「結婚式はどうしようかしら」

「そうですねぇ。しかし色々と邪魔なことは多そうです。むしろ、私たちの間で共有するだけでも良いのでは?」

「それもそうね。うるさい連中が多いのも確かだし、そこも全部掃除してから改めてお祝いをしましょうか。私……ううん、私たちの関係は誰にも邪魔させない。邪魔するものは消滅させてあげる」


 ニアの言葉に連動するように、漆黒の魔力が漏れて出た。だがすぐにニアは我に返ってその暴れだそうとしていた魔力を引っ込めた。


「ごめんなさいね。まあでも、ノアは何も心配することはないわ。私と一緒になるからと言ってだからと思う必要はないの。私、ただのとそう思いなさい」

「……はは、分かった」


 それにしても結婚……お嫁さんかぁ……ちょっと実感がないのは確かだ。

 ボーっとしながら朝食を食べていると、クスッと笑ってルミナスが口を開いた。


「あまり気負いせず今まで通りで良いのですよ。ノア様が想いノア様を想う相手との関係が少し深くなるだけのことですから」


 ……よし、分かった!

 とはいえ、ニアに聞いてから思っていたことだが複数の人とそういう関係になることがどうにも想像出来ない。現代日本での考えが抜け切らないのだが……でも、俺を想ってくれる人たちの気持ちに応えたいというのは間違いない。


「今日は一日ノアとイチャイチャしたいところだけど……残念なことにまた魔王としての仕事があるのよねぇ」

「仕方ありませんよ。ですが、いつもより頑張れるのではないですか?」

「当り前じゃない。ノアと深い関係になれたのもあるし、何より温かなものが内側で流れているのを感じるの。うん、最高の気分だわ」

「ごほっ!?」


 あまりに生々しい表現に俺はちょっと咽てしまった。

 咳をする俺を見てニアが謝ったが、それでもニアはただただ幸せそうだった。朝食を経てニアはルミナスと共にあちら側に戻ったが、どうしてか昨日に続いて今日は何かがあると俺の勘が囁いていた。


 そして、数時間が経過した夜のことだ。


「ほらノア君、背中を流すわね」

「……あい」


 俺はリリスと共に、彼女の屋敷にある大きな浴室に居た。

 こうしてこの屋敷の風呂に入るのは初めてだが……流石の大きさってやつか。大きさってのは風呂のことでリリスの胸じゃないぞ? って俺は何を言ってんだ。


「さあ楽にして。私が綺麗にしてあげるから」


 ……楽になんて出来ないんですがそれは。

 さて、どうして今こんな状況になっているかだが……単純に連れてこられたのだ。ニアとルミナスが居なくなり、それから暇を潰していた俺の元に彼女がやってきたのである。


『魔王様の代わりに私が今日はノア君と過ごすわね♪』


 いつもよりも機嫌が良さそうな様子で、しかも更にスキンシップが激しかった。

 ニアとのことを祝福されはしたが、一緒の風呂に入ったことを教えると対抗意識を燃やしていたので……まあそういうことだ。


「……あ~♪」


 優しく背中を洗われる感覚はやっぱり心地良い。

 リリスから齎される感覚に目を細めていると、ニアがしたようにリリスもまた俺の背中に抱き着いた。ニア以上に大きな胸の感触をダイレクトに感じ、のんびりしていた気分が一気に恥ずかしいものへと変化した。


「色々と聞いたのでしょう? 私もノア君のことを愛してるってことを」

「……あぁ」


 胸を背中に押し付け、腕をお腹に回して抱き着いたままリリスは言葉を続けた。


「ノア君、愛してるわ。あなたのことを想うだけで心がキュンとしちゃうの。サキュバスの女王としてはまるで生娘みたいな心持ちだけど、それくらいにあなたのことがいつも頭から離れないの」


 そこで一旦言葉を切り、リリスは俺から離れて移動した。

 俺の正面に立った彼女は当然何も身に着けておらず、上も下も大事な部分が全て丸見えだった。


「見てノア君」


 そう言ってニアが指を当てたのは下っ腹の紋様だ。


「前にも話したけど、これは私とノア君を繋ぐ契約なの。サキュバスの契約は特別なモノで、その契約をした相手としか愛し合うことは出来ない。この紋様があるサキュバスは既に心を捧げた相手が居ることの証明なのよ」


 紋様が契約の証とは聞いていたが、その契約の内容までは聞いていなかった。

 つまり、あの時からずっとリリスは俺に心を捧げていたということになる。あの時からずっと、リリスは俺に全てを捧げる覚悟をしていたということだ。


「本当ならもっとロマンのある言い方もあったでしょう。でも私はどこまで行ってもサキュバス、それならば恋に関しても勢いのまま攻めるのが私らしいわ」

「むっ!?」


 俺と見つめ合うようにその場に腰を下ろしたリリスがキスをしてきた。決して触れ合うだけの優しいものではなく、しっかりと舌と舌を絡め合う激しいキスだった。

 ニアの時のような初々しいものではなく、完全にリリスに主導権を奪われるような感覚に脳が蕩けそうになる。


「可愛いわよノア君。でもその前にこれだけは教えて……私もノア君の大切になってもいいかしら? あなたを愛し、愛されてもいいかしら?」


 その問いかけに俺は頷いた。


「あぁ。リリスのことも俺は大切にしたい! ずっと傍に居てほしい!」

「っ……ノア君!!」


 そして強く、その豊満な胸に抱きしめられた。

 しばらく感触を堪能するように抱きしめられていたが、体を離したリリスは優しい瞳で俺を見つめながらこんなことを口にした。


「正直、今日ノア君とこうなれることは確信していたわ。だから見て、もう我慢出来ないってあなたを求めてる。自制の利かない魔獣のように涎を垂らしてるの」


 ……リリスの口から齎される全ての言葉がエッチすぎるし、纏う雰囲気も醸し出される空気も全てがエッチだった。これがサキュバスクイーン……俺は本当に大変な相手を目の前にしているのだろうか。


「ロマンのある言葉も雰囲気も憧れるわ。でも今はお互いに全てを忘れて夢に浸りましょう。ただただ、相手を求めるだけの獣となりましょう。さあノア君、あなたの全部を貪らせて? その代わり、私のことも思う存分貪ってね?」


 愛してるわ、そんな言葉を最後に俺はリリスに押し倒されるのだった。





「魔王様」

「どうしたの?」

「……ノア様は大丈夫でしょうか」

「リリスもその辺りは配慮するでしょう。でも私としてはリリスには是非とも色々と教わりたいのよねぇ」


 そんな会話がされていたとかなんとか。

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